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突然の社長辞任から半年あまり…参天製薬、前社長の“負の遺産”米国事業の立て直しは

更新日

前田雄樹

前社長の突然の辞任から半年あまり。新体制の下、参天製薬が新たな中期経営計画を発表しました。前社長の“負の遺産”とも言える不振の米国事業は、規模を縮小して収益改善を図り、大型化を期待する新薬の発売に備えます。

 

 

再参入も不振、米国事業は「最大限合理化」

参天製薬は4月13日、2021年度にスタートした5カ年の中期経営計画を見直す形で、23~25年度の新たな中計を発表しました。最終年度の数値目標は、売上収益2800億円(22年度予想比2.9%増)、コア営業利益・コア営業利益率は560億円・20%(同36.6%増・5ポイント増)。ここ数年、利益が伸び悩む中、収益性の改善が最大のテーマとなっています。

 

中でも焦点となっていたのが、不振が続く米国事業の方向性です。参天は03年に一時、米国市場から撤退したものの、谷内樹生・前社長の下で20年に米国の点眼薬メーカー、アイバンス・ファーマシューティカルズを買収して再参入しました。しかし、同社の業績は不調で赤字が続き、谷内氏は22年9月、「一身上の都合」を理由に米国事業を黒字化できないまま突然辞任。同年11月に発表した22年4~9月期決算では「買収時に想定していた収益の実現が困難」としてアイバンス関連で300億円の減損損失を計上しました。米国事業の構造改革費用もかさみ、22年度の通期業績は155億円の最終赤字となる見通しです。

 

【参天製薬/業績の推移】<年度/売上収益/営業利益/コア営業利益>|※22年度は予想|2017/2,249/387/454|18/2,340/451/482|19/2,416/335/500|20/2,496/122/501|21/2,663/359/463|22/2,720/-65/410|※参天製薬の決算発表資料をもとに作成

 

「製品に相当な競争力がないと厳しい市場」

前社長が残した“負の遺産”をどう片付けるのか。新中計では米国事業について「最大限合理化」するとし、米国で販売中の製品を売却するなどして規模を縮小する方針を示しました。合理化は23年度上期中には完了する見込みだといい、谷内氏のあとを引き継いだ伊藤毅社長は4月13日の記者会見で「年間80億円の米国事業の赤字を23年度中に3分の1まで減らし、24年度にはゼロにする」と強調。「われわれが販売を続ける製品も一部あるが、これも赤字が出ないような形をとっていく」と話しました。

 

【参天製薬/米国事業の業績】<年度/売上収益/貢献利益/地域利益>|※22年度は予想|20/20/-26/-48|21/27/-44/-73|22/35/-45/-80|※参天製薬の決算発表資料をもとに作成

 

伊藤氏は米国市場への再参入について「米国は大変厳しいマーケットで、製品そのものに相当な競争力がないといけない。今、販売している製品にそこまでのものがなかったということの結果が、今のわれわれだ」と振り返る一方、「今の開発パイプラインの中には米国で十分勝負できる製品がある。これらをしっかりと成功させて、もう一度、米国市場に挑戦していきたい」との考えを示しました。

 

米国再挑戦 老視治療薬などに期待

将来的な米国市場への再挑戦に向けて参天が期待するのが、老視治療薬「STN1013600」(一般名・ウルソデオキシコール酸)、ドライアイ治療薬「STN1014100」(オロダテロール塩酸塩)、フロックス角膜内皮ジストロフィ(FECD)治療薬「STN1010904」(シロリムス)、近視治療薬「STN1013400」などの開発品です。老視とFECDは臨床第2相(P2)試験を実施中で、近視もP2試験を準備中。老視とドライアイは30年度までに、FEDCと近視は31年度以降の発売を目指しています。

 

26年度以降の発売を見込む老視治療薬STN1013600は、ウルソデオキシコール酸を有効成分とする点眼薬。水晶体の弾性を回復させる作用があり、参天はファーストインクラスの根本治療になると期待しています。ドライアイ治療薬STN1014100はβ2受容体刺激薬オロダテロール塩酸塩を有効成分とし、既存薬より高い薬効と即効性でベストインクラスを狙う薬剤です。

 

【米国市場への投入が見込まれる新薬候補】<開発コード/作用機序/対象疾患/開発状況/上市目標>STN1013600/水晶体中タンパク質間S-S結合量の減少による水晶体弾力性の改善/老視/P2a実施中/~30年度|STN1014100/長時間作用性β2刺激薬/ドライアイ/P1実施中/~30年度|STN1010904/mToR阻害剤/フックス角膜内皮ジストロフィ/P2a実施中/31年度~|STN1013400/選択的ムスカリンM2受容体拮抗薬/近視の進行抑制/P2a準備中/31年度~|参天製薬の中期経営計画説明会資料をもとに作成

 

米国市場への再挑戦にあたっては、必ずしも自社販売にこだわらない方針です。伊藤氏は「どういった特性の製品が、どの程度の競争力で出てくるのかに応じて最適な形であらためて米国市場に挑戦していきたい」と話します。

 

再成長へ足場固め

国内で21年度に725億円を売り上げた稼ぎ頭の眼科用VEGF阻害薬「アイリーア」にバイオシミラーの参入が見込まれる中、収益改善に向けた構造改革は全社的な課題となっており、参天はITなど大型投資案件の見直しやコストの適正化、人員最適化を通じた海外事業の生産性向上などにも取り組む方針。新中計のKPIには、売上収益やコア営業利益などとともに、海外事業の1人あたり売上高の成長率を直近のマイナス1%(19~22年度の年平均)から7%以上(22~25年度の年平均)に引き上げることも掲げています。

 

伊藤氏は「25年度まではLOE(独占期間満了)を迎える製品のLCM(ライフサイクルマネジメント)、あるいはそれらによる売り上げ下落を補完するような新薬の上市が中心だが、26年度以降は既存疾患領域の売り上げに上乗せできる(新規領域の)製品が発売されてくる」とし、「これらの価値最大化を実現するため、25年度までは収益性の改善と組織力の強化に注力する」と話しました。米国以外の市場では、26年度以降に発売を見込む近視治療薬「STN1012700」や眼瞼下垂治療薬「STN1013800」の大型化を期待しており、この3年で足場を固めて再成長につなげたい考えです。

 

AnswersNews編集部が製薬企業をレポート

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