2021年に日本と米国、欧州で承認された主な新薬などを領域別にまとめました。2回目は「神経」「血液」「皮膚」「眼」「その他」の5領域です。(1回目〈がん、感染症、ワクチン、循環器・代謝・内分泌、腎〉はこちら)
神経
昨年、業界内外から大きな関心を呼んだのが、アルツハイマー病治療薬「Aduhelm」の承認です。米バイオジェンとエーザイが共同開発した同薬は、6月に米FDA(食品医薬品局)が諮問委員会の否定的見解を押し切って承認。一方、欧州ではEMA(欧州医薬品庁)が承認を見送り、日本でも厚生労働省の部会で継続審議となりました。
米国で承認されたベルギー・アルジェニクスの「ウィフガート」は、全身型重症筋無力症に対する抗胎児性Fc受容体(FcRn)抗体フラグメント製剤。ステロイド剤や従来の免疫抑制剤で十分な治療効果が認められない患者を対象としており、大型化が期待されています。日本では今年1月に承認。欧州でも申請中です。
片頭痛では、CGRPを標的とする「エムガルティ」(米イーライリリー)、「アジョビ」(大塚製薬)、「アイモビーグ」(米アムジェン)が日本で承認。これら3剤が2018年に承認されている米国では昨年、米アッヴィがアラガン買収で獲得した「Qulipta」が承認されました。
このほか、日本と欧州では昨年、スイス・ロシュの脊髄性筋萎縮症治療薬「エブリスディ」と同ノバルティスの多発性硬化症治療薬「ケシンプタ」が承認を取得。エブリスディはSMN2遺伝子のスプライシングを修飾する低分子薬で、同疾患に対する初の経口薬となりました。
血液
米ケモセントリクスが創製した選択的C5a受容体拮抗薬「タブネオス」は、抗好中球細胞質抗体(ANCA)関連血管炎の顕微鏡的多発血管炎と多発血管炎性肉芽腫症に対する治療薬です。ステロイドを中心とする従来治療の副作用を抑えられると期待されており、日本ではキッセイ薬品工業が承認を取得。欧州でも今年1月に承認されました。
台湾ファーマエッセンシアの長時間作用型のインターフェロン製剤「Besremi」は昨年、米国で承認を取得。欧州でもすでに承認されており、日本では臨床第2相(P2)試験を終え、同社が申請準備を進めています。米バイオクリストの経口血漿カリクレイン血症阻害薬「オラデオ」は、遺伝性血管性浮腫治療薬として日本と欧州で承認。日本では鳥居薬品が販売を担当しています。
このほか、発作性夜間ヘモグロビン尿症には初の抗補体(C3)療法「Empaveli/Aspaveli」が米欧で承認。同疾患では、抗補体(C5)抗体による治療後も7割近くの患者が貧血状態となることが報告されており、抗補体(C5)抗体からの切り替えなども予想されます。同薬は日本でもP3試験を実施中です。
皮膚
ベルギーUCBの乾癬治療薬「ビンゼレックス/Bimzelx」は、抗IL17A/17F抗体。昨年に欧州で、今年1月に日本で承認されました。臨床試験では高い皮疹消失が確認されており、大型化が期待されています。
開発競争が激しいアトピー性皮膚炎には、局所製剤として「Opzelura」(米国で承認)と「モイゼルト」(日本で承認)が、全身療法として「サイバインコ」(日米欧で承認)と「Adbry/Adtralza」(米欧で承認)が登場しました。サイバインコは経口JAK阻害薬。Adbry/Adtralzaは初の抗IL-13抗体で、日本でも今年1月に申請が行われました。
米アテネックスとスペイン・アルミラールが開発した日光角化症治療薬「Klisyri」は昨年、アルミラールが欧州で承認を取得。日本では昨年、ファーマエッセンシアがP3試験を開始しています。
眼
眼科領域では、世界初の老眼治療薬「Vuity」(米アッヴィ)が米国で承認。1日1回の投与で遠方視力を低下させずに近・中距離視力を改善させると期待されています。
米ジェネンテックの滲出型加齢黄斑変性治療薬「Susvimo」は、眼科用VEGF阻害薬ラニビズマブの埋め込み型製剤。月1回の投与が必要な従来製剤に対し、同薬は年2回の投与で済むことから、利便性向上が期待されています。欧州でも申請中で、日本でも今後、臨床試験が始まる見通しです。
参天製薬は、欧州などですでに承認を取得していた春季カタル治療薬「Verkazia」について、昨年、米国で承認を取得しました。
その他
武田薬品工業は18年に買収したTiGenix(ベルギー)が開発した「アロフィセル」の承認を日本で取得。同剤はクローン病の複雑痔瘻に対する細胞治療で、国内では同社初の再生医療等製品となりました。
大日本住友製薬の「Rethymic」も、同社初の再生医療。25年以上の臨床試験を経て、小児先天性無胸腺症治療薬として米子会社が米国で承認を取得しました。大日本住友はさらに、傘下の米マイオバントを通じて米欧でレルゴリクス配合剤「Myfembree/Ryeqo」の承認を取得。米国では米ファイザーと共同で、欧州では導出先のゲデオン・リヒター(ハンガリー)を通じて販売を行っています。
英アストラゼネカは、21年に呼吸器・免疫領域で2つのファースト・イン・クラスの抗体医薬を投入。全身性エリテマトーデスには1型インターフェロン受容体抗体「サフネロー」(日米で承認)が、重症喘息には抗TSLP(胸腺間質性リンパ球新生因子)抗体「Tezspire」(米国で承認)がそれぞれ承認されました。Tezspireはフェノタイプやバイオマーカーにかかわらず使用できることから、コントロール不良の喘息に対する治療選択肢として期待されており、米国では創製元の米アムジェンと共同で販売します。
胆汁うっ滞症に伴うそう痒では、米アルビレオの胆汁酸トランスポーター阻害薬「Bylvay」と米ミルムの同「Livmarli」が承認を取得。Bylvayは昨年、CBCグループ(シンガポール)傘下のジェダイトメディスンが日本での開発権を取得しており、まずは進行性家族性肝内胆汁うっ滞症に伴うそう痒に対して開発が行われる予定です。
このほか、米バイオマリンの軟骨無形成症治療薬「Voxzogo」が米欧で承認。同薬はC型ナトリウム利尿ペプチド(CNP)類縁体で、FGFR3 シグナル伝達を制御して軟骨内骨化を促進する作用を持っています。日本でも申請中です。