(写真:ロイター)
2024年12月に米FDA(食品医薬品局)が承認した主な新薬と適応拡大を、領域別にまとめました。
INDEX
【新薬】米アイオニスの家族性高カイロミクロン血症症候群向け核酸医薬など
がん
Bizengri|オランダ・メーラス
抗HER2/HER3二重特異性抗体「Bizengri」(一般名・zenocutuzumab)は、切除不能または転移性のNRG1融合遺伝子を有する進行非小細胞肺がんと進行膵臓腺がんの適応で迅速承認を取得しました。NRG1融合遺伝子陽性の非小細胞肺がん、膵腺がんに対する治療薬は米国初。同国での商業化は提携先の米パートナーセラピューティクスが担当します。日本では臨床第1/2相(P1/2)試験が進行中です。
Unloxcyt|米チェックポイント・セラピューティクス
抗PD-L1抗体「Unloxcyt」(cosibelimab)は、転移性または局所進行皮膚扁平上皮がん治療薬。根治的手術や放射線治療の候補とならない患者が対象です。臨床的に意義のある客観的奏効率と奏功期間を示した臨床試験の結果をもとに承認されました。チェックポイント・セラピューティクスにとっては初めての製品となります。
Ensacove|米XcoveryHD
「Ensacove」(ensartinib)は、ALK融合遺伝子陽性の局所進行または転移性の非小細胞肺がんの適応で承認されました。同薬は、Xcoveryと親会社の中国ベタ・ファーマシューティカルズが共同開発した次世代ALK阻害薬。承認の根拠となった臨床試験では、ALK阻害薬のcrizotinibと比べて無増悪生存期間を有意に延長しました。中国では2020年に承認されています。
Opdivo Qvantig|米ブリストル・マイヤーズスクイブ
「Opdivo Qvantig」は、抗PD-1抗体nivolumabの皮下注製剤。ヒアルロン酸分解酵素hyaluronidaseを配合することで皮下投与を可能にしました。抗PD-1抗体の皮下注製剤は米国初。単剤療法(抗CTLA-4抗体ipilimumabとの併用療法後の単剤維持治療を含む)や化学療法、cabozantinibとの併用療法など、Opdivoの大半の固形がんの適応症に使用できます。従来の静注製剤は投与に30分以上かかるのに対し、皮下注製剤は3〜5分で済むため、患者や医療機関の負担軽減が期待されます。日本では小野薬品工業がP1試験を実施中です。
代謝・腎
Crenessity|米ニューロクライン
「Crenessity」(crinecerfont)は、典型的な先天性副腎過形成に対する約70年ぶりの治療薬として承認されました。先天性副腎過形成は、生まれつき副腎皮質ホルモンを産生する働きが低く、糖質コルチコイドが不足するために副腎が腫れる疾患。Crenessityはコルチコトロピン放出因子1型受容体拮抗薬で、糖質コルチコイド補充療法の補助療法として使用します。副腎皮質刺激ホルモンや副腎アンドロゲンの過剰産生を抑えることで糖質コルチコイドの投与量を減らすことができ、副作用を減らすなど患者負担の軽減が期待されています。
Tryngolza|米アイオニス
「Tryngolza」(olezarsen)は、家族性高カイロミクロン血症症候群に対する食事療法の補助薬として承認されました。同薬は、中性脂肪代謝の調整因子であるアポリポタンパク質C-Ⅲの産生を低下させるよう設計された核酸医薬。家族性高カイロミクロン血症症候群は遺伝性の重症高トリグリセリド血症で、致命的な急性膵炎を起こすことが知られています。欧州でも申請中です。
その他
Alyftrek|米バーテックス・ファーマシューティカルズ
「Alyftrek」(vanzacaftor/tezacaftor/deutivacaftor)は、嚢胞性線維症の治療に使用するCFTRモジュレーター。同社のCFTRモジュレーターとしては5剤目となります。対象は、ほかのモジュレーター療法で対応できないものを含め1つ以上のCFTR遺伝子変異を持つ6歳以上の患者。臨床試験では、同社のTrikaftaに対する非劣性が確認されました。欧州でも申請中です。
Alhemo|デンマーク・ノボノルディスク
抗TFPI抗体「Alhemo」(concizumab)は、インヒビター保有の血友病A・血友病Bの治療薬。TFPIは血液凝固を阻止するタンパク質で、この働きを阻害することで出血を抑制します。日本では23年に承認されており、欧州でも近く承認される見通し。日本では昨年6月にインヒビターを持たない患者への適応拡大が承認されました。
Ryoncil|豪メソブラスト
「Ryoncil」(remestemcel)は、生後2カ月以上の小児のステロイド抵抗性急性移植片対宿主病(SR-aGVHD)に対する同種骨髄由来間葉系幹細胞(MSC)療法。MSC療法の承認は米国初です。SR-aGVHDの患者の約半数はステロイドに反応せず、治療選択肢が求められていました。日本では「テムセル」の製品名で販売されています。
【適応拡大】Imfinziの限局型小細胞肺がん、Zepboundの睡眠時無呼吸症候群など
がん
Imfinzi|英アストラゼネカ
抗PD-L1抗体「Imfinzi」(durvalumab)は限局型小細胞肺がんに適応拡大。化学放射線療法後に病勢進行が認められない患者が対象です。限局型小細胞肺がんは予後が悪く、診断後の5年生存率は15~30%と言われています。承認の根拠となった臨床試験では、プラセボと比べて死亡リスクを27%低下させ、全生存期間と無増悪生存期間の推定中央値を有意に延長しました。欧州や日本でも申請中です。
Braftovi|米ファイザー
BRAF阻害薬「Braftovi」(encorafenib)は、「BRAF V600E遺伝子変異陽性の転移性結腸・直腸がん」の適応で、cetuximab、mFOLFOX6療法との併用療法が追加されました。進行・転移性がんの治療薬の開発を促進する「Project FrontRunner」を活用し、奏効率を改善したP3試験の結果をもとに迅速承認を取得しました。カナダやブラジルでも申請中で、日本ではライセンスを持つ小野薬品工業が24年度中の申請を予定しています。
Tevimbra|中国ベイジーン
抗PD-1抗体「Tevimbra」(tislelizumab)は新たに、切除不能または転移性のHER2陰性胃がんまたは食道胃接合部がんの1次治療で化学療法との併用療法が承認されました。対象は、腫瘍にPD-L1の発現が認められる成人患者。承認の根拠となったグローバルP3試験では、全生存期間を有意に延長しました。同薬は米国では食道扁平上皮がんの適応で24年3月に承認。日本では食道扁平上皮がんで申請中です。
代謝
Imcivree|米リズム・ファーマシューティカルズ
遺伝性または症候性肥満治療薬「Imcivree」(setmelanotide)は、2歳以上6歳未満の小児に対象を拡大しました。適応は、「バルデー・ビートル症候群による肥満」と「POMCまたはPCSK1、LEPR欠損による遺伝性肥満」。これらの肥満にはメラノコルチン4型受容体(MC4R)経路が関与しており、同薬はMC4R作動によって効果を発揮します。日本では、4歳以上の後天性視床下部性肥満患者を対象とするP3試験が進行中です。
Zepbound|米イーライリリー
肥満症治療薬「Zepbound」(tirzepatide)は、肥満に伴う中等症から重症の閉塞性睡眠時無呼吸症候群に適応拡大。P3試験では、睡眠中の1時間あたりの呼吸中断を25回以上減らし、プラセボと比べて呼吸障害を約5倍軽減しました。同薬は持続性GIP/GLP-1受容体作動薬。欧州でも睡眠時無呼吸症候群への使用が認められています。日本では先月、肥満症治療薬として承認されました。
皮膚
Vtama|米オルガノン
「Vtama」(tapinarof)はアトピー性皮膚炎に適応拡大しました。同薬はアリル炭化水素受容体モジュレーターで、米国では22年に尋常性乾癬治療薬として承認。炎症性サイトカインの産生を抑えるとともに、皮膚バリア機能を回復させる作用を持っています。スイスのデルマバントが開発したもので、オルガノンは同社を24年10月に買収しました。日本では、導出先の日本たばこ産業がアトピー性皮膚炎と尋常性乾癬の治療薬として承認を取得しており、2歳以上12歳未満の小児に対するP3試験が行われています。
Nemluvio|スイス・ガルデルマ
抗IL-31受容体A抗体「Nemluvio」(nemolizumab)は、中等症から重症のアトピー性皮膚炎に適応拡大しました。局所コルチコステロイド、カルシニューリン阻害薬と併用します。同薬は中外製薬が創製。米国では24年8月に結節性痒疹治療薬として承認されました。欧州でもガルデルマが申請を行い、近く2つの適応で承認される見通し。日本ではマルホがアトピー性皮膚炎治療薬「ミチーガ」として販売しています。
その他
Gemtesa|住友ファーマ
β3アドレナリン受容体作動薬「Gemtesa」(vibegron)は、薬物治療中の前立腺肥大症に伴う過活動膀胱に適応拡大。P3試験では、プラセボに比べて1日あたりの平均排尿回数、平均尿意切迫感を有意に減少させました。同薬は米メルクが創製し、住友ファーマは日本と一部アジアを除く全世界の権利を保有。欧州ではサブライセンス先が販売しています。日本ではキッセイ薬品工業と杏林製薬が「ベオーバ」の製品名で販売中です。
Trikafta|米バーテックス・セラピューティクス
嚢胞性線維症治療薬「Trikafta」(elexacaftor/ivacaftor/tezacaftor)は、臨床とin vitroの データに基づき、94の非F508del CFTR変異が投与対象として添付文書に追加されました。これにより、米国では新たに約300人の患者に使用できるようになります。同薬は2019年に初めて承認されました。
【バイオシミラー】セルトリオンのustekinumab
Steqeyma|韓国セルトリオン
「Steqeyma」は、米国6番目となる抗IL-12/23p40抗体「Stelara」(ustekinumab)のバイオシミラー。欧州では24年8月に承認されています。