製薬企業の早期退職者募集が止まりません。昨年後半から年明けにかけて外資を中心に大規模なリストラがありましたが、今年度に入ってからは内資で相次いでいます。これまで目立たなかった中堅企業でも動きが見られ、人員の適正化は企業規模を問わずに広がっています。
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杏林 MRは対象外
外資大手は、MRを大幅に減らしたファイザーとバイエル薬品、「ポジションクローズ」の手法を取ったヤンセンファーマ、4年連続のリストラとなったノバルティスファーマなどがこの1年で早期退職による体制の再構築を進めました。
2023年度に入ってからもその流れは続いています。中外製薬は4月、今年12月末時点で満40歳以上の正社員とシニア社員を対象に早期退職を募り、374人が応募したと発表しました。塩野義製薬は来年3月末時点で50歳以上(管理職を除く)を対象に約200人を募集。アステラス製薬は営業部門で勤続6年以上の社員を対象に12月に募集を始める予定で、500人程度の募集を想定しています。
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早期退職の実施は、これら大手・準大手クラスの企業にとどまりません。
杏林製薬は9月29日、主として50歳以上の一般社員と55歳以上の管理職を対象に希望退職を実施すると発表。参天製薬は12月末時点で50歳以上の社員に対し、今月2日から募集を始めました。両社とも早期退職の実施は今回が実質的に初めて。いずれも募集人数を定めておらず、応募者はそれほど多くはないと見ていますが、近年は募集枠を超えた応募も散見されるだけに、従業員の判断が注目されます。
杏林の業績はこのところ停滞気味です。気管支喘息・アレルギー性鼻炎治療薬「キプレス」の特許切れの影響が収まってきた2018年度から反転攻勢を狙っていましたが、アレルギー性疾患治療薬「デザレックス」が同年1月に供給を停止。花粉症シーズンに販売できず、計画に狂いが生じました。20年1月に発売した抗菌剤「ラスビック」も新型コロナによる受診控えで立ち上がりが遅れるなど、歯車がかみ合わない印象です。
営業力は維持
杏林は今期、「年平均成長率5%以上」「研究開発費控除前営業利益率20%以上」を目標とした従来の中期経営計画をリニューアルし、32年度までの長期ビジョンに基づく新中計をスタート。「新薬創出力の強化」「導入による開発パイプラインの拡充」などをベースに「持続可能な企業基盤の構築」に取り組む方針を掲げています。人的資本の充実は長期ビジョン実現のために不可欠との判断で、初の早期退職実施で体制を見直すことにしました。
注目されるのはMRを対象外としたことで、営業部門を中心に人員適正化を図る他社とは異なります。同社の現在のMR数は650人(全従業員数1489人)。新中計では、近年の上市新薬を最大化して利益を確保し、新たなパイプライン獲得につなげることを目指しており、そのための営業戦力は維持しておきたいとの考えが背景にあります。
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参天「人員削減より組織活性化が主眼」
今月2日から31日までの期間で募集を行っている参天は、早期退職の実施について「人員削減より組織の活性化が主眼」としています。今年4月に始まった新中計では「構造改革の推進」を掲げ、「競争力と収益力を徹底的に高める」方針を打ち出しており、戦略実行をリードする組織・人材の強化を狙っています。
同社の22年度の売上高は2790億円。利益面は、米国子会社のアイバンスが減損損失を計上し、米国事業の構造改革費用がかさんだことで31億円の営業損失となりました。米国事業の合理化で今期は黒字化する見通しですが、今期以降、加齢黄斑変性症などの治療薬「アイリーア」にバイオシミラーの参入が見込まれています。
同薬は22年度に713億円を売り上げた同社の最主力品であり、新中計で示した25年度売上高は2800億円とほぼ現状維持となります。一方で25年度の営業利益率は20%以上に置いており、収益性を高めるため効率化は必須です。
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同社の従業員数(単体)は22年度末で1807人。2年連続で減少しており、早期退職によってさらにスリム化が進みます。今回の早期退職では、安定供給の観点から製品製造と品質管理の両部門を対象から除外しています。
効率化避けられず
杏林と参天には、今期から新たな中計が始まったという共通点があります。薬価への締め付けで国内市場が伸び悩み、新薬開発の難易度も上がる中、収益性を高めていくには無駄のそぎ落としと効率化が避けられなくなったと見るべきでしょう。中堅企業は小回りが利きやすいこともあり、これまでは先行きに不透明感があっても人員削減には打って出ませんでした。しかし、経営のかじ取りが難しい時代に入り、その様相は変わりつつあるようです。企業が変化していく過程での成長痛ともいえるでしょう。
中堅ではこのほか、大正製薬ホールディングスが5月に退職者の募集を開始しました。詳細は非開示ですが、応募者は年内に退職することになりそうです。22年度の全社売上高3014億円のうち医療用(医薬事業)は377億円とここ数年で急減しており、事業利益に至っては45億円の赤字。早期退職の実施によって医薬事業の体制がどう変化するのか気になるところです。