2022年に国内で発売が見込まれる主な新薬を、領域別に2回に分けて紹介します。1回目は「がん」「神経」「循環器」「呼吸器」です。(2回目はこちら)
【がん】血液がんにSTAMP阻害薬やミトコンドリア標的薬など
がん領域では、今年も複数の新薬が登場する見通しです。
アムジェンのソトラシブ(予定製品名・ルマケラス錠)は、国内初のKRAS阻害薬。「がん化学療法後に増悪したKRAS G12C変異陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺がん」の適応で厚生労働省の部会が承認を了承しており、1月の承認、4月の薬価収載が見込まれます。KRAS G12C変異は、日本人の非扁平上皮非小細胞肺がんの4.5%に認められる変異です。
ノバルティスファーマは、STAMP(BCR-ABLミリストイルポケット)阻害薬のアシミニブ塩酸塩を慢性骨髄性白血病治療薬として申請中。既存のチロシンキナーゼ阻害薬とはBCR-ABL1タンパクに対する結合部位が異なり、チロシンキナーゼ阻害薬に抵抗性または不耐容の患者への新たな治療選択肢として期待されています。
ソレイジア・ファーマのダリナパルシンは、ミトコンドリア標的薬。再発・難治性の末梢性T細胞リンパ腫の適応で昨年6月に申請されました。同薬はミトコンドリア機能の障害や活性酸素種の産生増加、細胞内シグナル伝達系への作用を持つと考えられており、細胞周期の停止やアポトーシスを誘導することで抗腫瘍効果を発揮するとされています。販売は提携先の日本化薬が行う予定です。
大鵬薬品は2つの新薬を投入予定
大塚ホールディングス(HD)傘下の大鵬薬品工業からは、がん関連で2つの新薬が承認される見通しです。昨年9月に消化管間質腫瘍(GIST)を対象に申請したピミテスピブは、経口HSP(Heat Shock Protein)90阻害薬。HSP90を阻害し、がんの増殖や生存に関与するKIT、PDGFRA、HER2、EGFRなどのタンパクを減少させる作用を持ちます。NK1受容体拮抗薬ホスネツピタント塩化物塩酸塩は、抗がん剤投与に伴う悪心・嘔吐に対する治療薬として昨年3月に申請しました。
CAR-T細胞療法では、BCMA(B細胞成熟抗原)を標的とする2剤が登場予定。1月の承認が見込まれるブリストル・マイヤーズスクイブのイデカブタゲン ビクルユーセル(アベクマ点滴静注)は、昨年発売の抗CD19 CAR-T細胞療法「ブレヤンジ」に続く同社2剤目のCAR-T細胞療法となります。ヤンセンファーマはciltacabtagene autoleucelを昨年12月に申請しました。これら2つの抗BCMA療法は、免疫調節薬、プロテアソーム阻害薬、抗CD38抗体を含む3つ以上の前治療歴を有する多発性骨髄腫患者のアンメットニーズに対応する治療となります。
このほか、第一三共のEZH1/2阻害薬バレメトスタットトシル酸塩も承認が予想されます。EZH1やEZH2はがん抑制遺伝子の不活性化に関わる酵素。昨年はエーザイがEZH2阻害薬「タズベリク」を発売しました。
【神経】片頭痛に急性期治療薬ラスミジタン
昨年新薬ラッシュとなった片頭痛領域では、日本イーライリリーの急性期治療薬ラスミジタンコハク酸塩が登場する見込み。昨年発売の予防薬「エムガルティ」と同様、承認後は提携先の第一三共が販売します。
田辺三菱製薬のバルベナジンは、遅発性ジスキネジアに対する小胞モノアミントランスポーター2(VMAT2)阻害薬。遅発性ジスキネジアは抗精神病薬などを長期間服用することで起こる不随意運動で、同薬は神経終末からのドパミン分泌を可逆的に抑制することで不随意運動を抑える作用を持っています。田辺三菱はヤンセンファーマとコ・プロモーション契約を結んでおり、販売はヤンセンが担当します。
アルナイラム・ジャパンのブトリシランナトリウムは、トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチーに対するsiRNA核酸医薬。同社は3週1回投与の点滴静注製剤「オンパットロ」(一般名・パチシランナトリウム)を販売していますが、ブトリシランは別のドラッグ・デリバリー・システムを採用することで3カ月に1回の皮下投与を可能にしています。
昨年12月には、ゾジェニックスがフェンフルラミン塩酸塩をドラベ症候群に伴うてんかん発作治療薬として申請。推定国内患者数約3000人の希少疾患で、承認後は日本新薬が販売を行う予定です。キッセイ薬品工業は脊髄小脳変性症治療薬ロバチレリンを申請中。同薬は塩野義製薬が創製した甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)誘導体で、脊髄小脳変性症患者の運動失調の改善が期待されています。
【循環器】イドルシア、初の製品「ピヴラッツ」発売へ
イドルシア ファーマシューティカル ジャパンのクラゾセンタンナトリウム(ピヴラッツ点滴静注液)は、速効性のエンドセリンA(ETA)受容体拮抗薬。「脳動脈瘤によるくも膜下出血処置後の脳血管攣縮およびこれに伴う脳梗塞および脳虚血症状の発症抑制」の適応で、1月承認、4月薬価収載の見込み。イドルシアにとっては、国内で販売する初の製品となります。
循環器領域ではこのほか、脂質異常症に対する2つの新薬が承認される見通しです。持田製薬は、主力の高脂血症治療薬「エパデール」に製剤工夫を施して消化管吸収を改善した1日1回投与の高純度EPA製剤を申請中。興和は高コレステロール血症治療薬「リバロ」にエゼチミブを配合した新規配合剤を申請しています。
【呼吸器】慢性咳嗽に初の治療薬
今月の承認を見込むMSDのゲーファピキサントクエン酸塩(リフヌア錠)は、難治性の慢性咳嗽に対する治療薬。経口投与可能なP2X3受容体拮抗薬で、国内では提携先の杏林製薬が独占的に販売を行う予定です。
アストラゼネカが申請中の抗TSLP(胸腺間質性リンパ球新生因子)抗体テゼペルマブは、コントロール不良の重症喘息治療薬です。TSLPは複数の炎症カスケードの上流で主要な上皮細胞サイトカイン。同薬はこれを阻害することで炎症性サイトカインの放出を抑え、増悪を防ぎ、コントロールを改善すると考えられています。
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