2020年に発売が予想される新薬を領域別に2回に分けて紹介します。1回目は「がん」「神経・筋疾患」「精神疾患」「リウマチ」です(2回目の記事はこちら)。
INDEX
【がん】大型化期待のトラスツズマブ デルクステカン 腎細胞がんにはカボザンチニブ
市場拡大が著しいがん領域では、今年も注目の新薬が相次いで登場する見通しです。
第一三共のトラスツズマブ デルクステカンは、抗HER2抗体トラスツズマブに抗がん剤を結合させた抗体薬物複合体(ADC)。HER2陽性乳がんの適応で昨年9月に申請しており、夏から秋にかけての発売が予想されます。大型化の呼び声が高く、がん事業の確立を目指す第一三共にとって重要な製品。米国では一足先に昨年12月に「ENHERTU(エンハーツ)」の製品名で承認され、1月に販売を開始しました。
HER2を標的とするADCとしてはすでに、中外製薬の「カドサイラ」(一般名・トラスツズマブ エムタンシン)が販売中。トラスツズマブ デルクステカンは、まずカドサイラでの治療歴がある患者(サードライン以降)が対象となりますが、より早期への適応拡大を目指した臨床試験も行われています。先駆け審査指定制度の対象に指定されているHER2陽性胃がんでも20年度第1四半期(4~6月)の申請を予定しており、こちらも年内に承認にこぎつけるかもしれません。
先駆け指定のBNCTやBTK阻害薬も
武田薬品工業が昨年4月に腎細胞がんの適応で申請したカボザンチニブリンゴ酸塩は、AXLとMET、VEGFRを阻害するチロシンキナーゼ阻害薬です。米エクセリシスからの導入品で、申請の根拠の1つとしている海外臨床第2相(P2)試験「CABOSUN」では、腎細胞がん治療のキードラッグである「スーテント」(スニチニブ)に比べて未治療患者の無増悪生存期間(PFS)を有意に延長。1次治療の新たな選択肢として期待されます。
武田はこのほか、英グラクソ・スミスクライン(旧・米テサロ)から導入した卵巣がん治療薬ニラパリブトシル酸塩水和物も申請中。国内ではアストラゼネカの「リムパーザ」(オラパリブ)に続く2剤目のPARP阻害薬となります。
ステラファーマのボロファラン(10B)は、ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)に使うホウ素製剤です。BNCTは、ホウ素が集まったがん細胞に体外から中性子線を照射し、ホウ素と中性子線がぶつかることで発生する放射線によってがん細胞を破壊する治療法。先駆け審査指定制度の対象品目に指定されており、頭頸部がんを対象に今春にも承認される見通しです。
小野薬品工業が昨年8月に申請したチラブルチニブ塩酸塩はBTK(ブルトン型キナーゼ)阻害薬。バイエル薬品のダロルタミド(予定製品名・ニュベルオク)は「イクスタンジ」(エンザルタミド、アステラス製薬)や「アーリーダ」(アパルタミド、ヤンセンファーマ)と同じアンドロゲン受容体阻害薬で、1月に承認され4月に薬価収載となる見通し。サノフィのイサツキシマブは、ヤンセンの「ダラザレックス」に続く抗CD38抗体です。
【神経・筋疾患】ゾルゲンスマは薬価に注目、国産初の核酸医薬も
神経・筋疾患の領域では、ノバルティスファーマの脊髄性筋萎縮症向け遺伝子治療薬AVXS-101(開発コード、海外製品名・ゾルゲンスマ)が発売となる見通し。先駆け審査指定制度の対象品目で、本来なら昨年半ばの承認が見込まれていましたが、審査が長引いたことで承認は今年に持ち越されました。ノバルティスは「2020年上半期の承認取得を目指している」としています。
AVXS-101は脊髄性筋萎縮症患者で欠失・変異しているSMN遺伝子が主成分。投与することで運動ニューロンの正常な機能を維持するのに必要なSMNタンパク質を産生させ、神経・骨格筋の機能を改善します。19年に発売された米国では2億円を超える価格がついており、日本でも薬価が議論を呼ぶことになりそうです。
リサイクリング抗体も発売へ
日本新薬が昨年9月に申請したデュシェンヌ型筋ジストロフィー治療薬ビルトラルセンは、順調にいけば今年春に承認となる見通し。同薬はジストロフィン遺伝子のmRNA前駆体に作用し、スプライシングの過程でエクソン53をスキップ(読み飛ばす)ことで機能を持ったジストロフィンタンパク質を産生させます。承認されれば国産初の核酸医薬となる見通しです。
中外製薬のサトラリズマブは、抗原に繰り返し結合できる同社独自の「リサイクリング抗体」で、視神経脊髄炎スペクトラムを対象に年内に承認される見通し。ノバルティスの多発性硬化症治療薬シポニモドフマル酸は「ジレニア/イムセラ」(フィンゴリモド塩酸塩)と同じS1P受容体調整薬ですが、両剤では有効性・安全性が確立していない「二次性進行型」の患者が対象となります。
【精神】大日本住友の主力品「ラツーダ」ようやく日本でも
精神疾患の領域では、エーザイの不眠症治療薬レンボレキサント(予定製品名・デエビゴ)が今年春に発売となる見通し。同薬はエーザイが創製したオレキシン受容体拮抗薬で、MSDが14年に発売した「ベルソムラ」(スボレキサント)と同じ作用機序です。
大日本住友製薬は、抗精神病薬ルラシドン塩酸塩がようやく発売にこぎつけそう。同薬は10年に米国で承認を取得し、19年3月期に北米で1845億円を売り上げた同社の主力品ですが、日本では統合失調症を対象としたP3試験に2度失敗。3度目でプラセボに有意差をつけ、統合失調症と双極性障害うつの2適応で昨年7月に申請しました。
【リウマチ】4剤目・5剤目のJAK阻害薬が発売へ
関節リウマチでは、2つのJAK阻害薬が新たに登場します。
1つはアッヴィのウパダシチニブ水和物(予定製品名・リンヴォック)で、1月に承認され4月に薬価収載される見通しです。もう1つはギリアド・サイエンシズのフィルゴチニブ。こちらは秋から冬にかけての承認が見込まれます。
JAK阻害薬は、炎症性サイトカインによる細胞内のシグナル伝達を阻害することで炎症を抑える薬剤。国内では▽「ゼルヤンツ」(トファシチニブ、ファイザー)▽「オルミエント」(バリシチニブ、日本イーライリリー)▽「スマイラフ」(ペフィシチニブ、アステラス製薬)――の3剤がすでに関節リウマチ治療薬として販売されており、ウパダシチニブは4番手、フィルゴチニブは5番手となります。
(前田雄樹)
【AnswersNews編集部が製薬企業をレポート】