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薬価制度 抜本改革へ議論の1年…論点は山積、製薬業界の将来左右する節目の年に

更新日

2017年は、薬価制度の抜本的な見直しに向けた議論の1年となります。

 

政府は昨年末、抜本改革に向けた基本方針を決定。薬価の毎年改定や、適応拡大で販売が急増した医薬品の薬価見直しが盛り込まれました。このほかにも、新薬創出加算の見直しや、薬価算定の透明性向上、外国価格との調整方法の改善など、制度改革をめぐる論点は山積しています。

 

今後、中央社会保険医療協議会を中心に1年かけて議論が進められ、年内には改革の具体策がまとまる見通し。今年は、製薬業界の将来を左右する節目の年になるかもしれません。

 

 

毎年改定 焦点は対象品目 薬価調査にも課題

昨年12月20日に政府が薬価制度の抜本改革に向けた基本方針を決めたのを受け、翌21日の中央社会保険医療協議会(中医協)薬価専門部会では早速、改革案の具体化に向けた議論がスタート。年内の具体策とりまとめに向けて、議論を急ぐことを確認しました。

 

抜本改革の最大の柱である薬価の毎年改定では、対象品目が最大の焦点となります。基本方針では「(市場実勢価格と薬価の)価格乖離が大きな品目」とされ、具体的な基準は2017年に結論を得ることとされました。これをどう設定するかで、対象品目は大きく変わってきます。

 

15年9月取引分を対象に行った直近の薬価調査では、全医薬品の乖離率(市場実勢価格と薬価の差)は平均約8.8%。対象品目は医療費の削減額に直結するだけに、経済財政諮問会議も交えて激しい議論になることが予想されます。昨年12月21日に開かれた諮問会議の会合では早速、諮問会議でのさらなる議論を求める声が民間議員から上がりました。

 

薬価調査の手法も課題です。

 

基本方針では「大手事業者等(4大卸を指すと考えられる)を対象に調査を行う」とされました。厚生労働省が昨年12月7日の諮問会議に提出した資料によると、4大卸の売上高シェアは約75%。基本方針には通常の改定に当たらない谷間の年の薬価調査も全品目を対象に行うと明記されましたが、4大卸では取り扱っていない品目もあるとされます。場合によっては大手以外の卸も協力を求められる可能性もあり、正確性を確保しながら調査にかける卸の負担をどう軽減していくのか、検討が必要です。

 

適応拡大に伴う年4回の薬価見直し 17年度中導入へ

改革議論の火付け役となった「オプジーボ」のように、適応拡大によって販売が急増した医薬品の薬価を年4回見直す新たなルールは、17年度中に導入予定。具体化に向けた検討は急ピッチで進みます。

 

「オプジーボ」の場合、厚労省が推計した年間販売額1516億円という数字をもとに、「特例拡大再算定」を適用して50%の薬価引き下げを行うことが決まりました。市場規模の拡大や適応拡大に伴って薬価を見直すルールにはほかにも、「市場拡大再算定」「用法用量変化再算定」「効能変化再算定」があり、こうした既存のルールとの兼ね合いも含め、薬価見直しの条件を詰めていくことになりそうです。

 

既存の薬価再算定ルール

 

新薬創出加算「ゼロベースで見直し」 加算要件など論点に

抜本改革のもう1つの大きな柱が、イノベーションの評価。特に、基本方針で「ゼロベースで見直す」とされた新薬創出・適応外薬解消等促進加算は焦点の1つです。

 

新薬創出加算は、一定の条件を満たした新薬の薬価引き下げを一時的に猶予することで、研究開発投資の回収を早め、革新的新薬の開発を促そうという制度。見直しの議論では、加算適用の要件が大きな論点になると予想されます。

 

ポイントとなるのが、いくつかある加算要件のうち「乖離率が全医薬品の平均を下回る」という要件。これは、類似薬が多く革新性の低い医薬品(=競合が激しく市場実勢価格の下落が大きい)をふるい落とすためのものですが、「本当に革新的な医薬品に適用される仕組みとなっていない」といった指摘が、これまでも財務省などから上がっていました。

 

新薬創出加算に対しては、公的医療保険の財源を産業振興に充てることを疑問視する声も上がっており、中医協では「イノベーション評価には、研究開発税制や補助金などほかの財源を使うべき」といった意見も出ています。

 

基本方針には「真に有効な医薬品を適切に見極めてイノベーションを評価し、研究開発投資の促進を図る」と明記されました。対象品目の絞り込みが議論の俎上に載るのは必至です。

 

薬価算定の透明化、外国価格調整の改善も

このほかにも、薬価制度をめぐる課題は山積みです。

 

1つは、基本方針にも「改革とあわせた今後の取り組み」として盛り込まれた、薬価算定の透明化。基本方針では「企業にとって機密性の高い情報に配慮しつつ、薬価算定の根拠の明確化や薬価算定プロセスの透明化向上について検討し、結論を得る」とされました。

 

「オプジーボ」の薬価をめぐっては、原価や流通経費などを積み上げて薬価を算定する「原価計算方式」に対して、「企業の言い値で薬価が付けられている」といった批判も少なくありませんでした。一方、製薬企業にとって製造原価は、市場競争にも影響する企業秘密。業界団体は「公表することはできない」との立場です。

 

もう1つ大きな課題として挙げられるのが、内外価格差の是正。「オプジーボ」では、海外に比べて日本の薬価が高かったことが、大幅引き下げの流れを強めました。

 

基本方針では「特に高額医薬品等について、制度の差異を踏まえつつ外国価格をより正確に把握するなど、外国価格調整の方法の改善を検討し、結論を得る」とされました。これまでの中医協の議論では「自由薬価で高額になりがちな米国を外国平均価格調整の対象から外すべき」といった意見が出ています。

 

海外の価格との調整のあり方をめぐっては、昨年夏、乾癬治療薬「トルツ」の薬価が外国平均価格調整によって類薬より高額となり、厚労省が「薬価の低い類薬の使用を優先する」と事実上の使用制限を課す方針を表明。メーカー側が薬価収載の希望申請を一旦取り下げるという出来事もありました。

 

「トルツ」は結局、夏時点で算定された薬価から10万円近く安い薬価で11月に薬価収載されました。為替変動の影響で参考とする外国平均価格が下がったためで、制度の不確実性が表面化しました。

 

同じ種類の薬は同じ薬価にするという、日本の薬価制度が原則とする「類似薬効比較方式」で薬価算定された医薬品に外国平均価格調整を適用することに疑問の声も上がっており、薬価制度の根幹に関わる部分から見直しの議論が行われることになりそうです。

 

製薬企業への影響は?

薬価の毎年改定は、特に後発品企業が大きな影響を受けると指摘されています。後発品市場は価格競争が激しく、乖離率が大きくなりやすいからです。厚労省が15年12月16日の中医協薬価専門部会に提出した資料によると、14年6月~15年6月に新たな薬価収載された後発品の乖離率は約28%。全医薬品の平均8.8%を大幅に上回りました。

 

新規に薬価収載される後発品の薬価は12年度改定から3回連続で引き下げられました。価格競争の激化や需要増への対応などもあり、各社は厳しい体力勝負を迫られています。毎年改定により、経営規模の小さい企業を中心に業界再編の機運が高まるかもしれません。

 

新薬メーカーでも、長期収載品や競合の激しい領域の製品は影響を受ける可能性があり、長期収載品を手放して新薬開発に経営資源を集中させる動きが今後も続くことになりそうです。

 

一方、新薬メーカーにとって影響が大きいのが、適応拡大に伴う市場拡大に対応した年4回の薬価見直しでしょう。現時点では、対象になる医薬品がどれくらいあるのか予測はつきませんが、小野薬品工業は従来1260億円としていた16年度の「オプジーボ」の売上高予想を昨年12月に1050億円に下方修正。競合する「キイトルーダ」の発売も織り込んだとはいえ、やはり50%の薬価引き下げは大きなダメージです。

 

薬価抑制の流れが強まる中、米国市場への進出に向けた動きや、人員削減を含む「選択と集中」の動きが相次いだ昨年の製薬業界。薬価制度の抜本改革を見据え、今年も製薬企業の間ではさまざまな動きが出てきそうです。

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