長時間労働による過労自殺が社会問題となったのを機に「働き方改革」への関心が高まる中、経済産業省などが先月、従業員の健康に配慮した“健康経営”により組む企業・法人を「健康経営優良法人」に初めて認定しました。
製薬会社では、大塚製薬や塩野義製薬など14社が認定を受けました。別名「ホワイト500」とも呼ばれるこの認定制度。一体どんな制度で、認定を受けた製薬会社はどんな取り組みを行っているのでしょうか。
“健康経営”を評価…イメージ向上 人材確保に期待
「健康経営優良法人」認定制度とは、生活習慣病対策や過重労働対策など、従業員の健康に配慮した“健康経営”に取り組む企業を顕彰するもので、「ホワイト企業」に国がお墨付きを与える制度です。政府が昨年6月に閣議決定した成長戦略「日本再興戦略2016」に、柱の1つである「世界最先端の健康立国」を実現するための施策として盛り込まれたのを受けて創設されました。
認定制度には「大規模法人部門」と「中小規模法人部門」の2種類があり、大規模法人部門には「ホワイト500」という別名がつけられました。経済産業省は2020年までに大規模法人部門の認定法人を500法人まで増やすことを目指しています。初の認定となった今年は、ホワイト500に235法人、中小規模法人部門に95法人が選ばれました。
製薬企業でホワイト500に認定されたのは、大塚製薬や塩野義製薬、大日本住友製薬、田辺三菱製薬など14社。外資系製薬企業では、グラクソ・スミスクラインが唯一、認定を受けました。
ホワイト500の認定を受けるためには、経産省が行う「健康経営度調査」に回答した上で、▽健康課題の把握▽健康増進・生活習慣病対策▽過重労働対策▽メンタルヘルス対策――などの要件をクリアする必要があります。
過酷な労働を強いるブラック企業の存在が社会問題となり、働き方への関心が高まる昨今。企業側にとっては、国からホワイト企業と認められることで、企業のイメージがアップし、優秀な人材の確保につながると期待されます。
経産省は「健康経営に取り組む優良な法人を『見える化』することで、従業員や求職者、関係企業や金融機関などから『従業員の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に取り組んでいる法人』として社会的に評価を受けられる環境を整備する」としています。地方銀行や信用金庫などの間では、低利融資を行うなど健康経営に取り組む企業を優遇する動きも広がっています。
「喫煙率ゼロ」「全社員に活動量計」…製薬会社の取り組みは
人の生命や健康につながる医薬品を扱っているだけに、製薬会社の取り組みには力の入ったものが目立ちます。
ホワイト500に加え、経産省と東証が健康経営に取り組む上場企業を毎年1業種1社だけ選ぶ「健康経営銘柄」に2年連続で選ばれた塩野義製薬は「喫煙率ゼロ」を目指す取り組みを展開。事業所での喫煙場所の制限や禁煙治療の費用補助などを通じ、08年度に27.5%だった喫煙者の割合は、15年度には17.1%まで低下しました。昨年1月からは、糖尿病性腎症の重症化予防や、脳血管疾患・心疾患の発症予防を目的とした事業も始まっています。
15年に「健康経営銘柄」に選ばれたロート製薬は、14年に「チーフヘルスオフィサー」(CHO=最高健康責任者)を設置し、副社長が就任。16年には人事総務部内に「健康経営推進グループ」を置き、女性社員の婦人科健診の無料化、カジュアルサマータイム(30分早い出社・退社の推奨)などを行ってきました。今年は、会長や社長以下、全社員が活動量計を身に着け「1日8000歩、20分以上の早歩き」に取り組んでいます。
大塚製薬は30歳以上の社員の人間ドック受診の無料化、24時間無料健康相談、社員・家族向けの健康セミナーなどの取り組みを実施。グラクソ・スミスクラインは「今年1月には、最大40の疾病予防サービスを少額の自己負担または自己負担なしで社員とその家族を対象に提供する新たな疾病予防プログラムを導入した」(フィリップ・フォシェ社長)といいます。
経産省によると、健康経営に優れる企業の平均株価は、東証1部上場企業全体の水準を上回っているといい、「従業員等への健康投資を行うことは、従業員の活力向上や生産性の向上等の組織の活性化をもたらし、結果的に業績向上や株価向上につながると期待されます」(経産省)。あなたの企業はいかがですか?