長期化するコロナ禍の中で迎えた2022年。4月に行われる薬価改定では過去10年で2番目に大きい1.35%の引き下げが行われ、後発医薬品の供給不安は今年も尾を引きそう。新型コロナワクチンの3回目の接種が本格化する一方、国産ワクチンが実用化にこぎつけられるか、注目されます。
薬価改定 6000億円程度の医療費削減に
4月に行われる2022年度薬価改定は、医療費ベースで1.35%の引き下げとなることが決まりました。改定率の内訳は、実勢価などによる改定部分がマイナス1.44%、不妊治療の保険適用のための特例的な対応部分がプラス0.09%で、差し引き1.35%の引き下げは6000億円以上の医療費削減に相当します。
薬価をめぐっては、21年度からいわゆる中間年改定がスタートし、昨年4月に乖離率5%超の1万2180品目(薬価収載されている全医薬品の約7割に相当)で薬価の見直しが行われたばかり。過去10年で見ると、22年度改定の引き下げ幅は、「薬価制度の抜本改革」として新薬創出・適応外薬解消等促進加算の縮小や長期収載品の段階的引き下げ(いわゆる「Z2」)が導入された18年度改定(マイナス1.65%)に次いで大きく、製薬各社の経営に大きなダメージを与えるのは必至です。
後発品 尾を引く供給不安
同じく4月に行われる薬価制度改革では、▽新規収載時なら有用性加算などに相当する適応拡大を行った品目は、一定の要件を満たせば新薬創出加算の対象とする▽市場拡大再算定の特例の対象品・類似品として薬価引き下げを受けた品目は、そこから4年間、1回に限って他品目の類似品として市場拡大再算定の対象としない――など、イノベーションを評価する方向で一定のルール見直しを実施。一方で、原価計算方式で薬価算定される医薬品のうち、原価の開示度が50%未満の品目は加算係数をゼロとする(実質的に加算を適用しない)など厳しい内容も含まれています。中間年改定のあり方については「引き続き検討する」とされており、来年度の改定に向けて議論が続くことになります。
供給不安に揺れる後発医薬品の収載時薬価は、現行の「先発医薬品の50%」を維持することとなりました。ひとまずは難を逃れましたが、昨年相次いだ不祥事に端を発する供給問題は今年も尾を引きそう。サワイグループホールディングスは3月までに小林化工から生産拠点と関連人員を譲り受けますが、出荷開始は来春となる見通し。東和薬品も今年、山形工場に500億円超を投じて建設する新製造棟が着工するものの、稼働開始は24年4月を見込んでいます。日本ジェネリック製薬協会加盟38社で2500品目超が出荷調整を行う中(昨年12月14日時点)、供給増の即効薬はなく、綱渡りの供給が続きます。
コロナワクチン 年内承認目指す国内メーカー
新型コロナウイルス対策では、ワクチンの追加接種が本格化します。ファイザー/ビオンテック製もモデルナ製も、3回目を接種することでオミクロン株にも効果を示すとされており、政府は追加接種を急ぎます。新型コロナワクチンは現在、12歳以上が対象ですが、ファイザーは昨年11月に5~11歳への対象拡大を申請しており、早ければ3月ごろから接種が可能となる見込みです。
新型コロナワクチンをめぐっては、国内メーカーの開発品が実用化にこぎつけられるかが注目されます。現在、塩野義製薬(組換えタンパクワクチン)とKMバイオロジクス(不活化ワクチン)が臨床第2/3相(P2/3)試験を、第一三共(mRNAワクチン)がP2試験を実施中。塩野義は最短で今年3月までの実用化を目指しており、第一三共は年内、KMバイオロジクスも22年度中の実用化を目標としています。田辺三菱製薬は、カナダ子会社メディカゴが開発したウイルス様粒子ワクチンを春にも申請する方針です。
緊急承認制度創設へ
治療薬では、昨年末にMSDの経口抗ウイルス薬「ラゲブリオ」(一般名・モルヌピラビル)が承認。ファイザーの同パクスロビドも今年の早い時期に使用可能となる見込みです。日本企業では塩野義が経口抗ウイルス薬「S-217622」のP2/3試験を進めており、早期の実用化を目指します。
新型コロナをめぐっては、ワクチンの承認が欧米より遅れたことを踏まえ、政府は感染症の流行時にワクチンや治療薬を迅速に承認できる「緊急承認制度」を創設する方針。昨年末、厚生労働省の厚生科学審議会医薬品医療機器制度部会がまとめた制度案によると、安全性の確認を前提に、有効性が「推定」されれば承認を可能とします。政府は今年の通常国会で医薬品医療機器等法の改正を目指します。
初のKRAS阻害薬や経口中絶薬など承認見込み
国内では今年も、注目の新薬が続々と登場する見込みです。
がん領域では、初のKRAS(KRAS G12C)阻害薬となるアムジェンのソトラシブが承認予定。昨年12月の薬事・食品衛生審議会医薬品第二部会で承認が了承されており、今年早々に承認される見通しです。ソレイジア・ファーマはミトコンドリアを標的とした末梢性T細胞リンパ腫治療薬ダリナパルシンを申請中。承認されれば世界初で、承認後の販売は日本化薬が行います。大鵬薬品工業が自社創製したHSP90阻害薬ピミテスピブも年内の承認が予想されます。
中外製薬は、抗VEGF/Ang-2バイスペシフィック抗体ファリシマブを糖尿病黄斑浮腫と加齢黄斑変性の治療薬として昨年6月に申請。ラインファーマが昨年12月に申請したミフェプリストン・ミソプロストールは、国内では初の経口人工妊娠中絶薬として注目されています。
先駆け指定の酸性スフィンゴミエリナーゼ欠乏症治療薬も承認へ
昨年、相次いで新薬が発売された片頭痛の領域では、日本イーライリリーがセロトニン受容体作動薬ラスミジタンを申請中。昨年発売した抗CGRP抗体「エムガルティ」と同様に、販売は第一三共が担当します。
このほか、MSDの慢性咳嗽治療薬ゲーファピキサントや武田薬品工業の遺伝性血管性浮腫治療薬ラナデルマブ、国内初のTYK2阻害薬となるブリストル・マイヤーズスクイブの乾癬治療薬デュークラバシチニブ、サノフィの酸性スフィンゴミエリナーゼ欠乏症治療薬オリプダーゼ アルファなどが承認の見込み。オリプダーゼ アルファは先駆け審査指定制度の対象品目です。
協和キリンは腎機能改善効果を持つとされるバルドキソロンメチルをアルポート症候群治療薬として申請中ですが、米国では昨年末、FDA(食品医薬品局)の諮問委員会が同治療薬としての承認に否定的な見解を示しており、日本での判断が注目されます。
このほか、今年注目の動きとしては、不妊治療の保険適用やグローバルバイオコミュニティの認定などが挙げられます。グローバルバイオコミュニティの形成は、国が2020年にまとめた「バイオ戦略2020」に主要施策として盛り込まれたもので、昨年、東京圏と関西圏でコミュニティ形成に向けた協議会が発足。3月までに国の認定を受け、世界的なバイオイノベーションの創出拠点となるべく、活動を本格化させます。