2019年に日本と米国、欧州で承認された主な新薬(新規有効成分)を領域別にまとめました。市場拡大が著しいがん領域のほか、神経・筋疾患領域で多くの新規有効成分が登場。希少疾患向けの新薬も目立ちました。
INDEX
がん
がん領域では、第一三共が大型化を期待する抗HER2抗体薬物複合体(ADC)「Enhertu」(一般名・トラスツズマブ デルクステカン)が米国で承認。日本でも年内の承認が見込まれています。ADCではこのほか、アステラス製薬の抗ネクチン4ADC「Padcev」とスイス・ロシュの抗CD79bADC「Polivy」が米国で承認。Polivyは欧州でも今月承認を取得しました。
第一三共はEnhertuのほか、「Turalio」(米)と「ヴァンフリタ」(日)の承認を取得。ヴァンフリタは欧米でも申請しましたが、いずれも当局が承認を見送っています。
ロシュのROS1/TRK阻害薬「ロズリートレク」は19年に日本と米国で承認を取得しました。NTRK融合遺伝子陽性固形がんを対象に一足先に米国で承認を取得していた独バイエルの同「Vitrakvi」は19年に欧州で承認。ベイジーンのBTK阻害薬「Brukinsa」は中国企業が開発した抗がん剤として初めて米国で承認を取得しました。
神経・筋疾患
脊髄性筋萎縮症に対する遺伝子治療薬「Zolgensma」は米国で承認を取得。1回あたり2億円を超える価格がついたことでも話題となりました。日本と欧州では申請中です。
ファイザーの「ビンダケル」はトランスサイレチン型心アミロイドーシスの治療薬として新たに米国で承認。トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチーの適応ですでに販売されていた日本でも、19年にトランスサイレチン型心シミロイドーシスへの適応拡大が承認されました。
トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチーでは、siRNA「オンパットロ」が19年に日本で承認(欧米では18年承認)。ノバルティスの多発性硬化症治療薬「Mayzent」は19年に米国で承認されたほか、今年に入って欧州でも承認を取得しました。日本でも申請中で、年内の承認が見込まれます。
代謝・腎・循環器・消化器
腎領域では、HIF-PH阻害薬「エベレンゾ」が腎性貧血を対象に日本で承認。米国でも昨年12月に申請しています。日本ではほかにも3品目が申請中で、今年以降、市場競争が激化する見通しです。
アルナイラムの「Givlaari」は急性肝性ポルフィリン症を対象とするsiRNA。米国で19年に承認を取得したほか、欧州でも申請中です。日本では臨床第3相(P3)試験を行っており、年内の承認申請を目指しています。
米国で承認された過敏性腸症候群治療薬「Ibsrela」は、腸内のNHE3を阻害してナトリウムの吸収を抑える新規の作用機序を持っています。日本では協和キリンが維持透析下の高リン血症の適応で開発中です。
精神
米国ではナルコレプシー治療薬2品目(アイルランド・ジャズの「Sunosi」と仏バイオプロジェクトの「Wakix」)が承認を取得。同じく米国で承認を取得した「Zulresso」は、世界初の産後うつ治療薬として注目されました。
エーザイは自社創製の不眠症治療薬「デエビゴ」が昨年12月に米国で承認。今年1月には日本で承認されました。日本ではこのほか、注意欠陥/多動性障害治療薬「ビバンセ」やうつ病治療薬「トリンテリックス」など、海外で標準的に使われている薬剤も承認を取得しました。
皮膚・眼・骨・関節・疼痛
ノバルティスの新規眼科用抗VEGF抗体「Beovu」が世界に先駆けて米国で承認を取得しました。加齢黄斑変性治療薬として世界で最も売れている「アイリーア」よりも投与間隔が長く、同薬をしのぐ大型薬になると予想されています。日本と欧州でも申請中で、いずれも20年に承認される見込みです。
骨粗鬆症治療薬「イベニティ」は日米欧で承認。協和キリンが世界戦略品と位置付ける抗FGF23抗体「クリースビータ」は、18年の欧米に続いて日本でも承認を取得しました。
血液
血液領域では、発作性夜間ヘモグロビン尿症治療薬「ユルトミリス」が日本と欧州で(米国は18年承認)、後天性血栓性血小板減少性紫斑病治療薬「Cablivi」が米国で(欧州は18年承認、日本はP2/3試験中)承認を取得しました。
米グローバル・ブラッドの鎌状赤血球症治療薬「Oxbryta」は、疾患の原因である脱酸素化鎌状ヘモグロビン重合を阻害する初めての薬剤。米ブルーバード・バイオの「Zynteglo」は、患者から採取したCD34陽性細胞にβグロビン遺伝子を導入し、再び患者の体内に戻す遺伝子治療です。
感染症
抗菌薬では、「Recarbrio」(米メルク)と「Fetroja」(塩野義製薬)が米国で、「ザバクサ」(米メルク)が日本で承認されました。Fetrojaはカルバペネム耐性菌などに有効となる新規のシデロフォアセファロスポリン抗菌薬。欧州でも申請中です。
米ギリアド・サイエンシズの「エプクルーサ」は、国内初の非代償性肝硬変を伴うC型肝炎治療薬。欧米から3年遅れての承認となりました。
ワクチン
エボラ感染症ワクチン「Ervebo」やデング熱ワクチン「Dengvaxia」など、新興・再興感染症に対するワクチンが欧米で承認。ErveboはWHO(世界保健機関)の要請に基づき、エボラ出血熱のアウトブレイクが発生したコンゴでも使用されました。
(亀田真由)