国内製薬企業の2022年4~12月期決算から、23年3月期通期の業績が見えてきました。主要8社の業績予想を集計したところ、円安や主力製品の販売増によって2桁の増収増益で着地しそうです。ただ、減損損失の計上で2社が営業赤字を予想しており、8社合計の営業利益は期初予想には届かない見込みとなりました。
売上収益11.9%増 円安の恩恵大きく
集計対象としたのは、今期の売上収益予想が2000億円を超える8社。各社の通期予想を期初からの修正とともに分析しました。
売上収益の予想は合計9兆1650億円で、前期から11.9%増での着地となりそうです。これは、期初に見込んだ8兆6220億円から5430億円(6.3%)の上振れとなります。
売上収益予想は8社すべてが第2四半期の時点で上方修正していて、海外展開が活発な大手・準大手だけに円安の恩恵を強く受けています。第3四半期時点での円安の寄与額は▽武田薬品工業3935億円▽アステラス製薬1352億円▽第一三共723億円――などとなっており、各社とも増収部分の多くを占めています。ベースビジネスも堅調で、各社ではグローバル展開する主力品の成長が見られます。
塩野義「ゾコーバ」政府買い上げで25.6%の増収へ
最新の予想通りの着地となると、前期から最も伸びが大きくなるのは塩野義製薬で25.6%の増収となります。昨年11月に新型コロナウイルス感染症治療薬「ゾコーバ」が緊急承認され、国の買い上げによって1000億円を計上。中間決算に続いて第3四半期にも売上収益予想を上方修正しました。
第一三共は、消化性潰瘍治療薬「ネキシウム」の共同販促終了というマイナス要因を、抗がん剤「エンハーツ」や抗凝固薬「リクシアナ」がカバー。国内事業の売上収益予想は期初から142億円減の4696億円に下方修正したものの、海外がこれを補って余りある成長を見せそうです。
特にエンハーツは、製品売り上げとして2004億円(前期比206.5%増)、英アストラゼネカからの開発・販売マイルストンや契約一時金などを合わせると2509億円(210.5%増)まで拡大すると見込んでいます。ただ、国内の予想は従来予想から36億円減となる124億円(30.5%増)に下方修正していて、第一三共は全例調査の実施や立ち上がりの遅さといった日本市場固有の要因が、想像以上に効いているためだと説明。23年度以降はHER2低発現乳がんへの適応追加も控えており、事業としては順調であることを強調しています。
同社の眞鍋淳社長は足元のビジネスについて「経験したことのないレベルで成長している」との認識を示しています。25年度に売上収益1兆6000億円を目標とする中期経営計画の見直しにも言及しており、上昇曲線を描く体制が整ったようです。
期初減収予想のエーザイ、増収にめど
エーザイや住友ファーマは、前期実績をぎりぎりクリアしそうです。エーザイはアルツハイマー病治療薬「レケンビ」が1月に米国で迅速承認されましたが、今期業績への貢献はほとんどありません。抗がん剤「レンビマ」は国内でも処方拡大に弾みがついており、期初には減収を予想していましたが、増収にめどが立ちました。
住友ファーマは、中間決算の時点で円安と一時金収入を背景にいったん売上収益予想を上方修正したものの、第3四半期には為替レートの見直しと非定型抗精神病薬「ラツーダ」の北米売り上げが鈍いことを理由に下方修正。最終的な着地はほぼ前期並みとなりそうです。
営業利益は11.4%増
営業利益予想は8社合計で1兆1725億円となっています。前期比では11.4%増と2桁増益になりそうですが、期初予想に対しては約1000億円(7.8%)届きません。
全体を押し下げたのは3社で、このうちアステラス製薬は740億円の下方修正。抗がん剤ゾルベツキシマブ(一般名)に関わる「その他費用」の計上を第4四半期に見込んだためで、コアベースでの修正はありません。製品も抗がん剤「イクスタンジ」「パドセブ」などは計画通りに推移しています。ただ、HIF-PH阻害剤「エベレンゾ」は経口剤のメリットを生かせるとの予想に反して処方は広がっておらず、今後の状況次第では減損損失計上の可能性を残しています。
住友ファーマはパーキンソン病に用いる「キンモビ」の米国での販売計画に大幅な狂いが生じたため、中間決算で544億円の減損損失を計上。最終的に営業利益は270億円の赤字になりそうです。キンモビは「オフ症状」を速やかに改善する舌下投与フィルム製剤ですが、こうしたレスキューへのニーズに対して「認識が十分ではなかった」(野村博社長)といいます。コア営業利益は340億円を確保する見込みですが、今期で終了する中期経営計画では600億円を目標としており、未達は避けられない状況となりました。
参天製薬も赤字転落を予想します。米国で買収したアイバンス社の業績が不調で、中間決算に300億円の減損損失を計上。第4四半期にも米国事業の合理化に向けた構造改革費用の計上を見込んでおり、最終的な着地は65億円の営業損失となる見通しです。
第一三共は78%の営業増益
一方、上方修正した塩野義製薬は、期初予想から270億円積み増して1470億円としました。売上収益とともに各段階の利益も過去最高となります。ゾコーバは年度内に中国や韓国などでの販売も期待されるため、さらなる上振れがあるかもしれません。
前期実績に対する営業利益の伸びは、第一三共が78.0%増と最大です。営業利益率は10.4%に達する見込みで、実現すれば20年3月期以来、3年ぶりの2桁台となります。営業利益率が最も高いのは34.9%を見込む塩野義で、33.9%の小野薬品工業がこれに続きます。
23年3月期の着地は主要8社で2桁の増収増益が見込まれますが、そのけん引役は円安効果が出た海外事業です。国内市場が停滞から抜け出せないだけに、中堅製薬企業も含めてグローバル展開できる大型品の育成が浮沈を分けるポイントになっています。