高額な薬の“コスパ”を評価し、薬価に反映させる「費用対効果評価」。試行導入後初めてとなる4月の薬価改定で、「オプジーボ」と「カドサイラ」の薬価が引き下げられることになりました。ただ、多くの品目で最終的な評価結果が出せないなど、試行導入では多くの課題も明らかになりました。2019年度以降の本格導入に向け、議論は続きます。
「オプジーボ」「カドサイラ」が薬価引き下げ
厚生労働省は3月7日、中央社会保険医療協議会の費用対効果評価・薬価・保険医療材料の3専門部会による合同会議で、費用対効果評価の結果に基づき、4月の薬価改定で、がん治療薬「オプジーボ」(小野薬品工業)と同「カドサイラ」(中外製薬)の薬価を引き下げることを明らかにしました。
引き下げ幅は、オプジーボが23.8%、カドサイラが1.5%。オプジーボは費用対効果評価に加え、適応拡大に伴って用法・用量が変わった薬の薬価を見直す「用法・用量変化再算定」と、欧米主要国の薬価との乖離を小さくする「外国平均価格調整」の適用も受け、引き下げ幅が大きくなっています。カドサイラは逆に、新薬創出・適応外薬解消等促進加算の適用を受けており、引き下げは小幅にとどまりました。
対象品目の半数以上で結論出ず
2016年度に試行的に導入された費用対効果評価は、医薬品・医療機器の「効果」をQALY(質調整生存年。健康を1、死亡をゼロとして数値化したQOLに生存年を掛けて算出)で判断し、それを「1」獲得するのに既存の治療と比べてどれくらいの費用がかかるかを示すICER(増分費用効果比)を算出して費用対効果を評価。ICERが500万円/QALYを上回った場合、価格を引き下げます。
16年度の試行導入では、医薬品7品目、医療機器6品目の計13品目が費用対効果評価の対象になりました。このうち医薬品では今回、オプジーボとカドサイラが「費用対効果がよくない」として薬価の引き下げを受けますが、実は半数以上の品目で最終的な評価結果が出ていません。
企業と第三者 分析結果に隔たり
費用対効果評価では、対象品目を製造販売する企業が行った費用対効果分析を、第三者が再分析して評価結果を決めることになっています。ところが、両者の分析結果の隔たりが大きく、最終的な結論が出せていない品目が医薬品で7品目中5品目、医療機器で6品目中2品目あることが明らかにされました。
医薬品では、ギリアド・サイエンシズのC型肝炎治療薬「ソバルディ」は企業分析と再分析の結果が「500万円/QALY以下」となり、費用対効果が高いとして価格調整を行わないことが決定。カドサイラも「1000万円以上/QALY以上」で両者が一致したため、薬価の引き下げが行われることになりました。
ソバルディは「費用対効果高い」
一方、ソバルディの類似薬として対象となった「ハーボニー」「ヴィキラックス」「ダクルインザ/スンベプラ」とオプジーボは、両者の分析に大きな隔たりがあったことから、評価には両者の分析結果が併記されました。価格調整では、変動がより小さくなる方の結果を採用。オプジーボを除く4品目では価格調整をしないことになりました。
企業と第三者の分析が大きく異なったのは、分析の前提となるデータについて両者で認識が異なるなど、分析手法に課題があったからです。このため当初18年度に予定していた費用対効果評価の本格導入は19年度以降に先送りされました。厚労省は今後、評価の結論が出せなかった品目について再び第三者による分析を行うとともに、分析手法の改善に向けた検討を進める方針です。
「1年延命にいくら払える?」調査も焦点に
分析手法の改善とともに本格導入に向けた大きな課題となっているのが、いわゆる「支払い意思額」の調査です。
厚労省は昨年、費用対効果の良し悪しを判断するための基準をつくるため、3000人以上の国民を対象に、
「死が迫っている病気の人を、完全に健康な状態で1年間だけ寿命を延ばすのに、いくらまでなら公的医療保険で支払うべきですか」
と問う大規模なアンケート調査を計画しました。
ところが中医協部会では「死が迫っているのなら金額は問わないと考えるのではないか」「イメージがわかない」といった異論が続出。調査は一旦保留となりましたが、3月7日の合同部会でも「命に値段をつける調査には反対」といった意見が出ており、今のところ実施は宙に浮いたまま。一旦は「500万円」「1000万円」と決まったICERの基準値も、まだ暫定的なものです。
費用対効果評価の導入は、高額な薬剤が相次いで登場する中、医療費の膨張に歯止めをかけるのが狙いです。同様の取り組みは欧州で先行していますが、製薬業界からは「世界的に見ても奏効した国はない」(MSDのヤニー・ウェストハイゼン社長)などと懸念もあります。国民皆保険の維持とイノベーション推進の両立に向け、あるべき制度の模索は続きます。