2023年は製薬業界にとってどんな年になるでしょうか。春には厚生労働省の有識者検討会が提言をまとめ、24年度の薬価制度改革に向けた議論がスタート。医薬品供給の土台が揺らぐ中、制度の抜本的見直しにつながるか、期待が集まります。
有識者検討会、注目の提言は
今年、注目されるトピックの1つが、薬価制度をめぐる議論です。昨夏から革新的新薬の早期導入と安定供給の確保に向けた方策を議論している厚生労働省の「医薬品の迅速・安定供給実現に向けた総合対策に関する有識者検討会」は4月をめどに提言をまとめ、それも踏まえて夏ごろから2024年度薬価制度改革に向けた議論が本格化。ドラッグ・ラグの再燃や後発医薬品の供給不足で医薬品供給の土台が揺らぐ中、制度の抜本的見直しにつながるか注目されます。
昨年10月の有識者検討会で示された論点には、薬価に起因する課題として▽新薬創出加算や市場拡大再算定のあり方▽薬価算定ルールの見直し頻度▽イノベーションを評価する薬価算定方法▽医療上必要性の高い医薬品の薬価を維持する仕組み▽安定供給を確保するための設備投資への評価▽物価高騰による製造コスト上昇への対応――などが挙げられています。これまでの議論では、日本市場の地盤沈下に対する危機感が示されており、どのような対応策を打ち出すのか、関心が集まります。
中間年改定、全収載品の48%で引き下げ
一方、4月に行われる2度目の中間年改定では、乖離率4.375%(平均乖離率7.0%の0.625倍)を上回る1万3400品目が対象となり、全収載品目の48%にあたる9300品目で薬価が引き下げられます。新薬創出・適応外薬解消等促進加算の対象品目や不採算に陥っている品目には一定の配慮がなされたものの、改定による薬剤費の削減額は3100億円に上り、18年度から続く6年連続の薬価改定で業界は大きなダメージを負うことになります。
23年度薬価改定の骨子には、「『国民皆保険の持続可能性』と『イノベーションの推進』を両立する観点から、24年度改定で新薬創出加算や長期収載品に関する薬価算定ルールの見直しに向けた検討を行う」と明記されています。前回の22年度改定では、現在2%に設定されている調整幅のあり方が積み残しの課題となっており、24年度薬価制度改革に向けては、有識者検討会の提言に加えてこうした点も議論になりそうです。
トラストファーマテックが出荷開始
国内市場は全体として中間年改定の影響を受けることになりますが、業績への影響は各社各様です。23年度改定では、長期収載品の89%、後発医薬品の82%が対象になっており、不採算品再算定の恩恵を受けられない企業ではダメージが大きくなりそうです。
後発品の供給不足は今年も影響が続きそう。小林化工の生産部門を引き継いだサワイグループホールディングス(HD)の子会社、トラストファーマテックが4月に出荷を開始する予定です。経営危機に陥っている日医工は昨年末、事業再生計画を決定し、ファンド主導の経営再建が本格化。同社は今春、上場廃止となり、20年以上にわたって同社を率いてきた田村友一社長は退任します。
各社の国内事業を見てみると、今年は収益構造が大きく変化しそうな企業がいくつかあります。
住友ファーマは、国内2番手の主力品であるGLP-1受容体作動薬「トルリシティ」の販売提携が昨年末で終了。22年3月期に薬価ベースで336億円を売り上げた大型製品を失うことになり、同社にとっては大きな打撃となります。塩野義製薬も、旧シャイアーから導入した注意欠陥/多動性障害(ADHD)治療薬「インチュニブ」と「ビバンセ」のライセンス契約が3月末で終了する予定。4月以降は武田薬品工業が単独で情報提供を行う予定です。インチュニブは国内医療用医薬品売上高の4分の1を稼ぐ主力品で、こちらも大きなダメージとなります。
国産ワクチンようやく承認へ
一方、塩野義は昨年11月に緊急承認を取得した新型コロナウイルス感染症治療薬「ゾコーバ」を、政府との購入契約に基づいてすでに200万人分納入しています。同社は23年3月期に新型コロナ治療薬・ワクチンで1100億円の売り上げを見込んでおり、これが現実のものとなれば収益構造は一変することになります。
塩野義の新型コロナワクチン(組換えタンパクワクチン)は昨年11月に申請。成人の初回免疫(1回目・2回目)と追加免疫(3回目)を対象としており、順調に行けば年内の承認が見込まれます。ファイザー製mRNAワクチンの承認から2年以上遅れて、日本企業が開発したワクチンがようやく実用化される見通しです。
第一三共も追加免疫でmRNAワクチンを1月にも申請する予定で、こちらも年内承認の可能性があります。KMバイオロジクスの不活化ワクチンも今年、申請にこぎつけそうです。
網膜疾患に遺伝子治療薬、世界初のRSウイルスワクチン
新型コロナワクチンのほかに、今年国内で承認や発売が見込まれる新薬では、ノバルティスファーマが申請中の遺伝性網膜ジストロフィーに対する遺伝子治療薬voretigene neparvovec(海外製品名・Luxturna)や免疫チェックポイント阻害薬トレメリムマブ(予定製品名・イジュド、アストラゼネカ)、同セミプリマブ(同・リブタヨ、サノフィ)、肥満症治療薬セマグルチド(海外製品名・Wegovy、ノボノルディスクファーマ)などが注目。voretigene neparvovecは米国で1億円近い価格がついており、承認されれば国内でも議論を呼びそうです。
抗CTLA-4抗体トレメリムマブと抗PD-1抗体リブタヨは昨年12月に承認を取得しており、4月の薬価収載が見込まれます。昨年承認された新薬では、大型化が予想される日本イーライリリーのGIP/GLP-1受容体作動薬「マンジャロ」(一般名・チルゼパチド)も注目。2型糖尿病の適応で昨年9月に承認を取得しましたが、11月の薬価収載は見送りました。
レカネマブ、FDAの判断は
このほか、承認されれば世界初となるグラクソ・スミスクラインのRSウイルスワクチンや、大鵬薬品工業が自社創製したFGFR阻害薬フチバチニブ、カルバペネム耐性グラム陰性菌に対する抗菌薬セフィデロコル(塩野義)なども年内の承認が予想されます。ジェンマブは昨年12月、リンパ腫治療薬の抗CD3/CD20抗体エプコリタマブを申請しており、承認されれば初の自社販売品としてアッヴィと共同販売を行う予定です。
昨年、臨床第3相(P3)試験で早期アルツハイマー病の症状悪化を27%抑制し話題となったエーザイの抗アミロイドβ抗体レカネマブは、今月6日までに米FDA(食品医薬品局)が迅速承認の可否について判断を示す予定。日本と欧州でも3月までに申請する計画です。
このほか、今年注目される動きとしては、スイス・ノバルティスの後発品部門サンドのスピンオフが挙げられます。サンドは今年後半にノバルティスから独立し、スイス証券取引所に上場する予定。米アムジェンによるホライゾン・セラピューティクス(アイルランド)買収も今年前半に完了する予定です。