
(写真はいずれもロイター)
2025年、製薬業界ではM&Aが再び活発化するかもしれません。1月20日に発足する米トランプ政権下で反トラスト法(独占禁止法)の運用方針緩和が見込まれることなどが背景にあり、年明け以降、すでに米ジョンソン・エンド・ジョンソンや同イーライリリーなどが買収を発表。昨年は少なかった大型案件が増えるとの見方もあります。
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J&J、2.3兆円買収を発表
米ジョンソン・エンド・ジョンソンは1月13日、同イントラセルラー・セラピーズを146億ドル(約2兆3000億円)で買収すると発表しました。イントラセルラーは中枢神経系疾患に対する治療薬の開発・販売を手がける企業。J&Jは買収を通じて、米国で承認済みの統合失調症や双極性障害に伴ううつ症状の治療薬「CAPLYTA」を獲得します。買収は今年後半に完了する予定です。
イントラセルラーのパイプラインには、全般性不安障害やアルツハイマー病に関連するアジテーションを対象に臨床第2相(P2)試験が行われている「ITI-1284」などが控えています。J&Jはこれらをラインアップに加えることで、注力領域の1つである精神・神経疾患を強化。CAPLYTAは昨年12月、米国で大うつ病性障害への適応拡大を申請しており、J&Jはピーク時の売上高は年間50億ドルを超える可能性があると期待しています。
米イーライリリーも13日、米スコーピオン・セラピューティクスが開発中のPI3Kα阻害薬「STX-478」を最大25億ドル(約3900億円)で買収すると発表しました。STX-478は、乳がんやその他の固形がんを対象にP1/2試験が進行中。スコーピオンは同薬以外の開発品をスピンオフして新会社を設立し、従業員を維持することにしており、リリーは新会社の少数株を保有します。
英グラクソ・スミスクラインも同日、消化管間質腫瘍治療薬のKIT阻害薬「IDRX-42」を開発する米IDRxを最大11億5000万ドル(約1800億円)で買収すると発表。消化器がんのポートフォリオを強化します。
24年は前年から半減
製薬業界では今年以降、M&Aが活発化するとみられており、100億ドル超の大型案件が急増するとの見方も出ています。製薬各社で主力品の特許切れが迫っていることに加え、ドナルド・トランプ氏の大統領就任で期待される反トラスト法の運用緩和がM&Aを後押ししそうです。
バイデン政権は反トラスト法を厳格に運用し、大企業に圧力をかけていました。22年12月に発表された米アムジェンによるホライゾン・セラピューティクス(アイルランド)の買収(買収額278億ドル)では、同法を所管する米連邦取引委員会(FTC)が買収阻止を目指して両社を提訴。訴訟は和解し、買収は23年10月に完了しましたが、政権のM&Aに対する厳しい姿勢を印象付けました。
米IQVIAインスティテュートによると、24年のバイオ医薬品企業のM&Aは11月末までで推定総額800億ドルと、前年の半分以下にとどまりました。案件も小型のものが多く、50億ドル超のM&Aはゼロでした。
IQVIAインスティテュートは「25年全体でバイオ医薬品企業のM&Aが2000億ドルまで増加することが、イノベーションエコシステムにとって重要で前向きな指標となる」としています。