2022年に日本と米国、欧州で承認された主な新薬などを領域別にまとめました。1回目は「がん(固形がん、血液がん)」「感染症」「ワクチン」「循環器・腎・代謝」の4領域です。
固形がん
2022年は、非小細胞肺がんに対する2つのKRAS G12C阻害薬が承認されました。1つは米国で承認された米ミラティの「Krazati」(一般名・adagrasib)で、もう1つは日欧で承認された米アムジェンの「ルマケラス」(ソトラシブ)。ルマケラスは米国で21年に承認されています。KRAS阻害薬のほかにも、非小細胞肺がんでは独メルクのMET阻害薬「テプミトコ」(テポチニブ)やスイス・ノバルティスの同「タブレクタ」(カプマチニブ)が欧州で承認されました。
日米で承認されたアストラゼネカの抗CTLA-4抗体「イジュド」(トレメリムマブ)は、同社の抗PD-L1抗体「イミフィンジ」との併用で非小細胞肺がんと肝細胞がんの治療に使用される薬剤です。免疫チェックポイント阻害薬では、米ブリストル・マイヤーズスクイブの抗LAG-3抗体と抗PD-1抗体の配合剤「Opdualag」(ニボルマブ/relatlimab)も米欧で承認。日本では、サノフィの「リブタヨ」(セミプリマブ)が3つ目の抗PD-1抗体として承認されました。
がん免疫療法ではこのほか、世界初のTCR-T細胞療法「Kimmtrak」(tebentafusp)が登場。英イミュノコアがブドウ膜黒色腫を対象に開発した薬剤で、米国で1月、欧州で4月に承認されました。米イミュノジェンの卵巣がん治療薬「Elahere」(mirvetuximab soravtansine)は、ファーストインクラスの抗葉酸受容体α抗体薬物複合体(ADC)です。
ノバルティスは、注力する放射性リガンド療法で新たな製品の承認を取得。PSMA陽性去勢抵抗性前立腺がんに対する「Pluvicto」(lutetium Lu 177 vipivotide tetraxetan)が米欧で使用できるようになりました。スイス・フェリングの「Adstiladrin」(nadofaragene firadenovec)は、アデノウイルスベクターにインターフェロンα-2b遺伝子を組み込んだ筋層非浸潤性膀胱がん治療薬。日本と欧州でも開発が進んでいます。
日本企業では、大鵬薬品工業が2つの自社創製の新薬を投入。米国で肝内胆管がん治療薬「Lytgobi」(フチバチニブ)が、日本で消化管間質腫瘍治療薬「ジェセリ」(ピミテスピブ)が承認されました。
血液がん
血液がんでは多発性骨髄腫に4つの新薬が承認されました。このうち2つは米ヤンセンが開発したBCMAを標的とする免疫療法で、抗BCMA/CD3二重特異性抗体「Tecvayli」(米欧で承認)と、抗BCMA CAR-T細胞療法「カービクティ」(日米欧で承認)。抗BCMA CAR-T細胞療法では、ブリストルの「アベクマ」も日本で承認を取得しました。スウェーデン・オンコペプチドの多発性骨髄腫治療薬「Pepaxti」(欧州で承認)は、メルファランの有効性を向上させた親油性ペプチド結合アルキル化薬です。
世界初の他家T細胞免疫療法「Ebvallo」(tabelecleucel、米アタラ)は、EBウイルス関連移植後リンパ増殖性疾患治療薬として欧州で12月に承認。スイス・ロシュの濾胞性リンパ腫治療薬「Lunsumio」(mosunetuzumab、米欧で承認)は、CD20とCD3を標的とするバイスペシフィック抗体で、日本では別の適応で2024年の申請を目指しています。
第一三共が創製した「エザルミア」(バレメトスタット)はヒストンメチル化酵素のEZH1とEZH2を阻害する低分子薬。日本で承認を取得し、米欧でピボタル試験を進めています。ソレイジア・ファーマの「ダルビアス」(ダリナパルシン)も日本で承認。同薬は米Alaunos Therapeuticsから導入した有機ヒ素化合物で、ミトコンドリア機能の障害や活性酸素種の産生増加などにより細胞周期の停止とアポトーシスを誘導する作用を持っています。
感染症
新型コロナウイルス感染症では、22年初頭に日欧で経口抗ウイルス薬「パキロビッド」(ニルマトレルビル/リトナビル)が承認。日本では11月に塩野義製薬の同「ゾコーバ」(エンシトレルビルフマル酸)が緊急承認されました。抗体医薬では、アストラゼネカの抗体カクテル「エバシェルド」(チキサゲビマブ/シルガビマブ)が、曝露後予防と治療の適応で日本と欧州で承認を取得しました。
アストラゼネカとサノフィが開発した抗RSウイルス抗体「Beyfortus」(nirsevimab)は、22年11月に欧州で世界初の承認を取得。1シーズン1回の投与でRSウイルスによる乳幼児の下気道疾患を防ぐことが期待されます。同薬は米国でも今年1月に申請が受理されました。
HIV領域では、長時間作用型の製剤開発が加速しています。米ギリアドが開発した年2回投与の新製剤「Sunlenca」(lenacapavir)は、多剤耐性HIVを対象に米国と欧州で承認。1、2カ月おきに1回投与する「ボカブリア」(カボテグラビル)は、20年の欧州、21年の米国に続いて日本で承認を取得しました。
このほか注目は、フェリングのクロストリジオイデス・ディフィシル感染症の再発を抑制する「Rebyota」。ドナー由来の微生物叢懸濁液を直腸から投与する世界初の糞便微生物叢で、日本でも開発が計画されています。国内では、旭化成ファーマが2016年に導入した抗真菌薬「クレセンバ」(イサブコナゾニウム硫酸塩)が承認されました。
ワクチン
新型コロナワクチンは、ヤンセンのウイルスベクターワクチン「ジェコビデン」が日本で、米ノババックスの組換えタンパクワクチン「ヌバキソビッド」が日本と米国で承認または緊急使用が許可されました。欧州では、仏バルネバの不活化ワクチンが承認されています。
武田薬品工業の「Qdenga」は、4価のデング熱ワクチン。22年8月にインドネシアで承認され、12月には欧州でも承認を取得しました。デングウイルスへの感染歴を問わずに使用でき、接種前の検査が必要ないのが特徴です。武田にとっては、グローバルで展開する初のワクチン。米国や、流行国のラテンアメリカ、アジア地域でも申請中です。
仏サノフィの4価髄膜炎菌ワクチン「メンクアッドフィ」は、米欧から2年遅れて日本でも承認を取得。同ワクチンは、日本では2014年に承認された同「メナクトラ」に比べて接種対象の年齢層が広くなっています。臨床試験では2歳から55歳の患者で効果が確認されました。
循環器・代謝・腎
スイス・イドルシアのエンドセリン受容体拮抗薬「ピヴラッツ」(クラゾセンタンナトリウム)は、くも膜下出血の後遺症に対する治療薬として、世界に先駆けて日本で承認を取得。脳出血時に放出されるエンドセリンが引き起こす脳血管攣縮(脳内の動脈の収縮)に伴う症状を抑え、死亡を防ぐと期待される薬剤です。イドルシアは自社でMRを採用し、22年4月から販売を開始しました。米国と欧州でもP3試験を終えています。
循環器領域では、ブリストルの閉塞性肥大型心筋症「Camzyos」(mavacamten)が米国で承認を取得。2020年に買収したマイオカーディアが開発した薬剤で、閉塞性肥大型心筋症の主な原因の1つとされる心筋ミオシンを阻害する作用を持っています。
糖尿病では、1型糖尿病の発症を遅らせる「Tzield」(teplizumab)が米国で世界初の承認を取得しました。インスリン産生細胞を攻撃する免疫細胞を不活性化する作用を持ち、臨床試験ではステージ2(血糖異常が見られ始めた状態)からステージ3(インスリン投与が必要な状態)への進行を約2年遅らせることが確認されています。
米イーライリリーのGIP/GLP-1受容体作動薬「マンジャロ」(チルゼパチド)は日米欧で2型糖尿病治療薬として承認されました。デンマーク・ノボノルディスクが糖尿病治療薬として販売しているセマグルチドは、肥満症を対象に「Wegovy」の製品名で欧州で承認を取得。日本でも近く承認される見通しです。
遺伝性代謝疾患のライソゾーム病では、酸性スフィンゴミエリナーゼ欠損症(ASMD)に初めて、酵素補充療法「ゼンフォザイム」(オリプターゼ アルファ)が登場。日本で3月、欧州で6月、米国で8月に承認されました。日本では、ウルトラジェニクスのムコ多糖症VII型治療薬「メプセヴィ」も承認を取得しました。