2020年に発売が予想される新薬を領域別に2回に分けて紹介します。2回目は「腎」「糖尿病」「呼吸器」「皮膚」「眼科」とその他の領域です(1回目の記事はこちら)。
INDEX
【腎・糖尿病】HIF-PH阻害薬3品目が発売へ、糖尿病には経口GLP-1
腎臓の領域では、昨年発売されたアステラス製薬の「エベレンゾ」(一般名・ロキサデュスタット)に続き、腎性貧血治療薬のHIF-PH阻害薬が3品目発売される見通しです。
申請中の3品目は、▽田辺三菱製薬のバダデュスタット▽グラクソ・スミスクラインのダプロデュスタット▽日本たばこ産業(JT)のエナロデュスタット――で、昨年夏から秋にかけて相次いで申請を行いました。HIF-PH阻害薬は昨年のノーベル医学生理学賞を受賞した細胞の低酸素応答の仕組みを応用したもので、次世代の腎性貧血治療薬として期待されています。
HIF-PH阻害薬は経口剤で、注射のESA製剤に比べて患者の負担が少ないのが特徴の1つ。そのメリットが生きるのは透析開始前の「保存期」の患者ですが(透析期の患者には透析回路を通じて投与できるため注射剤であることの負担はほとんどない)、エベレンゾは現時点では透析期の適応しか持っていません。一方、申請中の3剤はいずれも透析期を含んでいるとみられ、ESA製剤も交えた販売競争の行方が注目されます。
アストラゼネカ、高カリウム血症薬で腎領域参入
アストラゼネカが申請中のジルコニウムシクロケイ酸ナトリウム水和物は高カリウム血症治療薬。選択性の高いカリウム吸着剤として作用する薬剤で、既存薬に比べて服薬量が少なく飲みやすいのが特徴です。
一方、糖尿病ではノボノルディスクファーマの経口セマグルチドに注目。GLP-1受容体作動薬は国内ですでに5品目が販売されていますが、経口剤はセマグルチドが初めてです。GLP-1受容体作動薬は、大日本住友製薬の「トルリシティ」(デュラグルチド)が19年3月期に231億円(前期比45.1%増)を売り上げるなど存在感は増しており、経口剤の登場で使用がさらに広がるかもしれません。
サノフィが申請中のインスリン グラルギン/リキシセナチドは、基礎インスリン「ランタス」とGLP-1受容体作動薬「リキスミア」の配合剤。インスリンとGLP-1受容体作動薬の組み合わせでは、ノボノルディスクの「ゾルトファイ」(インスリン デグルデク/リラグルチド)が昨年6月から販売されており、2剤目となります。
【呼吸器】ノバルティスもICS/LABA/LAMA3剤配合剤を発売へ
呼吸器領域では、ノバルティスファーマが気管支喘息治療薬2剤を発売する見込みです。
1つ目はモメタゾンフランカルボン酸エステル/インダカテロール酢酸塩で、吸入ステロイド(ICS)と長時間作用性β2刺激薬(LABA)の配合剤。2つ目はモメタゾンフランカルボン酸エステル/インダカテロール酢酸塩/グリコピロニウム臭化物で、ICSとLABA、長時間作用性抗コリン薬(LAMA)の3剤配合剤です。
ICS/LABA/LAMAの3剤配合剤は、昨年5月発売の「テリルジー」(グラクソ・スミスクライン)と同9月発売の「ビレーズトリ」(アストラゼネカ)に続いて国内3品目目。これら2製品はいずれも慢性閉塞性肺疾患(COPD)が対象で、気管支喘息ではノバルティスが初となります。
【皮膚・眼】アトピーに初のJAK阻害薬、加齢黄斑変性には新規抗VEGF抗体
皮膚科の領域では、国内初の外用JAK阻害薬が登場する見通し。JTが自社創製のデルゴシチニブ(予定製品名・コレクチム)の軟膏剤をアトピー性皮膚炎の適応で申請しており、1月の承認、4月の薬価収載が見込まれます。まずは成人の患者が対象となりますが、JTは2歳以上の小児患者への適応拡大に向けた国内臨床第3相(P3)試験を実施中。販売は子会社の鳥居薬品が行います。
眼科の領域では、ノバルティスが加齢黄斑変性治療薬の抗VEGF抗体ブロルシズマブを申請中。投与は3カ月ごとと、維持期で2カ月に1回の投与が必要な参天製薬の抗VEGF薬「アイリーア」(一般名・アフリベルセプト)より長く、患者負担の軽減につながると期待されています。
効果の面でも、ブロルシズマブはこれまでの臨床試験でアイリーアと同等かそれ以上の有効性を確認。国内で年間500億円以上を売り上げるアイリーアをしのぐ大型薬になる可能性があります。
【その他】心不全にネプリライシン阻害薬/ARB、先駆け指定のHAE薬も
その他の領域では、ノバルティスの心不全治療薬サクビトリルバルサルタンナトリウム水和物や、米バイオクリストの遺伝性血管性浮腫(HAE)発作抑制薬BCX7353(開発コード)などが注目。
サクビトリルバルサルタンナトリウム水和物は、ネプリライシン阻害薬サクビトリルにアンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)バルサルタンを組み合わせた薬剤。心臓に対する防御的な神経ホルモン機構(NP系、ナトリウム利尿ペプチド系)を促進するとともに、過剰に活性化したレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系を抑制することで効果を示します。
左室駆出率が低下した心不全(HFrEF)を対象に行われた臨床試験では、ACE阻害薬エナラプリルに比べて死亡や入院のリスクを抑制。一方、左室駆出率が保たれた心不全(HFpEF)を対象に行われたバルサルタンとの比較試験では、心不全による全入と心血管死の複合エンドポイントを減少させたものの、統計学的有意差を示すことはできませんでした。
BCX7375はまもなく申請
BCX7353は、ブラジキニン産生酵素を特異的に阻害することでHAEの急性発作を予防する薬剤です。HAEは補体第1成分阻害因子の欠損によってブラジキニンが過剰に産生されることが原因で発症する遺伝性の疾患。四肢や顔、消化器などに突発的な浮腫が起こり、日常生活に大きな影響を及ぼします。
バイオクリストはBCX7375を今年1~3月に申請する予定。先駆け審査指定制度の対象品目に指定されており、年内の承認が見込まれます。同社は鳥居薬品に日本での独占的販売権を供与しており、承認取得後は鳥居が販売を行います。
(前田雄樹)