10月にスタートした長期収載品の選定療養。自己負担が増えることで患者の薬剤選択や後発医薬品の使用状況に変化が出始めています。製薬企業は業績への影響を慎重にはじく一方、調剤の現場からは負担増を回避したい患者の声が聞かれます。
先発品メーカー、影響慎重に見極め
10月に導入された長期収載品の選定療養は、長期収載品と最も薬価の高い後発品との差額の4分の1を選定療養として保険適用外とし、患者に負担を求めるもの。導入時点で1096品目の長期収載品が対象となっています。
【制度の解説】:長期収載品の選定療養がスタート…1096品目対象、後発品への置き換えどこまで
今月相次いで開かれた製薬各社の2024年4~9月期決算会見では、選定療養化の業績への影響について、現状と今後の見通しが語られました。
参天製薬は今年5月の時点で「コア営業利益に対して20億円程度の押し下げ要因になる」とし、対象となった11成分17品目で「3~4割のダウンサイドリスクがある」と予測していました。しかし、今月の決算会見では「実際に影響は出ているが、20億円は保守的だった」と話し、減益の幅は想定よりやや小さくなるとの見通しを示しました。
痛風・高尿酸血症治療薬「フェブリク」が対象となっている帝人ファーマは「もう少し(置き換えが)急激に進むかと思っていたが、ある程度弱まってきた」と分析。下期に一定の減収を見込むものの、定量的に測るのは困難だとしています。対象が21成分49品目と最も多い田辺三菱製薬は「具体的な運用が見えていないこともあり、今は状況を注視している」。ある程度の減収要因となることは否定しないものの、見通しを立てるまでには至らないとしました。
潰瘍性大腸炎・クローン病治療薬「ペンタサ」や気管支喘息・アレルギー性鼻炎治療薬「キプレス」などが対象となった杏林製薬は、これらの薬剤の後発品への置き換えについて「後発品の供給が不安定であり、そこ(が解消されるか)次第」と見ています。ペンタサには4つの剤形がありますが、特許が残っているものがあったり、後発品が限定出荷になっていたりするため影響は緩和されそうです。キプレスは小児用のチュアブル製剤が販売の5割強を占めますが、後発品の比率は60%台と成人用製剤に比べて20%程度低く、切り替えの余地があります。
後発品メーカーは手応え
これら先発品メーカーは、現時点ではさほど大きな影響ははいと読んでいますが、後発品メーカーは手応えを感じているようです。サワイフループホールディングス(HD)は、新規の後発品の採用が9月から上向き、10月以降はさらに加速していると説明しました。品目では軟膏やテープといった外用剤が目立ち、公費負担医療の患者でも切り替えが見られるようです。下期の業績は想定から上振れて推移しており、後発品への置き換え率が低い領域を中心に営業を強める考えを示しました。
東和薬品も「9月後半から10月にかけて(後発品のシェアが)高まっていると感じている」と言います。外用薬、小児、中枢神経系の薬剤で比較的切り替えの傾向が強いようです。
「AGも拒否していた患者が切り替え」
薬局の現場では患者の行動に明らかな変化が出ています。
シミックHDの傘下で電子お薬手帳を展開するharmoが最大7万人超のユーザーのデータを分析したところ、今年4~9月に81.0%だった経口剤の後発品比率(調剤数量ベース)は、10月(23日まで)に86.5%と5.5ポイント上昇。使用感が患者の満足度につながることから長期収載品が選ばれやすかった外用剤でも切り替えが進んでおり、調剤機会をベースに算出した後発品の比率は、導入前後(9月24~30日と10月8~14日の比較)で8.3ポイント伸びて69.4%まで上昇しました。
製品別(経口剤)の後発品比率を見てみると、9月24~30日と10月1~6日を比べて最も変化が大きかったのは糖尿病治療薬レパグリニド(先発品名・シュアポスト)の15.4ポイント増。以下、筋緊張改善薬エペリゾン塩酸塩(ミオナール)の14.5ポイント増、抗うつ薬デュロキセチン塩酸塩(サインバルタ)の12.5ポイント増、高脂血症治療薬ベザフィブラート(ベザトール)の11.3ポイント増、疼痛治療薬プレガバリン(リリカ)の11.2ポイント増と続きます。
関東を中心に展開する調剤薬局チェーンのウインファーマ(横浜市)には、各店舗から薬剤師による患者や医師への説明とその反応について報告が届いています。現場では多くの患者が後発品への変更を望む一方、制度の複雑さや周知方法に改善を求める声も上がっているといいます。
北関東のある店舗は、患者の意向について「これまで後発品調剤体制加算の要件が厳しくなるたびに患者に説明してきたが、先発品にこだわりがあると変更しなかった。今回は、負担金が増えることを話すと『変更する』という返事があまりにも多く大変驚いている」と報告。物価高の中で医療費負担まで増えることは許容できないとの患者の思いを感じ取ったと言います。「オーソライズド・ジェネリックでも拒否していた患者が変更している」との内容もありました。
一方で、後発品に対する不信感から1000円未満の負担増なら受け入れたり、薬剤名が変わると混乱するため先発品を希望したりする患者も多く、北関東の別の店舗は「薬剤師の説明を聞いて変更するのは体感として2~3割」と言います。地域によって差が見られるのも現実のようです。
運用に不満も
医師側にはやや躊躇も見られるようです。「何のフィーも発生せず手間も増えるので(一般名処方に)消極的」「繰り返し面談を重ね、特定の薬剤を除きようやく一般名処方になった」「選定療養に伴って自分で(先発品か後発品かを)判断するよう医師に言われたと話す患者もいる」といった声が上がっています。
制度の運用に対しては「まず出荷調整をどうにかして安定供給を可能にしてから始めてほしかった」「制度が複雑すぎて法令・通知・通達の内容では情報量が少ない。現場ではあいまいなまま運用している」といった不満も聞かれました。
ウインファーマの藤田勝久代表は、選定療養の導入を、患者や処方医に対して先発品の継続を希望するかあらためて確認する機会と捉えており、「薬局で大きな混乱はない」としています。
日本ジェネリック製薬協会のまとめによると、後発品の数量シェアは24年4~6月期で83.5%まで上昇しています。選定療養による患者負担増がさらなるシェア上昇につながることは間違いなさそうで、来年1月末から2月上旬にかけて発表される製薬各社の24年度第3四半期決算ではより具体的な影響が明らかになりそうです。