北海道と東北、関東を除くほとんどの地域で、昨シーズンと比べて飛散量がかなり多くなると予想されている今年の花粉。本格的な花粉シーズンを迎え、抗アレルギー薬の市場も活況を呈しています。
昨年11月には、「デザレックス」と「ビラノア」の2つの医療用の新薬が発売。今年2月にはスイッチOTCの「クラリチンEX」が発売されました。「アレグラ」や「アレロック」といった大型製品には後発医薬品が参入し、市場構造にも大きな変化が訪れた抗アレルギー薬。新たに発売された新薬やスイッチOTCも加え、今年も激しいシェア争いが繰り広げられそうです。
※この記事は、2016年11月16日に掲載した記事「抗アレルギー薬、新薬2製品が登場…『新薬』『後発品』『OTC』来シーズンも激戦展開へ」の内容を一部修正したものです。
2019年の最新の市場動向はこちら→【花粉症】抗アレルギー薬 市場は混戦…「ビラノア」「ルパフィン」一気に販売増へ 「デザレックス」拡大狙う矢先の自主回収
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後発品参入で市場は停滞気味…処方数トップは「アレグラ」金額は「ザイザル」
多くの人が不快な症状に悩まされる花粉症。抗アレルギー薬の治療薬の市場規模は大きく、2014年度は生産金額ベース(輸入品を含む)で2862億円に上りました。市場規模は花粉の飛散量によって変化するため、年度によって上下はあるものの、ここ数年は横ばいの傾向で推移しています。
患者数は増え続けていると言われますが、12~13年にかけて売り上げ上位の「アレグラ」「アレロック」に後発医薬品が参入し、医療用の抗アレルギー薬市場は停滞気味。一方、医療用を一般用(OTC)に転用するスイッチOTCが次々と登場しており、一般用の市場は拡大傾向にあります。
アレルギー性鼻炎治療の中心となるのは、いわゆる「第2世代」の抗ヒスタミン薬。厚生労働省の「NDBオープンデータ」をもとに14年度の第2世代抗ヒスタミン薬の処方動向を見てみると、院外処方で処方数トップとなったのはサノフィの「アレグラ60mg」。13年に後発品が発売されたにも関わらず、トップブランドをキープしました。
僅差で2位につけたのは、田辺三菱製薬の「タリオン10mg」。同社の決算によると、15年度の売上高は169億円(前年度比5.6%増)で、16年度は191億円(13.4%増)を見込みます。3位はグラクソ・スミスクライン(GSK)の「ザイザル5mg」、4位と5位はいずれも協和発酵キリンの「アレロックOD5mg」「アレロック5mg」となっています。
一方、処方数量と薬価をもとにAnswersNews編集部で算出した院外処方の処方金額トップは「ザイザル5mg」。処方金額は208億6644万円でした。2位は「アレグラ60mg」(182億5878万円)。3位には「タリオン10mg」(118億262万円)が入りました。
売り上げ伸ばす後発品 スイッチOTCも充実
新薬と後発品、そしてスイッチOTCが激しい競争を繰り広げているのがこの領域。処方数量・処方金額のランキングでは、「アレグラ」の後発品である「フェキソフェナジン『EE』60mg」(エルメッドエーザイ)が、「アレジオン」や「クラリチン」といったおなじみのブランド品を抑えて6位にランクイン。9位には、先発医薬品と同じ原料・添加物・製造方法で作られるオーソライズド・ジェネリック(AG)の「フェキソフェナジン『SANIK』60mg」(日医工サノフィ)、12位には「同『KN』60mg」(小林化工)が入っています。
エルメッドエーザイと小林化工の製品はいずれも、サノフィが一部特許の侵害を主張する中で承認を取得。13年2月、競合の後発品に先んじて発売し、シェアを握りました。エルメッドエーザイの製品は、4カ月遅れで発売された日医工サノフィのAGをも抑えており、先行発売の強さを見せつけています。
エルメッドエーザイと小林化工の製品、日医工サノフィのAG、ランクインした3つの後発品の処方数量を足すと、先発品のそれをほぼ同じ。「アレグラ」の市場の少なくとも半分は後発品に奪われたことになります。
12年12月に後発品が発売された「アレロック」も苦戦を強いられています。12年12月期には299億円だった年間売上高は、16年12月期には181億円とピーク時から100億円以上も減少。17年12月期はさらに141億円まで減る見通しです。かつて110億円規模の売り上げを誇った大日本住友製薬の「エバステル」も、15年度は31億円とピーク時の3分の1以下まで減少しました。
スイッチOTCも続々と登場しており、11年10月にはエスエス製薬が「アレジオン10」を、12年11月には久光製薬が「アレグラFX」を発売。OTC医薬品としては大型の製品に成長しました。
さらに13年2月には「ジルテック」のスイッチOTC「コンタック鼻炎Z」「ストナリニZ」(GSK・佐藤製薬)が発売され、14年1月には「エバステル」のスイッチOTC「エバステルAL」(興和)も登場。15年12月には「アレジオン10」の有効成分を2倍にした「アレジオン20」が、今年2月には大正製薬の「クラリチンEX」が、それぞれ発売されました。
医師の診察を受ける時間がない人にとっては、薬局やドラッグストアで購入できるスイッチOTCは便利な存在。いずれの製品もテレビCMなど強力なプロモーションを展開しており、医療用との間で患者の奪い合いを繰り広げています。
「デザレックス」「ビラノア」医療用2新薬が発売
こうした中、新たに激戦市場に参入してきた医療用の新薬が、杏林製薬の「デザレックス」(一般名・デスロラタジン)と大鵬薬品工業の「ビラノア」(ビラスチン)です。いずれも昨年11月18日に発売されました。抗ヒスタミン薬単剤としては、10年12月発売の「ザイザル」以来、6年ぶりの新薬です。
「デザレックス」はMSDが国内で開発を行い、製造販売承認を取得。MSDの関連会社と独占販売契約を結んだ杏林製薬が販売を担います。「デザレックス」の有効成分デスロラタジンは、「クラリチン」(ロラタジン)の代謝活性物。ロラタジンは肝臓で代謝されて代謝活性物デスロラタジンになり、効果を発揮しますが、「デザレックス」ははじめから代謝活性物のため、その分、効果が速やかに表れると期待されます。「ビラノア」も効果発現の速さをウリにしています。
気になる「眠気」の副作用は?
抗アレルギー薬で気になる副作用が「眠気」。これら2つの新薬はいずれも、添付文書に「眠気を催すことがあるので、自動車の運転など危険を伴う機械の操作に注意すること」との注意書きはありません。ちなみに、主な抗ヒスタミン薬でこの注意書きがないのは、「アレグラ」「ディレグラ」「クラリチン」「デザレックス」「ビラノア」だけです。
「デザレックス」は食事に関係なく服用できる一方、「ビラノア」は「空腹時」と服用時間に縛りがあります。また、「デザレックス」は12歳以上の小児にも使えるのに対し、「ビラノア」は成人(15歳以上)にしか使えません。
1日あたり薬価は両剤とも、「アレグラ」や「タリオン」「ザイザル」などすでに販売されている主な製品と比べて安く設定されました。競争の激しい領域だけに、「デザレックス」を販売する杏林製薬は科研製薬と、「ビラノア」を販売する大鵬薬品はMeijiSeikaファルマと、協力して市場への浸透を図っています。
動向が注目されるのが、近く特許切れを迎える田辺三菱製薬の「タリオン」です。同社子会社で後発品を扱う田辺三菱製薬販売は昨年8月、「タリオン」のAGの承認を取得しました。昨年12月に発売できるタイミングでの承認取得でしたが、結局、発売は見送られました。スイッチOTCの承認も厚生労働省の審議会で了承されています。「タリオン」は田辺三菱にとって主力製品の一つ。AGもスイッチOTCも、発売のタイミングを慎重に探っているのかもしれません。
※2019年の最新の市場動向はこちら→【花粉症】抗アレルギー薬 市場は混戦…「ビラノア」「ルパフィン」一気に販売増へ 「デザレックス」拡大狙う矢先の自主回収
【AnswersNews編集部が製薬企業をレポート】
・協和キリン
・キョーリン製薬ホールディングス(杏林製薬/キョーリンリメディオ)
・久光製薬
・大塚ホールディングス(大塚製薬/大鵬薬品工業)
・田辺三菱製薬