4月に行われる2022年度薬価改定で大きな影響を受けそうな企業はどこなのか。各社が主力とする製品の薬価引き下げ幅を見てみました。
6000億円超の市場消失
厚生労働省は3月4日、4月1日に実施する2022年度薬価改定を告示しました。改定率は医療費ベースでマイナス1.35%(うち、市場実勢価格などに基づく通常の改定部分がマイナス1.44%、不妊治療の保険適用対応分がプラス0.09%)で、通常の改定部分を薬剤費ベースに換算すると6.69%の引き下げ。薬剤費はおよそ10兆円なので、今回の改定で6000億円を超える市場が失われることになります。
昨年4月には、初の中間年改定で約4300億円分(医療費ベースで1%程度)の薬価引き下げが行われたばかり。値下げのペースは加速度を増しています。
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今回の改定では、いわゆる「G1」の前倒しルールが初めて適用されます。G1は後発品参入から10年たった時点で置き換え率が80%以上の長期収載品を段階的に後発品と同じ価格まで引き下げるルールですが、2年前の薬価制度改革で後発品発売から10年経過していなくても置き換え率が80%に達したら前倒しで適用できるルールを導入。今回、前倒しの対象となった18成分54品目には、ARB「ブロプレス」「ディオバン」「オルメテック」や高コレステロール血症治療薬「クレストール」、抗アレルギー薬「キプレス/シングレア」「アレグラ」などが含まれ、30%超の引き下げを受ける品目も少なくありません。
市場拡大再算定では、武田薬品工業のPPI「タケキャブ」が特例の適用を受け、15.8%の引き下げ。適応拡大に伴って用法用量変化再算定の対象となったトランスサイレチン型心アミロイドーシス治療薬「ビンダケル」(ファイザー)は75.0%、類似品として同再算定が適用される同「ビンマック」(同)は76.8%の大幅な引き下げを受けます。
新薬創出加算は、348成分571品目が対象となった一方、65成分145品目が後発品の参入などによって加算の累積額を返還します。加算の総額は約520億円で2年前の改定から250億円減った一方、返還額は約860億円で110億円増加。返還額が加算額を上回るのは、2010年の制度創設以来、初めてです。
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各社主力製品を直撃
今回の改定は、各社の主力製品を直撃します。
エーザイは、販売を担当する抗TNFα抗体「ヒュミラ」(製造販売元はアッヴィ)が新薬創出加算の返還で10.5~12.6%の引き下げを受けます。同薬はエーザイにとって22年3月期に売上高460億円を見込む国内最主力品。同社は、抗リウマチ薬「ケアラム」(22年3月期売上高予想75億円)も加算返還で23.2%の引き下げとなるほか、認知症治療薬「アリセプト」(同65億円)もG1の対象となっており、改定の影響を大きく受けそうです。
大日本住友製薬は、GLP-1受容体作動薬「トルリシティ」(製造販売元は日本イーライリリー、22年3月期売上高予想339億円)が市場拡大再算定で11.1%の引き下げ。大日本住友は、糖尿病治療薬「シュアポスト」や抗菌薬「アムビゾーム」も新薬創出加算の返還対象になりました。
GLP-1受容体作動薬は今回の改定で販売中の注射剤8製品すべてが市場拡大再算定の対象となり、大日本住友製薬や日本イーライリリーのほか、ノボノルディスクファーマ、アストラゼネカ、サノフィも影響を受けます。
ユーシービージャパンは、21年12月期に659億円を売り上げた最主力の抗てんかん薬「イーケプラ」が市場拡大再算定で22.0~25.8%の引き下げ。日本イーライリリーは、いずれも新薬創出加算の返還で抗うつ薬「サインバルタ」(20年12月期売上高638億円)が24.8~26.2%、抗がん剤「アリムタ」(同404億円)が30.9~34.5%の引き下げとなります。
このほか、参天製薬の抗アレルギー点眼薬「アレジオン」や大鵬薬品工業の制吐薬「アロキシ」などが2桁の引き下げとなります。生化学工業が製造し、科研製薬が販売する関節機能改善剤「アルツ」(22年3月期売上高予想194億円)は3回目のG2適用で12.6%の引き下げを受けます。
「リンヴォック」「エンハーツ」など薬価引き上げ
一方、小児適応や希少疾病に関する適応を取得するなどして改定時加算がついた品目の中には、薬価が引き上げられるものもあります。
エーザイの抗てんかん薬「フィコンパ」(22年3月期売上高予測65億円)は「てんかん患者の部分発作(二次性全般化発作を含む)」に対する小児適応を取得したことで1.2~1.3%の引き上げ。日本たばこ産業(販売は鳥居薬品)のJAK阻害薬「コレクチム」とアッヴィの同「リンヴォック」はアトピー性皮膚炎に対する小児適応が承認され、コレクチムは3.7%、リンヴォックは1.7~2.3%の引き上げとなります。希少疾病の適応取得では、日本新薬の肺高血圧症治療薬「ウプトラビ」やヤンセンファーマのBTK阻害薬「イムブルビカ」などの薬価が引き上げられます。
第一三共の抗HER2抗体薬物複合体(ADC)「エンハーツ」は、先駆け審査指定制度の対象に指定されている胃がんへの適応拡大で2%の引き上げとなります。
新薬創出加算の取得状況を見てみると、加算を受けた製品が最も多かったのは、24成分40品目のノバルティス。19成分で武田薬品工業とヤンセンファーマ、サノフィの3社が並び、14成分の中外製薬とファイザー、13成分のMSD、11成分の第一三共と続きました。
新薬開発への取り組みなどに応じた企業区分では、新薬創出加算を満額取得できる区分Iが22社(全体の24%)、1割減の区分IIが47社(52%)、2割減の区分IIIが21社(23%)。22年度薬価制度改革で区分IIIの対象が広がったことにより、区分IIIの企業が占める割合は21年度改定の9%から大きく上昇しました。