昨年2月、「医療保険財政への影響が極めて大きい」として緊急的に薬価が50%引き下げられた「オプジーボ」。今年4月の薬価改定で、再び薬価が大幅に引き下げられることになりました。
一方、免疫チェックポイント阻害薬では、中外製薬の「テセントリク」が1月に非小細胞肺がんの適応で承認を取得。4月にも発売される見通しです。がんの中でも市場の大きい肺がんの領域で、「オプジーボ」と「キイトルーダ」、そして「テセントリク」の3剤が競争することになります。
用法用量変化再算定 ルール見直しで12%引き下げ
厚生労働省は1月17日の中央社会保険医療協議会(中医協)に、2018年度薬価改定で市場拡大再算定など薬価の再算定を行う品目を明らかにしました。再算定を受けるのは合わせて14成分27品目。「オプジーボ」には「用法用量変化再算定」が適用され、同じ免疫チェックポイント阻害薬の「キイトルーダ」(MSD)と「バベンチオ」(メルクセローノ)も類似薬として同様に引き下げを受けることになりました。
オプジーボの薬価は17年2月、すでに当初薬価の半額まで引き下げられています。患者数の多い非小細胞肺がんへの適応拡大を機に、医療保険財政への影響を懸念する声が急速に高まったためです。この時は、オプジーボの年間販売額が薬価ベースで1500億円を超えると推定し、売り上げが予想を超えて巨額となった薬の薬価を引き下げる「特例拡大再算定」を適用。異例の薬価引き下げとなったのは周知の通りです。
「主な効能・効果」変更でも適用
今回、オプジーボの薬価引き下げの根拠となる「用法用量変化再算定」は、オプジーボへの適用を念頭に18年度からルールが見直されます。
用法用量変化再算定はその名の通り、「主な効能・効果」で「用法・用量」が変わった場合に、1日あたりの薬価が同額になるよう薬価を調整する仕組み。例えば、1日2錠だった薬が1日3錠になった場合、1錠あたりの薬価は3分の2になります。
ただ、このルールはこれまで「主な効能・効果」自体が変わった場合は対象外。オプジーボは、悪性黒色腫(1回2mg/kgを3週間間隔)から非小細胞肺がん(1回3mg/kgを2週間間隔)に適応拡大したことで、投与量2.25倍に増えましたが、昨年2月の段階ではこのルールを使って薬価を下げることはできませんでした。
そこで厚労省は18年度から、主な適応の変更に伴って用法・用量が大幅に拡大した薬も用法用量変化再算定の対象とする見直しを行います。これに基づいて再算定をやり直すと、新たな薬価は、半額引き下げ前の薬価に2.25分の1をかけた約32万円(100mg1瓶)となる計算。半額引き下げ前の薬価からは約56%、現在の薬価からは約12%の引き下げとなります。
費用対効果評価の影響は
さらに気になるのは費用対効果評価の影響です。18年4月に初めて行われる費用対効果評価に基づく薬価改定では、1年健康で生きられる効果を得るのに既存薬と比べて500万円以上追加で費用がかかる場合は、薬価が引き下げられることになります。オプジーボは試行的導入の対象品目の1つに指定されています。
用法用量変化再算定による引き下げは12%程度となりますが、実際には、この費用対効果評価の結果も踏まえて薬価の調整が行われることになります。
競合の「テセントリク」が承認 4月にも発売へ
薬価引き下げのこのタイミングで、オプジーボにはさらなる競合品が登場します。中外製薬の「テセントリク」(一般名・アテゾリズマブ)が非小細胞肺がんの適応で1月19日に承認を取得。4月に薬価収載される見通しとなりました。
免疫チェックポイント阻害薬で肺がんの適応を取得したのは、オプジーボとキイトルーダに続いて3剤目。がんの中でも特に市場の大きい肺がんの領域で、免疫薬による三つ巴の競争が始まります。
テセントリクの承認の根拠となった国際共同臨床第3相(P3)試験「OAK」(プラチナ製剤併用化学療法の実施中または実施後に増悪した局所進行・転移性の非小細胞肺がん患者が対象)では、ドセタキセルと比べて全生存率を統計学的に有意に延長(テセントリク群13.8カ月 VS.ドセタキセル群9.6カ月)しました。
肺がんに使える3つの免疫チェックポイント阻害薬のうち、1次治療で使えるのはキイトルーダのみ。オプジーボとテセントリクは2次治療以降でしか使えません。ただ、キイトルーダは投与前の検査でPD-L1陽性(1次治療は発現率50%以上、2次治療は1%以上)となった患者にしか使えない一方、オプジーボとテセントリクはPD-L1の発現状況に関わらず使うことができます。
肺がん向けではさらに、アストラゼネカが昨年、抗PD-L1抗体デュルバルマブを申請しました。18年中の承認が見込まれており、競争はさらに激しさを増していくことになります。
オプジーボは今期840億円を売り上げる見通し
それでも、小野薬品工業にとってオプジーボが業績の牽引役であることには変わりありません。
オプジーボの17年度の売上高は840億円(前年度比19.2%減)となる見込み。薬価引き下げや競合参入の影響を受けていますが、第2四半期決算(17年11月)の段階で期初の予想を100億円上方修正しました。同社の業績は今期、オプジーボの売り上げ減で3割の営業減益となりますが、オプジーボが業績貢献する前の14年度を3倍以上、上回る水準を確保する見通しです。
さらなる薬価引き下げと競争の激化は、小野薬品の業績にどう影響するのか。4月以降の動きが注目されます。