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KRAS阻害薬 今夏にも実用化へ…米アムジェン、非小細胞肺がんでsotorasibを米欧申請

更新日

難攻不落だった「KRAS遺伝子変異」をターゲットとする抗がん剤が、今夏にも登場します。米アムジェンは昨年末、KRAS G12C阻害薬sotorasibを米国と欧州で申請。米ミラティ・セラピューティクスも、米国で同adagrasibの年内申請を目指しています。

 

 

sotorasib、37%の患者に奏効

これまで「アンドラッガブル」と言われてきたKRAS阻害薬の実用化が、目前に迫っています。

 

米アムジェンは昨年12月、KRAS G12C阻害薬sotorasib(開発コード・AMG510)を米国と欧州で申請しました。適応は「局所進行または転移性のKRAS G12C遺伝子変異陽性非小細胞肺がん」。少なくとも1回以上の全身療法を受けた患者が対象となります。

 

同薬は米国でブレークスルー・セラピーに指定されており、FDA(食品医薬品局)による審査終了目標は8月16日。米国と欧州のほか、オーストラリア、ブラジル、カナダ、英国でも申請を済ませています。日本では臨床第1/2相(P1/2)試験の段階にあり、今月、厚生労働省から希少疾病用医薬品の指定を受けました。

 

KRASは、細胞増殖シグナルを伝達するRASタンパク質の1種。KRAS遺伝子に変異が起こると、増殖シグナルが常にオンの状態となり、がん細胞を発生・増殖させると考えられています。

 

KRAS遺伝子の変異はがんで最もよく見られるドライバー変異の1つで、発現頻度は高いがん種で90%程度。KRAS変異があると、EGFR阻害薬の効果が得られにくくなることが知られています。KRASタンパク質の表面は薬剤が結合・作用できる構造に乏しく、それゆえに創薬は困難と言われてきました。約40年もの間、さまざまなプレイヤーが分子標的薬の開発に失敗してきましたが、構造の詳細な解明が進んだことで、ついに実用化の一歩手前までこぎつけました。

 

sotorasibはKRAS遺伝子変異のうち、非小細胞肺がんの5~15%(日本人では4.5%程度)に認められる「G12C変異」を標的とする1日1回投与の経口薬。申請のもととなったP2試験「CodeBreak 100」では、37.1%の奏効率を示し、奏効期間の中央値は10カ月、無増悪生存期間の中央値は6.8カ月。8割以上の患者で病勢コントロールが得られました。有害事象のほとんどはグレード2以下で、安全性と忍容性も良好です。

 

米ミラティ、21年下半期に米国で申請予定

アムジェンは現在、sotorasibについて、グローバルでCodeBreak 100を含む3つのプログラムを進めています。

 

CodeBreak 100プログラムでは、結腸直腸がんを対象とするP2試験を行っており、21年中にトップラインの結果が明らかになる見込み。非小細胞肺がんでは、ドセタキセルと比較するP3試験「CodeBreak200」が進行中です。

 

【米アムジェン/sotorasibの開発プログラム】(<開発コード(一般名)作用機序> 試験名/開発段階/適応): <AMG510(sotorasib)KRAS/G12C阻害薬> CodeBreak200/P3/非小細胞肺がん(VS.ドセタキセル) |CodeBreak100/P2/非小細胞肺がん、結腸直腸がん、固形がん |CodeBreak100/P1/非小細胞肺がん(未治療) |CodeBreak100/P1/非小細胞肺がん(+PD-1/PD-L1阻害薬) |CodeBreak101/P1b/+pan-ErbB阻害薬(非小細胞肺がん) |CodeBreak101/P1b/+PD-L1阻害薬(非小細胞肺がん) |CodeBreak101/P1b/+化学療法(非小細胞肺がん) |CodeBreak101/P1b/+抗EGFR抗体±化学療法(結腸直腸がん) |CodeBreak101/P1b/+PD-1阻害薬(※) |CodeBreak101/P1b/+MEK阻害薬±抗EGFR抗体(※) |CodeBreak101/P1b/+SHP2阻害薬(※) |CodeBreak101/P1b/+mTOR阻害薬(※) |CodeBreak101/P1b/+CDK阻害薬(※) |CodeBreak105(中国)/P1/非小細胞肺がん、結腸直腸がん、固形がん |※=非小細胞肺がん、結腸直腸がん、固形がんが対象/|米アムジェンの決算資料(2021年2月)などをもとに作成

 

KRAS阻害薬の開発でアムジェンに続くのは、米ミラティ・セラピューティクス。KARS G12C阻害薬adagrasib(MRTX849)の開発を進めており、今年後半には非小細胞肺がんを対象に米国で申請を行う予定です。P1/2試験では、進行非小細胞肺がん患者の45%で奏効が得られたとする予備データを発表済み。ミラティはまだ上市製品を持っていない企業ですが、時価総額は90億ドル(約9800億円、2021年3月19日時点)で、株式市場も高い期待を寄せています。

 

ミラティはさらに、KRAS G12D阻害薬「MRTX1133」を開発中。KRAS G12Dの変異は、膵がんの36%、結腸直腸がんの12%程度で見られます。P1試験の準備を進めて、近く臨床試験の段階に進む見通しです。

 

【米ミラティ/KRAS阻害薬の開発プログラム/】(*=2021年1~3月期に開始。**=一部は計画中)(<開発コード(一般名)作用機序>開発段階/適応): <MRTX849(adagrasib)KRAS/G12C阻害薬> |P2/非小細胞肺がん、結腸直腸がん、膵がんなど |P2*/非小細胞肺がん(1stライン、STK11変異陽性) |P3*/非小細胞肺がん(2ndライン) |P2/非小細胞肺がん(1stライン、+ペムブロリズマブ) |P2**/"非小細胞肺がん、結腸直腸がん (+SHP2阻害薬or+pan-EGFR阻害薬or+CDK4/6阻害薬or+SOS1阻害薬)" |P3準備中/結腸直腸がん(2ndライン、+セツキシマブ) <MRTX1133(―)KRAS/G12D阻害薬> P1準備中/膵がん、結腸直腸がん、非小細胞肺がんなど |※米ミラティ・セラピューティクスの会社説明資料(2021年2月)などをもとに作成

 

SHP2阻害薬やSOS1阻害薬との併用に期待

KRAS阻害薬では、薬剤耐性を回避し、治療効果を上げるための併用療法の開発も活発です。

 

ミラティは2019年、スイス・ノバルティスと提携し、同社のSHP2阻害薬「TNO155」とadagrasibの併用療法の試験を開始。独ベーリンガーインゲルハイム(BI)とは、同社のSOS1:汎KRAS阻害薬「BI 1701963」との併用試験を年内に始める予定です。米MDアンダーソンがんセンターとも昨年、併用療法の研究開発で戦略提携を結びました。

 

SOS1はRASを活性化させるグアニンヌクレオチド交換因子。BI 1701963はKRASとSOSの相互作用を阻害して、活性型KRAS(オン)から不活性型KRAS(オフ)へと平衡を移行させる作用を持ち、KRAS(オフ)に結合するadagrasibと併用することで抗腫瘍効果の増強が見込めると期待されています。BI 1701963は現在、BIが単剤療法とMEK阻害薬との併用療法でP1試験を進行中です。SHP2は、SOS1の上流に位置し、KRASなどのRASシグナル回路の活性を制御するタンパク質脱リン酸化酵素です。

 

一方アムジェンは、非小細胞肺がんと結腸直腸がんを含む進行固形がんで、SHP2阻害薬やMEK阻害薬、免疫チェックポイント阻害薬などさまざまな併用療法を検討するP1b試験を進めています。

 

大塚とメルク、タッグで挑む

アムジェンとミラティが大きくリードする中、そのほかの企業も指をくわえて見ているわけではありません。

 

米イーライリリーは、P1試験を行っていたKRAS G12C阻害薬「LY3499446」について、毒性の問題で試験を中止。2社に遅れをとる形となりましたが、現在、次の候補薬となる同「LY3537982」のP1/2試験を計画中です。同社によると、同薬はより選択性が高く、強力な抗腫瘍効果が見込めるといい、この候補薬で巻き返しを図ります。

 

米ジェネンテックは昨年、自社創製のKRAS G12C阻害薬「GDC-6036/RG6330」で、単剤療法と併用療法を評価するP1試験を開始。昨年末にはRG6330との併用を念頭に、米リレー・セラピューティクスからSHP阻害薬「RLY-1971」を導入しました。ノバルティスもKRAS G12C阻害薬「JDQ443」のP1/2試験を計画しています。

 

【KRASを標的とする主な開発品】(2021年3月現在)(社名/一般名/開発コード/作用機序/最も進んだ開発段階): 米アムジェン/sotorasib/KRAS/G12C阻害薬/申請 |米ミラティ/adagrasib/KRAS/G12C阻害薬/P3 |米ミラティ/MRTX1133/KRAS/G12D阻害薬/P1準備中 |独ベーリンガーインゲルハイム/BI/1701963/SOS1:汎KRAS阻害薬/P1 |米ジェネンテック/RG6330/KRAS/G12C阻害薬/P1 |米モデルナ/mRNA-5671/がんワクチン/P1 |米イーライリリー/LY3537982/KRAS/G12C阻害薬/P1/2計画中 |スイス・ノバルティス/JDQ443/KRAS/G12C阻害薬/P1/2計画中 |米レボリューション/RMC-6291/KRAS/G12C/NRAS/G12C阻害薬/前臨床 |米レボリューション/RMC-6236/RAS(ON)阻害薬/ |※各社のパイプラインやリリースなどをもとに作成

 

大塚ホールディングス(HD)傘下の大鵬薬品工業は、同じ大塚グループの英アステックス、米メルクと戦略提携を結び、KRAS遺伝子を含む複数のターゲットに対する低分子阻害薬の共同開発に乗り出しました。候補化合物の商業化はメルクが主導し、大鵬は日本での共同商業化と東南アジアで販促を行う権利を保有しています。今年1月には提携を拡大し、大鵬とアステックスが開発してきたSHP2を標的とする候補プログラムについて、ライセンスをメルクに供与しました。

 

KRASをターゲットとする治療薬としては、米モデルナのがんワクチン「mRNA-5671」も開発段階にあり、前臨床の段階にも複数の開発品が控えています。KRAS阻害薬の市場は、2025年までに10億ドル規模になるとの予測もあり、市場形成の動きにも注目が集まりそうです。

 

(亀田真由)

 

AnswersNews編集部が製薬企業をレポート
大塚ホールディングス(大塚製薬/大鵬薬品工業)

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