新型コロナウイルスワクチン 日本国内の開発・接種状況は(4月7日更新)

欧米から遅れること2カ月、国内でも2月から新型コロナウイルスワクチンの接種が始まっています。接種の状況や、承認を取得したファイザーに続くワクチンの開発状況をまとめました。
高齢者は4月12日から
2月17日、日本でもようやく新型コロナウイルスワクチンの接種が始まりました。政府は同月14日、米ファイザーと独ビオンテックが共同開発したmRNAワクチン「コミナティ」を特例承認。現在、医療従事者への優先接種が行われています。
厚生労働省のまとめによると、4月6日時点での接種実績は計128万8566回。うち29万2508回は2回目の接種です。3月21日までにアナフィラキシーが疑われる症例が181件件報告されていますが、このうち国際分類に照らしてアナフィラキシーに該当すると判断されたのは47件。接種100万回あたりの発生件数は81件です。疑い例も含め、全ての症例が治療により軽快しています。
6月末までに高齢者分の配布完了
ワクチンの供給は順次行われることから、政府は(1)国立病院機構などの医療従事者への先行接種=4万人(2)それ以外の医療機関の医療従事者=約480万人(3)65歳以上の高齢者=約3600万人(4)高齢者以外で基礎疾患のある人=約1030万人・高齢者施設などの職員=約200万人――の順に接種を進める方針です。
2月17日にスタートしたのは一部医療機関の医療従事者を対象とした先行接種で、3月3日にはそれ以外の医療従事者への優先接種も始まりました。65歳以上の高齢者への接種は4月12日に一部地域で始まる予定。同月26日の週にはすべての市区町村にワクチンが1箱(195バイアル入り、1バイアル5回接種で975回分)ずつ配布されることになっていて、5月9日までには4000箱(390万回分)程度を市区町村の需要に応じて配分する計画です。高齢者分は5月10日からの2週間で1万6000箱近くが自治体に配布される見込みで、全国の高齢者の約半分が1回目の接種を受けられるといいます。
ワクチンの需給は世界的に逼迫しており、供給に遅れが出ているEU(欧州連合)では、域外へのワクチンの輸出に事前申告と許可の取得を義務付けました。国内の接種スケジュールは供給に大きく左右され、綱渡りの状況が続きます。
政府によると、ファイザー製のワクチンは3月中に3985箱(約386万回分)、4月に1万475箱(約1021万回分)が供給される予定で、5月は毎週9188箱(約896万回分)ずつ、6月はさらにそれを上回る供給を見込んでいるといいます。この供給スケジュールはEUが輸出を承認することが前提となりますが、政府は5月10日の週に優先接種対象の医療従事者全員が2回接種できる量の配布を完了できるとしています。高齢者向けは、6月末までに2回接種に必要な量を供給できる見込みです。
「基礎疾患のある人」対象は1000万人以上
医療従事者と高齢者に続いて優先接種の対象となる基礎疾患は、▽慢性の呼吸器疾患▽慢性の心臓病▽慢性の腎臓病▽糖尿病▽血液疾患▽免疫の機能が低下する疾患――など。妊婦については、ワクチンの安全性・有効性に関するデータが不足しているため、現時点では優先接種の対象に含まれていません。
ファイザーのワクチンは現在、16歳以上が対象となっていますが、海外で行われた臨床試験では12~15歳でも安全性と有効性が確認されたと発表されました。同社は今後、各国の規制当局にデータを提出し、12~15歳への使用許可を求める方針。政府は「薬事上の手続きがなされれば、有効性、安全性を適切に判断する」としており、16歳以上を対象としている予防接種法上の新型コロナウイルスワクチン接種の枠組みをどうするかについても検討することにしています。
アストラゼネカとモデルナは5月にも
日本政府は、ファイザーから年内に1億4400万回分(7720万人分)の供給を受ける契約を結んでいるほか、英アストラゼネカから1億2000万回分(6000万人分)、米モデルナから5000万回分(2500万人分)の供給契約を結んでいます。
アストラゼネカのウイルスベクターワクチンは2月5日に承認申請。モデルナのmRNAワクチンも、日本での供給を請け負う武田薬品工業が3月5日に申請しました。順調にいけば5月にも承認され、国内で3つの新型コロナウイルスワクチンが使えるようになる見込みです。
第一三共とKMバイオが臨床試験開始
国内では、今年2月に米国で緊急使用許可が認められたジョンソン・エンド・ジョンソンのウイルスベクターワクチンが臨床第1/2相(P1/2)試験を行っています(国内治験はヤンセンファーマが実施)。武田は、米ノババックスが開発した組換えタンパクワクチンも国内で生産・供給することになっており、2月24日からP1/2試験を実施中。今年後半の供給開始を目指すとしています。
日本企業では、アンジェスがDNAワクチンのP2/3試験を行っていて、塩野義製薬は組換えタンパクワクチンのP1/2試験を実施中。KMバイオロジクスと第一三共も3月からP1/2試験を行っています。
ワクチンの開発は感染状況にも左右され、有効なワクチンの接種が始まれば、特に遅れをとっている日本勢は大規模な臨床試験を行うのが難しくなる可能性があります。医薬品医療機器総合機構(PMDA)は昨年9月に発表した指針で、海外で発症予防効果が確認されたワクチンと比較することで有効性を評価できる可能性に言及。海外での大規模臨床試験の実施も視野に入れる必要があり、国産ワクチンの実用化はまだはっきりと見通すことはできません。
生産体制を整備
開発と並行して、生産体制の整備も進められています。政府は2020年度の第2次補正予算に、生産設備などの費用を補助する「ワクチン生産体制等緊急整備基金」として1377億円を計上。昨年の第1次公募では、▽アストラゼネカ▽アンジェス▽塩野義製薬▽KMバイオロジクス▽第一三共▽武田薬品工業――の6社に総額900億円あまりが助成されました。
日本勢で開発が先行するアンジェスは、タカラバイオなどの参画を得て生産体制を構築。塩野義は、アピとその子会社であるUNIGENと協力し、21年度末までに年間3500万人分の生産体制を整備することを目指しています。23年度の実用化を目指しているKMバイオロジクスも、21年度末までに半年で3500万回分を生産できる体制を整備中。武田薬品は、ノババックスから技術移転を受けて国内生産することになっており、年間2億5000万回分以上の生産能力を構築するとしています。
アストラゼネカは、日本向けのワクチンの多くを国内で製造する方針。ワクチン原液をJCRファーマが製造し、国内での製剤化や流通は、第一三共、第一三共バイオテック、MeijiSeikaファルマ、KMバイオロジクスが担います。第一三共とKMバイオロジクスは、アストラゼネカから提供された原液を使って国内での製剤化を始めています。
準備急ピッチ
新型コロナウイルワクチンの接種は、予防接種法に基づく「臨時接種」の特例として、国の指示の下、都道府県が協力し、市町村が主体となって実施。接種費用は国が全額負担し、接種は原則として住民票のある市町村で受けることになります。接種の期間は来年2月末まで。自治体では現在、高齢者への接種開始に向け、接種会場の確保や対象者への通知といった準備が急ピッチで進められています。
厚労省の3月16日時点の集計によると、全国の市区町村は高齢者への接種に向けて計3万2468カ所の接種会場を確保しています。このうち、保健所や学校、公民館などの特設会場は3849カ所。残りは医療機関で、個別接種を中心に行う医療機関が2万1398カ所、集団接種を中心に行う医療機関が3347カ所、両方を組み合わせて行う医療機関が3874カ所となっています。
ファイザーのワクチンはドライアイス入りの保冷ボックで保管することもできますが、10日程度が限界といいます。解凍後は5日で使い切らなければならず、綿密に計画しなければ限られたワクチンを無駄にすることになりかねません。
複数のワクチンが国内で使用できるようになれば、それぞれのワクチンの特性に応じた管理や接種体制が必要になります。国は、1つの接種会場で取り扱うワクチンは原則1種類とし、やむを得ず複数のワクチンを扱う場合も曜日によって明確に区分するなどの対応を要請しています。医療機関や接種対象者が混乱しないよう、入念な準備と周知が求められます。
(前田雄樹)
(公開:2021年1月14日/最終更新:2021年4月7日)
【AnswersNews編集部が製薬企業をレポート】
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