2025年に国内で発売が見込まれる主な新薬を、領域別に2回に分けて紹介します。2回目は「循環器・代謝・腎」「消化器」「眼」「感染症・ワクチン」「その他」領域です。
- 1回目:領域)がん(固形がん・血液がん)、精神・中枢神経、神経・筋
- 2回目:領域)循環器・代謝・腎、消化器、眼、感染症・ワクチン、その他
INDEX
【循環器・代謝・腎】週1回投与の基礎インスリン製剤が発売へ
日本イーライリリーの持続性GIP/GLP-1受容体作動薬「ゼップバウンド皮下注」(一般名・チルゼパチド)は、24年に発売されたノボノルディスクファーマの「ウゴービ」(セマグルチド)に続く肥満症治療薬。昨年12月に承認を取得し、国内でも肥満症治療薬の市場形成が本格化します。販売は、同じ有効成分の糖尿病治療薬「マンジャロ」でも提携する田辺三菱製薬が担当します。
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ノボノルディスクは今月末、週1回投与の基礎インスリン製剤「アウィクリ注」を発売する予定。週1回投与は国内初で、治療負担の軽減が期待されます。ゼリア新薬工業の高カリウム血症治療薬「ビルタサ懸濁用散分包」(パチロマーソルビテクスカルシウム)も昨年11月に薬価収載されており、近く発売される見通しです。
MSD、大型化期待のソタテルセプトを申請中
肺動脈性肺高血圧症治療薬ソタテルセプトは、MSDが大型化を期待する製品。血管構成細胞の増殖を促進するシグナル伝達経路に関わるアクチビンを標的とする薬剤で、血管構成細胞の増殖を制御し、肺動脈の血流を改善します。
ブリストル・マイヤーズスクイブの閉塞性肥大型心筋症治療薬マバカムテンは、心筋ミオシンに対するアロステリック阻害薬。ミオシンとアクチンの架橋形成を抑制し、心筋の収縮力とATP消費(エネルギー消費)を抑える作用を持っており、病態生理を標的とする初めての治療薬となる見通しです。
大塚製薬が申請中のベムペド酸は、米エスペリオン・セラピューティクスが開発した高コレステロール血症治療薬。ATPクエン酸リアーゼに作用してコレステロール合成経路を阻害するもので、スタチンで効果不十分または不耐の患者の治療選択肢として期待されています。帝人ファーマのパロペグテリパラチドは、1日1回投与の副甲状腺ホルモン(PTH)の徐放性プロドラッグで、副甲状腺機能低下症治療薬として昨年末に申請しました。
【消化器】潰瘍性大腸炎に2つのS1P受容体調節薬
消化器領域では、潰瘍性大腸炎に対して2つのスフィンゴシン1-リン酸(S1P)受容体調節薬が発売される見通しです。
ブリストルの「ゼポジアカプセル」(オザニモド)は昨年12月に承認を取得し、ファイザーは昨年6月にエトラシモドを申請しました。S1P受容体調節薬はリンパ球が病巣に浸潤するのを阻害する作用を持ちます。多発性硬化症治療薬としてはすでに実用化されていますが、潰瘍性大腸炎治療薬としては初の承認となります。
武田薬品工業は、米ミラム・ファーマシューティカルズから導入した回腸胆汁酸トランスポーター阻害薬マラリキシバットをアラジール症候群と進行性家族性肝内胆汁うっ滞症の適応で申請中です。
【眼】参天、近視や眼瞼下垂に新薬
眼科領域では、参天製薬が3つの新薬を投入します。国内初の近視進行抑制薬「リジュセアミニ点眼液」(アトロピン硫酸塩点眼液)は昨年12月に承認を取得。眼軸の伸長を抑制することで、小児の近視の進行を抑制させると考えられています。
緑内障・高眼圧症に対するセペタプロスト点眼液は、小野薬品工業が創製したFP受容体/EP3受容体デュアル作動薬。複数の治療薬を併用する患者の負担軽減やアドヒアランス向上につながると期待されています。昨年12月には、リジュセアミニとともにグローバルで次の成長ドライバーとして期待する後天性眼瞼下垂治療薬オキシメタゾリン塩酸塩を申請。αアドレナリン受容体に作用し、上眼瞼(まぶた)を持ち上げるミュラー筋を収縮させることで効果を発揮します。
【感染症・ワクチン】モデルナのRSウイルスワクチン承認へ
感染症治療薬では、日本バイオテクノファーマの天然痘(痘そう)・エムポックス・牛痘などの治療薬「テポックスカプセル」(テコビリマト水和物)が昨年12月に承認。VP37エンベロープラッピングタンパク質の働きを阻害してウイルスの複製を防ぐ抗ウイルス薬で、エムポックスの感染拡大に加え、生物テロへの対応も想定しています。アストラゼネカの長時間作用型の抗COVID-19抗体「カビゲイル注射液」(シパビバルト)も昨年12月に承認を取得しています。
ワクチンでは、サノフィが2つの製品を投入する見通し。昨年6月に承認された腸チフスワクチン「タイフィム ブイアイ注」は今年6月の販売開始を予定しています。もう1つは高用量4価インフルエンザワクチン「エフルエルダ筋注」。高齢者向けに抗原量を増やしたワクチンで、昨年12月に承認されました。インフルエンザワクチンをめぐっては、次のシーズンから3価ワクチンに移行する方針を厚生労働省が示しており、サノフィは3価ワクチンとして25年度中の発売を目指しています。
モデルナ・ジャパンはRSウイルスmRNAワクチン「mRNA-1345」(開発コード)を申請中で、今年の発売を見込みます。RSウイルスワクチンは昨年、グラクソ・スミスクライン(GSK)とファイザーがそれぞれ組換えタンパクワクチンを発売しており、ここに新たな選択肢として加わることになります。MSDの「V116」は、成人に特化して設計された21価の肺炎球菌ワクチン。このほかBIKEN財団(阪大微生物病研究会)は国内2つ目の経鼻インフルワクチン「BK1304」を、第一三共は3種混合ワクチン「VN-0102/JVC-001」をそれぞれ申請中です。
【その他】血友病の遺伝子治療薬や国内初ミニピルが承認へ
血液領域では、ファイザーが2つの血友病治療薬を発売する見込み。抗TFPI抗体「ヒムペブジ皮下注」(マルスタシマブ)は昨年12月に承認を取得し、遺伝子治療薬のfidanacogene elaparvovecは申請中です。ヒムペブジはノボノルディスクの「アレモ」に続く抗TFPI抗体で、インヒビターを持たない患者であれば血友病A、血友病Bを問わず使用できるのが特徴。fidanacogene elaparvovecはインヒビターを持たない血友病B患者が対象で、1回の投与で生涯にわたり定期補充療法が不要になるとして大きな期待を集めています。
CSLベーリングは遺伝性血管性浮腫(HAE)に対する抗FXIIa抗体ガラダシマブを申請中。浮腫形成のカスケードの起点となるFXIIaを標的とする初めての治療薬で、月1回の投与で効果を発揮すると考えられています。
その他の領域で注目される新薬の1つが、国内初のミニピル(プロゲスチンのみの経口避妊薬)となるあすか製薬のドロスピレノン。スペインのInsud Pharmaから導入したもので、昨年6月に申請を行いました。エストロゲンを含まないことから、エストロゲンの副作用に悩む人や血栓症リスクの高い人などに対する新たな治療選択肢になると考えられています。
アルフレッサファーマはアナフィラキシーに対する補助治療薬アドレナリン点鼻液を申請中。従来は注射剤しかありませんでしたが、簡便で迅速な投与を可能にするとして期待されています。武田薬品は免疫グロブリンにボルヒアルロニダーゼ アルファを配合した「ハイキュービア皮下注」の承認を昨年12月に取得。欧州や米国での承認から約10年越しでの国内発売となります。