主要製薬企業8社の2024年4~6月期の国内売上収益は、すべての企業で前年の同じ時期を下回りました。IQVIAジャパンは24年度の国内医療用医薬品市場を前年度比2.7%増と予測していますが、国内大手は市場の成長に追いついていけるのでしょうか。
武田と住友、主力品の特許切れ響く
8社の国内医療用医薬品売上収益は全体で前年同期比11.9%減と2桁のマイナス成長でした。トップの第一三共は1177億円で1.1%減。後発医薬品子会社だった第一三共エスファをクオールホールディングスに売却したことが206億円の減収要因となりましたが、抗がん剤「エンハーツ」や抗凝固薬「リクシアナ」といった主力品の成長でほぼ埋め合わせました。実質的には増収と言えますが、通期では抗血小板薬「エフィエント」や抗インフルエンザウイルス薬「イナビル」などの売り上げ減もあって16.2%の減収となる予想です。
武田薬品工業は高血圧症治療薬「アジルバ」の特許切れが響いて17.5%減。同薬の売上収益は前年同期比155億円減の32億円となり、その減少分を新製品や既存品の成長でカバーできませんでした。通期予想は非開示ですが、停滞が続く国内事業の業績回復は25年度以降としており、前期の4514億円を上回るのは難しそうです。同社は今月2日、オンコロジー以外の主要な国内事業を所管するジャパンファーマビジネスユニットの組織を再編し、あわせて希望退職者を募集すると発表しました。
住友ファーマも、パーキンソン病治療薬「トレリーフ」への後発品参入などで11.2%減と振るいませんでした。抗精神病薬「ラツーダ」は堅調ですが、2型糖尿病治療薬「ツイミーグ」は通期予想113億円に対して17億円と弱含み。早期退職者の募集で営業体制を再構築する中で、いかに主力品へと成長させていけるかが課題です。
早期退職に関する面談は今月1日から始まっており、山崎浩二営業本部長は「(応募の)状況によって戦略や戦術も変わってくる」としています。同社のMR数は、6月末現在で950人(マネージャーやコントラクトMRを含む)。早期退職の募集人数は700人で、営業部門から多くの応募が予想されます。近年の他社の事例を見ると、募集人数を上回る応募があるケースが目立ちます。今年3月末を退職日として募ったアステラス製薬は想定を500人としていましたが、実際には約600人が応募。昨年10月末退職の塩野義製薬も200人の募集に対して301人が手を挙げました。
関連記事:住友ファーマ、田辺三菱、協和キリン、武田薬品…国内製薬 早期退職募集相次ぐ
田辺三菱「マンジャロ」出荷制限解除で普及加速
田辺三菱製薬の国内売上収益は0.6%減とほぼ横ばい。GIP/GLP-1受容体作動薬「マンジャロ」が48億円(薬価ベース)と貢献しました。同薬は開始用量と維持用量の2規格が昨年4月、高用量の4規格が同年6月に発売されましたが、供給体制が整わず間もなく全規格で出荷を制限。今年6月4日にようやく解除されました。
同薬の四半期売上収益は23年7~9月期以降、23~24億円で推移しており、単純計算でひと月約8億円のペースでした。今年の4月と5月も同じような傾向だったとすると、通常出荷に戻った6月は30億円程度を販売したことになります。供給体制が整ったことで普及に加速がつけば、早くもピーク時に予想する年間367億円が視野に入ってきます。
一方で同社も人数を定めずに早期退職者を募集すると発表しました。今年3月末時点の同社の従業員数は3044人、グループ会社を合わせると5577人です。早期退職者は同社と一部のグループ企業から募り、対象者は約2200人に上ります。同社はMR数を開示していませんが、辻村明広代表取締役は「国内の営業体制の抜本的な改革が必要」との認識を示しており、体制の縮小は避けられないでしょう。
エーザイは、関節リウマチなどの治療薬「ヒュミラ」の販売提携が終了し、前年同期に133億円を計上していた同薬の売り上げを失いました。一方、注目のアルツハイマー病治療薬「レケンビ」は15億円を販売。パスウェイ構築が完了した650施設のうち約500施設(8月2日時点)で投与が始まったといいます。実際の処方患者数は明らかにしていませんが、今年2月の時点では24年4~6月期に1400人、7~9月期に1700人を見込んでいるとしていました。下期も四半期ごとに1700~1800人で24年度の累計投与患者数は7000人と予想していますが、通期売り上げ目標の100億円に向けてどのような成長曲線を描くか、なお見通しづらい状況にあります。
関連記事:【国内製薬4~6月期決算】主要8社、売上収益14.1%増…グローバル品好調も円高懸念
国内市場、24年度は2.7%増予測
IQVIAが8月7日に公表した国内医療用医薬品市場の予測によると、24年度は2.7%増の11兆3320億円(薬価ベース)となる見通し。IQVIAの予測には薬価収載されていない新型コロナウイルス感染症関連薬は含まれておらず、後発品販社による売り上げを推計値として加えています。国内市場は4年連続で前年度を上回る見込みで、スペシャリティ領域の医薬品やバイオ医薬品が貢献しています。
過去を振り返ると、23年度の市場は11兆340億円で前年度比4.9%増と高い伸びを示しました。このうちスペシャリティ医薬品は6.5%増の4兆5520億円で、18年年度からの5年間の年平均成長率(CAGR)は市場全体の1.8%を上回る5.4%に達しました。バイオ医薬品は3兆3100億円で、同期間のCAGRは8.2%とさらに高くなっています。
24年度の伸び率は前年度には届きませんが、増加基調は変わりません。薬価制度改革によって特許品の薬価引き下げが緩和されたことを踏まえ、IQVIAは市場予測を従来から上方修正しました。23年度からの5年間のCAGRは0.5~1.5%となり、28年度に11兆5810億円を予想しています。
国内製薬大手はこうしたトレンドに追いついていけるのでしょうか。新薬開発はスペシャリティやバイオが主流となってはいますが、国内市場だけで見ると売り上げとして結実していないのが実情のようです。市場の拡大は新興バイオ企業を含む外資によってもたらされ、国内企業が手にする果実は限定的です。