2023年に日本と米国、欧州で承認された主な新薬を領域別にまとめました。2回目は、「循環器・腎・代謝」「消化器」「皮膚」「眼」「感染症」「ワクチン」「その他」の7領域です。
2023年に日米欧で承認された主な新薬
- (1)がん/血液/神経・筋/精神・中枢神経
- (2)循環器・腎・代謝/消化器/皮膚/眼/感染症/ワクチン/その他
循環器・腎・代謝
糖尿病では、世界初の他家膵島細胞治療「Lantidra」(一般名・donislecel)が23年6月に米国で承認を取得。膵島ベータ細胞を患者の体内に注入し、そこからインスリンが分泌されることで効果を発揮する治療です。低血糖を防ぎながらインスリンの投与量を管理するのが難しい1型糖尿病の患者に使用します。
世界的に関心が高まる肥満症では、デンマーク・ノボノルディスクのGLP-1受容体作動薬「ウゴービ」(セマグルチド)が21年の米国、22年の欧州に続いて日本で23年に承認されました。競合にあたる米イーライリリーのGIP/GLP-1受容体作動薬「Zepbound」(チルゼパチド)は米国で11月に承認。欧州でも申請中で、日本では開発後期にあります。
代謝性疾患のライソゾーム病では、イタリアのチエシが、αマンノシドーシス治療薬「Lamzede」(米国で承認)とファブリー病治療薬「Elfabrio」(米欧で承認)の2つの酵素補充療法の承認を取得。米アミカスも、遅発性ポンペ病に対する酵素補充療法「Pombiliti」の承認を米国と欧州で取得しました。
ノボが米国で9月に承認を取得した原発性高シュウ酸尿症治療薬「Rivfloza」(nedosiran)は、21年の米ディセルナ買収で獲得したsiRNA医薬。シュウ酸の過剰産生に関与する肝酵素である乳酸脱水素酵素(LDHA)の発現を阻害します。日本や欧州ではグローバルP3試験が進行中です。核酸医薬ではこのほか、スイス・ノバルティスの高コレステロール血症治療薬「レクビオ」(インクリシランナトリウム)が日本で承認されました。同薬は欧州で20年、米国で21年に承認されています。
日本で19~21年にかけて相次いで承認されたHIF-PH阻害薬は、英グラクソ・スミスクラインの「ダーブロック/Jesduvroq」(ダプロデュスタット)が米国で、米アケビアの「バフセオ」(バダデュスタット)が欧州で、それぞれ23年に承認を取得しました。
消化器
イーライリリーの潰瘍性大腸炎治療薬「オンボー」(ミリキズマブ)は、炎症性サイトカインIL-23のp19サブユニットを標的とする抗体医薬。日米欧の3極で承認されました。同疾患には、米ファイザーのS1P受容体モジュレーター「Velsipity」(etrasimod arginine)も米国で承認。こちらは欧州で申請中で、日本ではP3試験を進めています。
皮膚
皮膚領域では、米クリスタル・バイオテックの遺伝子治療薬「Vyjuvek」(beremagene geperpavec)が米国で承認。栄養障害型表皮水疱症(DEB)に対する週1回投与の局所用ゲル製剤で、遺伝子治療薬としては初めて再投与が可能な薬剤です。DEBはCOL7A1遺伝子の変異によって起こるまれな遺伝性疾患ですが、Vyjuvekは同遺伝子のコピーを送達することで目的とするタンパク質の生成を促します。欧州でも申請を済ませており、日本でも開発が進んでいます。
米Verricaのセリンプロテアーゼ刺激薬「Ycanth」(cantharidin)は、伝染性軟属腫(水いぼ)治療薬として米国で7月に承認されました。日本では導出先の鳥居薬品が同適応でP3試験を進めています。ファイザーの「リットフーロ」(リトレシチニブトシル酸塩)は円形脱毛症治療薬。日米で6月に、欧州で9月に承認されました。
イーライリリーの抗IL-13抗体「イブグリース」(レブリキズマブ)は、欧州の権利を持つスペイン・アルミラールがアトピー性皮膚炎の適応で承認を取得。24年1月にはリリーが日本で承認を得ました。米国では、製造委託先の不備で承認が見送られており、リリーは対応を検討しています。
眼
眼科領域では、地図状萎縮を伴う加齢黄斑変性の治療薬が米国で初めて承認されました。
米アペリスの補体C3阻害薬「Syfovre」(pegcetacoplan)が2月に承認され、8月には補体因子C5を標的とするアプタマー「Izervay」(avacincaptad pegol)が承認。Izervayを開発した米アイベリック・バイオは、アステラス製薬が23年7月に買収しています。いずれも欧州で申請中です。
感染症
感染症領域では、米国で3月に米シダラの抗真菌薬「Rezzayo」(rezafungin)が承認。カンジダ血症および侵襲性カンジダ症の治療薬で、欧州では導出先の英ムンディファーマが申請中です。4月には、米国初の経口投与可能な腸内細菌叢製剤として、米セレス・セラピューティクスのクロストリジオイデス・ディフィシル感染症再発予防薬「Vowst」が承認されました。
米国ではこのほか、22年に欧州で承認された英アストラゼネカの抗RSウイルス抗体「Beyfortus」(nirsevimab)が7月に承認。新型コロナウイルス感染症治療薬「パキロビッド」(ニルマトレルビル/リトナビル)は、5月に正式承認を取得しました。同薬は21年に米国で緊急使用許可(EUA)を取得し、22年に日欧で承認されています。
日本では、米ギリアドの多剤耐性HIV-1感染症治療薬「シュンレンカ」(レナカパビルナトリウム)と、塩野義製薬のグラム陰性菌感染症治療薬「フェトロージャ」(セフィデロコル)が、米欧に追いつく形で23年に承認を取得しました。
ワクチン
ワクチンでは、GSKとファイザーがそれぞれ開発した2つのRSウイルスワクチンが承認。いずれも24年1月までに日本と米国、欧州の3極で承認されました。GSKの「アレックスビー」は、60歳以上の高年齢成人が対象。ファイザーの「アブリスボ」は、60歳以上の高年齢成人と母子免疫の適応を持っています(日本では60歳以上は申請中)。いずれも重症化リスクが高いとされ、ワクチンによる予防が期待されます。
日本では、新型コロナウイルスワクチンとして、第一三共のmRNAワクチン「ダイチロナ」とMeijiSeikaファルマの次世代mRNAワクチン(レプリコンワクチン)「コスタイベ」が承認。レプリコンワクチンの承認は世界初です。コスタイベは米アークトゥルスが開発したワクチンで、欧州では豪CSLが申請しています。
このほか、第一三共は日本で経鼻インフルエンザワクチン「フルミスト」の承認を取得。米国の承認から20年、欧州から10年遅れての承認となりました。15年にアストラゼネカ子会社のメディミューンから導入し、16年に申請を行っていました。
その他
アステラス製薬の非ホルモンの更年期障害治療薬「Veozah/Veoza」は、米国で5月、欧州で12月に承認。ニューロキニン3受容体拮抗作用を持ち、閉経に伴ってエストロゲンが減少することで起こる更年期の血管運動神経症状(顔のほてりやのぼせ)を軽減します。同薬は17年のOgeda(ベルギー)買収で獲得したもので、日本ではP2試験の段階にあります。
婦人科領域では23年、英ラインファーマの経口中絶薬「メフィーゴ」が日本で承認されました。ミフェプリストン錠とミソプロストールバッカル錠を組み合わせたパック製剤。同じ製剤は豪州とカナダでのみ承認されていますが、ミフェプリストンは世界65カ国、ミソプロストールは93カ国で承認されており、海外では標準的な中絶法となっています。フランスで最初にミフェプリストンが承認された1998年から数えると、30年以上経っての承認となりました。
米国で3月に承認された活性化PI3K-delta症候群治療薬「Joenja」(leniolisib phosphate)は、ノバルティスが創製した選択的PI3Kδ阻害薬。オランダのファーミングが19年に導入し開発を進めてきた新薬で、欧州で申請を済ませており、日本でも同社がP3試験を進めています。