
2024年に日本と米国、欧州で承認された主な新薬を領域別にまとめました。2回目と3回目は疾患領域別に解説。2回目は「がん(固形がん・血液がん)」「血液」「神経・筋」「精神・中枢神経」「眼」の5領域です。
- (1)【ビジュアルで見る】疾患領域・モダリティ・創薬国
- (2)領域別解説:がん/血液/神経・筋/精神・中枢神経/眼
- (3)領域別解説:循環器・代謝・腎/消化器/皮膚/感染症/ワクチン/その他
固形がん
抗体医薬では、アステラス製薬の抗CLDN18.2抗体「ビロイ」が、胃がん治療薬として日本と米国、欧州の3極で承認。米チェックポイント・セラピューティクスの抗PD-L1抗体「Unloxcyt」(適応・皮膚扁平上皮がん)と中国Cstoneの同「Cejemly」(非小細胞肺がん)は、それぞれ米国、欧州で3極初の承認を取得しました。Cejemlyは中国で21年に承認されています。
第一三共と英アストラゼネカが共同開発する抗TROP2 ADC「ダトロウェイ」は、日本で昨年末、米国で今年1月にHR陽性・HER2陰性乳がん治療薬として承認。アストラゼネカは同薬について、ピーク時に50億ドル以上の売り上げを見込んでいます。同クラスの「トロデルビ」(米ギリアド)も、米国の承認から4年越しに日本で承認されました。
二重特異性抗体では、▽DLL3/CD3標的の肺がん治療薬「イムデトラ」(米アムジェン)▽HER2/HER3標的の肺がん・膵臓腺がん治療薬「Bizengri」(オランダ・メーラス)▽HER2標的の胆道がん治療薬「Ziihera」(アイルランド・ジャズ ファーマシューティカルズ)――が米国で世界に先駆けて承認を取得。いずれも日米欧で開発が進んでおり、イムデトラは日本でも昨年12月に承認されました。分子標的薬としては、米イミュニティバイオのIL-15受容体アゴニスト「Anktiva」や仏セルヴィエのIDH1/2阻害薬「Voranigo」、スイス・ロシュのPI3K阻害薬「Itovebi」なども承認されています。
このほか、滑膜肉腫に対する英アダプティミューンのTCR遺伝子改変T細胞(TCR-T)療法「Tecelra」が米国で迅速承認を取得。患者の腫瘍組織に由来するT細胞免疫療法「Amtagvi」(米イオバンス)も米国で迅速承認を受けています。
血液がん
血液がんでは、米シンダックスのメニン阻害薬「Revuforj」が米国で初めて承認されました。メニン阻害薬は、MLL融合タンパク質や変異NPM1遺伝子タンパク質の白血病誘導を抑制する作用を持っており、特定の急性白血病などに効果が期待されることから開発競争が活発になっています。Revuforjは欧州でP3試験を進行中です。
米リジェネロンの「Ordspono」は、CD20とCD3を標的とする二重特異性抗体。24年8月に欧州で承認されました。米国でも申請を行っていましたが、確認試験の被験者登録が遅れていることから承認が見送られています。二重特異性抗体では、日本でもCD20とCD3を標的とする「ルンスミオ」(スイス・ロシュ)、BCMAとCD3を標的とする「テクベイリ」(米ヤンセン)と「エルレフィオ」(米ファイザー)が米欧に続いて承認されました。
新規モダリティでは、米国でテロメラーゼ阻害作用を持つ核酸医薬「Rytelo」(米ジェロン)やCD19標的のCAR-T細胞療法「Aucatzyl」(英Autolus)などが承認されました。
血液
血液領域では24年、発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)を対象に、日米欧で抗補体(C5)抗体「ピアスカイ」と補体D因子阻害薬「ボイデヤ」、日欧で補体B因子阻害薬「ファビハルタ」(米では23年に承認)が承認されました。ボイデヤとファビハルタはいずれも新規作用機序を持つ経口薬。ピアスカイは、中外製薬が創製したリサイクリング抗体で、従来の抗補体(C5)抗体と比較して長期間隔での投与を可能にしています。
関連記事:新薬出揃ったPNH、市場競争本格化…患者1000人の疾患に1年で4つの新製品(編注:日本国内の状況に関する記事)
血友病Bには、米ファイザーの遺伝子治療薬「Beqvez」が米欧で承認。23年承認の血友病A治療薬「Roctavian」(米バイオマリン)、22年承認の血友病B治療薬「Hemgenix」(豪CSLベーリング)に続く遺伝子治療薬となります。日本ではBeqvezが申請中で、今年、根治治療への道が開かれるかもしれません。血友病では、ファイザーの抗TFPI抗体「ヒムペブジ」が日米欧3極で承認。同「アレモ」は、23年の日本承認に続いて米欧で承認されました。
このほか武田薬品が、▽後天性血友病A治療薬「オビザー」(日)▽先天性血栓性血小板減少性紫斑病「アジンマ」(日欧)▽先天性プロテイン C 欠乏症「セプーロチン」(日)――の承認を取得。いずれもシャイアー買収を通じて獲得した製品で、オビザーは米国承認から10年、セプーロチンは欧州承認から23年遅れでの承認となりました。
神経・筋
デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)には、HDAC阻害薬「Duvyzat」が米国で承認されました。DMDにはこの数年、特定の遺伝子変異を持つ患者への治療薬が承認されてきましたが、イタリアのItalfarmacoが開発したDuvyzatはあらゆる遺伝子変異を持つ患者に使用できるのが特徴。欧州でも申請を済ませています。
米バイオジェンは、23年に米国で承認されたNrf2活性化薬「Skyclarys」(適応・フリードライヒ運動失調症)と核酸医薬「クアルソディ」(SOD1遺伝子変異を有する筋萎縮性側索硬化症〈ALS〉)について、それぞれ欧州、日本・欧州での承認を取得。ALSに対しては、日本で医師主導治験の結果をもとにエーザイの「ロゼバラミン」も承認されました。
このほか、ダイドーファーマのカリウムイオンチャネル阻害薬「ファダプス」(ランバート・イートン筋無力症候群)やサンバイオの細胞治療「アクーゴ」(外傷性脳損傷)などが日本で承認を取得。アクーゴは損傷した神経細胞の再生能力を促す作用を持ち、慢性期の運動麻痺の改善が期待されています。
精神・中枢神経
精神・中枢神経領域で期待を集めた新薬の1つが、米ブリストルの統合失調症治療薬「Cobenfy」。ムスカリンM1/M4受容体を標的とするもので、米国で数十年ぶりの新規作用機序の薬として24年9月に承認されました。ドパミン2受容体を標的とする従来の抗精神病薬に見られる体重増加や運動障害といった副作用がないことから大型化が期待されています。米カルナ・セラピューティクス買収で獲得した製品で、日本と欧州でもP3試験段階。アルツハイマー病に伴う精神病での開発も進んでいます。
関連記事:米国で数十年ぶり新クラスの抗精神病薬承認…ブリストルの「Cobenfy」、専門家は「ゲームチェンジャー」と期待
米イーライリリーのアルツハイマー病治療薬「ケサンラ」にも注目が集まりました。脳内のアミロイドβプラークを標的とする抗体医薬で、日米で承認を取得。日本ではこのほか、不眠症治療薬「クービビック」が承認。スイス・イドルシアファーマシューティカルズが開発してきたデュアルオレキシン受容体拮抗薬で、同社日本法人を傘下に収めたネクセラファーマが承認を取得しました。
眼
眼科領域では、イタリアSIFIの「Akantior」がアカントアメーバ角膜炎(AK)に対する初の治療薬として欧州で承認を取得しました。AKは、アカントアメーバによって引き起こされる急性重症寄生性角膜感染症で、ソフトコンタクトレンズの使用者などにみられます。米国でも、26年の申請に向けてFDAとの協議を進めています。
米アウトルック・セラピューティクスの「Lytenava」は、抗VEGF抗体ベバシズマブの眼科用製剤。がん領域では「アバスチン」として知られ、これまでは適応外使用が行われていました。眼科用製剤は欧州で先行して承認を取得。米国でも臨床試験を行っています。
日本では、参天製薬が近視進行を抑制する新薬「リジュセア」の承認を取得。シンガポールの国立眼科・視覚研究所と共同で開発を進めてきた点眼液で、有効成分のアトロピン硫酸塩水和物を0.025%含有しています。米国や欧州では米Sydnexisが低用量アトロピン点眼液(0.01/0.03%)のP3試験を進めており、参天は欧州と中東、アフリカで同薬のライセンス権を持っています。