
2024年に日本と米国、欧州で承認された主な新薬を領域別にまとめました。2回目と3回目は疾患領域別に解説。3回目は、「循環器・腎・代謝」「消化器」「皮膚」「感染症」「ワクチン」「その他」の6領域です。
- (1)【ビジュアルで見る】疾患領域・モダリティ・創薬国
- (2)領域別解説:がん/血液/神経・筋/精神・中枢神経/眼
- (3)領域別解説:循環器・代謝・腎/消化器/皮膚/感染症/ワクチン/その他
循環器・代謝・腎
米国で、世界初の非アルコール性脂肪肝炎(NASH)治療薬「Rezdiffra」が承認。米マドリガル・ファーマシューティカルズによって、多くの企業が開発に失敗してきたNASH治療に道が開かれました。Rezdiffraは甲状腺ホルモン受容体β(THR-β)作動薬で、肝臓の脂肪代謝を改善することで治療効果を発揮すると考えられています。日本国内の開発は確認できませんが、欧州でもマドリガルが申請中です。世界の有病者数は数億人とされ、大型化が見込まれます。
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肺動脈性肺高血圧症には、2つの新薬が承認されました。米ヤンセンの「ユバンシ/Opsynvi」は、エンドセリン受容体拮抗薬マシテンタンとPDE5阻害薬タダラフィルの新規固定用量配合錠。日本と米国、欧州の3極で承認を取得しました。米メルクの「Winrevair」は、アクチビンシグナル伝達を阻害する新規作用機序の治療薬として米欧で承認。血管構成細胞の増殖を制御する作用により、臨床試験では症状の悪化や死亡イベントのリスク低下が確認されており、有望な結果からブロックバスターとなることが期待されています。日本でも申請中です。
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肥満症領域では、米イーライリリーの「ゼップバウンド」が23年の米承認に続いて日本で承認を取得。有効成分のチルゼパチドは糖尿病治療薬としてすでに世界で販売されており、欧州では24年4月に適応拡大の形で承認されました。
このほか、米国では家族性高カイロミクロン血症症候群(FCS)に対する核酸医薬「Tryngolza」(米アイオニス・ファーマシューティカルズ)や野生型・変異型のトランスサイレチン型心アミロイドーシス(ATTR-CM)治療薬「Attruby」(米ブリッジバイオ)などの新薬が世界に先駆けて承認されました。FCSは、遺伝性の高トリグリセリド血症(sHTG)。Tryngolzaはより広範なsHTGに対する開発も進行中で、患者数の多い同疾患での適応拡大となれば大型化も期待されます。Attrubyは、市場で先行する米ファイザーの「ビンダケル/ビンマック」の競合品として注目が集まっています。
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消化器
消化器領域では、原発性胆汁性胆管炎に2つのPPARアゴニストが承認。米ギリアド・サイエンシズの「Livdelzi」が米国で、仏イプセンの「Iqirvo」が米国と欧州でそれぞれ承認されました。いずれも標準治療で効果が得られない患者が対象です。Livdelziは、ギリアドが米シーマベイ買収で獲得した製品で、欧州でも近く承認される見通し。日本では科研製薬が昨年11月にP3試験を開始しています。
皮膚
米国で承認された伝染性軟属腫(水いぼ)治療薬「Zelsuvmi」は、一酸化窒素を放出する局所ゲル。開発元の米ノバンからアセットを獲得した米リガンドが承認を取得しました。日本では佐藤製薬がP3試験を開始しています。
中外製薬が創製した抗IL-31受容体A抗体ネモリズマブ(一般名)は、導出先のスイス・ガルデルマが「Nemluvio」の製品名で米国の承認を取得しました。適応はアトピー性皮膚炎と結節性痒疹で、欧州でも近く2つの適応で承認される見通し。日本ではマルホが「ミチーガ」の製品名でアトピー性皮膚炎治療薬として承認を取得し、昨年3月に結節性痒疹に適応拡大しました。
アトピー性皮膚炎治療薬では、23年に欧州で承認された「イブグリース」が日本と米国で承認。AhR調節薬「ブイタマー」は、アトピー性皮膚炎と尋常性乾癬を対象に日本たばこ産業(JT)が日本で承認を取得しました。JTが日本でアトピー性皮膚炎治療薬として販売するJAK阻害薬「コレクチム」は、デンマークのレオファーマが欧州で慢性手湿疹治療薬「Anzupgo」として承認を取得。レオファーマはJTから全世界のライセンス供与を受けており、米国でも慢性手湿疹を対象に昨年9月に申請を行いました。
感染症
薬剤耐性を示すグラム陰性菌感染症に対するβラクタム阻害薬・βラクタマーゼ阻害薬の配合剤3剤▽「Exblifep」(一般名・セフェピム/エンメタゾバクタム、米欧)▽「Emblaveo」(アズトレオナム/アビバクタム、欧)▽「ザビセフタ」(セフタジジム/アビバクタム、日)――が承認されました。Emblaveoとザビセフタは、アッヴィとファイザーが共同開発するもので、北米ではアッヴィ、それ以外の地域ではファイザーが商業化を進めています。Emblaveoは現在、米国でも申請中です。
日本で承認された英アストラゼネカの「カビゲイル」は、COVID-19に対する長期間作用型抗体。スパイクタンパク質と宿主受容体ACE2との相互作用を中和して新型コロナウイルス感染症の発症を抑制するもので、免疫不全患者などワクチン接種の対象とならない人に使用されます。アストラゼネカはまた、日本でRSウイルス感染症の長時間作用型予防薬「ベイフォータス」の承認を取得。同薬は欧州で22年、米国で23年に承認されています。
このほか米国では、欧州では40年以上にわたって使用されてきたペニシリン系抗菌薬「Pivya」が尿路感染症を対象に承認を取得しました。
ワクチン
ワクチンでは、RSウイルスmRNAワクチン「mRESVIA」が米国と欧州で承認。米モデルナにとっては新型コロナワクチンに続くmRNAワクチンで、日本でも申請を済ませています。ファイザーの組換えタンパクワクチン「アブリスボ」は日本で24年1月に承認。23年に日米欧3極で承認されたGSKの同「アレックスビー」とともにRSウイルスワクチンの市場形成が加速しています。
米メルクの「Capvaxive」は、21価の肺炎球菌ワクチン。成人の侵襲性肺炎球菌感染症(IPD)の原因とされる21種類の血清型に対応しており、従来に比べて広範にIPDを予防できると期待されています。日本と欧州でも申請中です。日本では、20の血清型に対応するファイザーの肺炎球菌ワクチン「プレベナー20」も承認。米国で21年、欧州で22年に承認されています。
このほか日本では、塩野義製薬の新型コロナワクチン「コブゴーズ」が承認を取得。仏サノフィの腸チフスワクチン「タイフィム ブイアイ」とインフルエンザワクチン「エフルエルダ」、ファイザーのダニ媒介性脳炎ワクチン「タイコバック」も米欧に続く形で承認されました。
その他
その他の領域では、米ARSファーマシューティカルのアドレナリン点鼻液「Eurneffy/Neffy」が米国と欧州で承認。アナフィラキシーを含む、全身性のアレルギー反応に対して緊急投与できるスプレー剤で、日本ではアルフレッサファーマが昨年11月に申請を行いました。
造血幹細胞移植後の慢性移植片対宿主病(GVHD)に対しては、日本でROCK2阻害薬「レズロック」が、米国で抗CSF-1R抗体「Niktimvo」と同種骨髄由来間葉系幹細胞療法「Ryoncil」が承認されました。レズロックとNiktimvoは、GVHDの炎症と線維化の原因にアプローチする新薬。一方のRyoncilは免疫調整作用によって治療効果を期待する細胞治療です。レズロックはサノフィ傘下の米カドモン・コーポレーションの開発品で、日本では共同開発先のMeijiSeikaファルマが承認を取得。Niktimvoは米シンダックスと同インサイトが共同開発しており、日本と欧州でも開発が進行中です。
新規作用機序を持つ新薬としては、呼吸器領域で慢性閉塞性肺疾患(COPD)に対するPDE3/4阻害薬「Ohtuvayre」(英ベローナ・ファーマ)が米国で承認を取得。気管支拡張作用と非ステロイド性抗炎症作用を併せ持つ吸入薬で、欧州でもP3試験段階にあります。CXCR4アンタゴニスト「Xolremdi」(米X4ファーマシューティカルズ)は、希な先天性免疫不全症のWHIM症候群の根本原因にアプローチする初めての治療薬。米国で24年に承認され、欧州でも近く申請を見込んでいます。