今年もいろいろなことがあった製薬業界。2024年の主なできごとを2回に分けて振り返ります。
武田や住友など早期退職、揺れた化学系製薬
リストラの多い製薬業界では、今年も早期退職者の募集が相次ぎました。7月下旬から8月上旬にかけて、わずか10日ほどの間に5社が立て続けに早期退職者の募集を発表。リストラが常態化した製薬業界もこれにはざわつきました。
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24年3月期に3150億円の最終赤字を計上した住友ファーマは、経営立て直しに向けて約700人の枠で募集を行いました。応募したのは604人で、同社単体の人員は約2900人(24年3月末時点)から約2000人(同年12月1日時点)へと縮小。約770人いたMRは約450人まで減りました。
再成長の柱と位置付ける再生・細胞医薬事業は、来年2月に親会社である住友化学との合弁会社に移す予定。住友化学は今年10月の組織再編で、住友ファーマを重点事業から外しました。住友化学の岩田圭一社長はファーマについて「あらゆる選択肢を除外しない」としており、先行きは予断を許しません。
田辺三菱に売却報道
同じ化学系製薬企業の田辺三菱製薬も人数を定めず早期退職者を募集。親会社の三菱ケミカルグループは「化学回帰」の方針の下、事業ポートフォリオの見直しを進めており、田辺三菱については「ベストパートナーを探す」(筑本学社長)としています。田辺三菱をめぐっては、9月に売却に向けた動きが報じられ、年末には複数のファンドが買収に関心を示していることも伝えられました。
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武田薬品工業は、国内の事業体制の見直しにあわせて希望退職者を募集。同社は来年4月、がん領域を除く国内営業体制を見直し、これまでの疾患領域別から、ワクチンや既存製品を扱う「第一事業部」と新製品・成長製品を扱う「第二事業部」の2つに再編します。協和キリンは、低分子創薬研究の縮小に伴って研究部門を中心に早期退職者を募集しました。
1000億円超のM&A3件、小野は3700億円買収
国内製薬企業の業績はおおむね順調に推移しました。円安も追い風にグローバル製品が拡大し、3月期決算の主要8社の今年4~9月期売上収益は前年同期から12.9%増加。大塚ホールディングス(HD)は2月に発表した23年12月期決算で売上収益が初めて2兆円を突破しました。
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今年は、国内製薬企業による1000億円超のM&Aが3件ありました。小野薬品工業は、抗がん剤を手がける米国のバイオ医薬品企業デシフェラ・ファーマシューティカルズを総額24億ドル(約3700億円)で買収。がん領域のパイプラインを拡充するとともに、欧米での自社販売体制を強化します。
旭化成は腎疾患領域の事業基盤を獲得するため、スウェーデンのカリディタス・セラピューティクスを約1740億円で買収しました。カリディタスはIgA腎症治療薬「タルペーヨ」を米国で販売しており、旭化成は腎移植手術後に使われる免疫抑制剤などの既存事業とのシナジーを期待。大塚製薬は独自の創薬技術を持つ米ジュナナ・セラピューティクスを8億ドル(約1200億円)で買収。フェニルケトン尿症治療薬候補を獲得し、自己免疫疾患領域のパイプラインを拡大したほか、創薬基盤の強化を図ります。
肥満症薬登場、アルツハイマー病は2剤の競争がスタート
24年は57の新薬が薬価収載され、このうち17成分がピーク時に100億円超の売り上げを見込んでいます。最大は796億円を予想する日本イーライリリーのアルツハイマー病治療薬「ケサンラ」(一般名・ドナネマブ)。アムジェンの活動性甲状腺眼症治療薬「テッペーザ」(テプロツムマブ)は494億円の販売を予測しています。
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ケサンラは、エーザイの「レケンビ」(レカネマブ)に続く2剤目のアルツハイマー病治療薬で、11月に販売を開始。23年12月のレケンビ発売から1年がたち、市場競争が始まりました。
世界的に市場が拡大している肥満症治療薬では、ノボノルディスクファーマのGLP-1受容体作動薬「ウゴービ」(セマグルチド)が2月に発売。12月にはリリーのGIP/GLP-1受容体作動薬「ゼップバウンド」(チルゼパチド)の承認が了承され、来年発売される見通しとなりました。
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大塚HD16年半ぶり、小野15年半ぶり社長交代
24年は、社長交代の発表も目立ちました。
大塚HDでは、来年1月1日付で樋口達夫社長兼CEO(最高経営責任者)が相談役に退き、後任にCOO(最高執行責任者)の井上眞氏が昇格する予定。樋口氏は08年7月の大塚HD発足から社長CEOを務めており、16年半ぶりのトップ交代となります。
小野薬品工業でも15年半ぶりに社長が交代。研究本部長の滝野十一氏が4月に社長COOに就き、08年9月から社長を務めてきた相良暁氏は会長CEOとなりました。協和キリンでは、来年3月に常務執行役員CIBO(Chief International Business Officer)のアブドゥル・マリック氏が社長COOに就任する予定。宮本昌志氏は会長に就き、引き続きCEOを務めます。両社とも海外展開を拡大する段階にあり、新体制でグローバル経営を強化します。
1988年4月から36年以上にわたってCEOの内藤晴夫氏が経営トップを務めるエーザイでは今年6月、晴夫氏の子息である内藤景介氏が代表執行役専務COOに就任しました。内藤CEOは「従来から当社では、CEOの交代はジェネレーションの交代ということで、数十歳若返らせるということが行われてきた。そのやり方に沿ったサクセッションプラン(後継者育成計画)を取締役会とも協議する中で準備してきた」と話しており、バトンタッチのタイミングが注目されます。