平成が終わり、令和の時代を迎えた2019年。いろいろあった今年の製薬業界を2回に分けて振り返ります。(製薬業界 回顧2019[1]はこちら)
「キムリア」「コラテジェン」「オンパットロ」が承認
CAR-T細胞療法に遺伝子治療、siRNA核酸医薬…。2019年は国内初の新規モダリティ(治療手段)が相次いで承認されました。
3月にはノバルティスファーマのCAR-T細胞療法「キムリア」(一般名・チサゲンレクルユーセル)と、アンジェスの重症虚血肢向け遺伝子治療薬「コラテジェン」(ベペルミノゲン ペルプラスミド)が承認。6月には、アルナイラム・ジャパンのトランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチー治療薬のsiRNA「オンパットロ」(パチシラン)が承認されました。
これらの治療薬は、革新性の高さだけでなく、薬価も注目されました。いずれもCD19陽性のB細胞性急性リンパ性白血病とびまん性大細胞型B細胞リンパ腫を対象に承認されたキムリアには3349万円と過去最高の薬価がつきました。一方、投与1回あたり60万円となったコラテジェンに対しては株式市場で「薬価が安すぎる」との受け止めが広がり、アンジェスの株価は大きく下落しました。
今年はキムリアに加え、投与1回あたり1496万円の「ステミラック」(ニプロ)も承認され、再生医療等製品の価格のあり方が議論になりました。中央社会保険医療協議会(中医協)が年末にまとめた2020年度薬価制度改革の骨子では、補正加算前の価格が1000万円を超え、かつピーク時の予測市場規模が50億円を超える再生医療等製品は、価格に応じて補正加算の加算率に傾斜をつけることが決まりました。
ノバルティスが昨年11月に申請し、今年半ばの承認が見込まれていた脊髄性筋萎縮症向け遺伝子治療薬「AVXS-101」(海外製品名・ゾルゲンスマ)の承認は来年に持ち越されました。同薬には米国で1回の投与に2億円を超える価格がついており、日本でも来年、価格のあり方が議論を呼びそうです。
HIF-PH阻害薬が登場、国内初のバイオAGも
新規のモダリティ以外でも、今年は市場に転換をもたらすような新薬がいくつか登場しました。
その1つが、アステラス製薬が11月に発売した腎性貧血治療薬「エベレンゾ」(ロキサデュスタット)。今年のノーベル医学生理学賞を受賞した「細胞の低酸素応答」の仕組みを利用したHIF-PH阻害薬で、ほかにも3品目が申請中です。来年以降、激しい市場競争に突入する見通しで、経口剤であるHIF-PH阻害薬が注射剤のESA製剤から市場を奪うのか注目されます。
さらに今年はESA製剤で売り上げトップの「ネスプ」が特許切れを迎え、製造販売元の協和キリンは8月に子会社を通じて同薬のオーソライズド・ジェネリック(AG)を発売。バイオ医薬品のAGは国内初で、通常のバイオシミラーと同じ「先行品の7割」の薬価で収載されました。ネスプをめぐっては11月以降に3社がバイオシミラーを発売しましたが、AGの前に苦戦を強いられることになりそうです。
骨粗鬆症の領域では、骨吸収抑制と骨形成促進という2つの作用を併せ持つ初めての薬剤「イベニティ」(ロモソズマブ、アステラス・アムジェン・バイオファーマ)が発売。ピーク時売上高予測は329億円と大型化が見込まれており、想定を上回るスピードで浸透しているといいます。今年はこのほか、副甲状腺ホルモン製剤「フォルテオ」(テリパラチド)のバイオシミラーを持田製薬が発売しました。
がん遺伝子パネル検査が保険適用
市場拡大が著しいがん領域では、アッヴィが白血病治療薬「ベネクレクスタ」(ベネトクラクス)の発売によって参入。第一三共は大型化を期待する抗HER2抗体薬物複合体(ADC)のトラスツズマブ デルクステカンを申請しました。同薬をめぐっては、グローバルでの開発・販売で英アストラゼネカと最大69億ドルに及ぶ大型提携を結んだことも話題となりました。
がん領域ではこのほか、「がん遺伝子パネル検査」が6月に保険適用。臓器横断的な抗がん剤の開発も進んでおり、9月には中外製薬の「ロズリートレク」(エヌトレクチニブ)がNTRK融合遺伝子変異の固形がんを対象に発売されました。
治療用アプリ申請、DTxに進展
製薬業界で昨今バズワードとなっている「デジタルヘルス/デジタルセラピューティクス」では今年、国内でもいくつかの進展がみられました。
治療用アプリの開発を手掛けるCureAppは今年、ニコチン依存症治療用アプリを申請。来年には薬事承認を取得し、保険適用される見通しです。
塩野義製薬は米アキリ・インタラクティブからADHD(注意欠陥・多動症)向けの治療用ゲーム「AKL-T01」と、自閉スペクトラム症治療用アプリ「AKL-T02」を導入。アステラスも11月、米ウェルドックと提携し、同社の糖尿病患者向け疾患管理アプリ「BlueStar」を獲得しました。
公的保険外のサービスを模索する動きも活発化しました。
エーザイは3月、AIを活用して認知症を予測・予防するサービスの事業化に乗り出す方針を表明。田辺三菱製薬はヘルスケアベンチャーのハビタスケアと糖尿病ケアアプリを共同開発し、健保組合などが行う保健事業で使ってもらうことを想定して実証実験を始めました。
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2019年は製薬業界にとって、新時代の到来を実感するとともに、環境変化への対応を迫られた1年となりました。オリンピックイヤーとなる来年は、21年度から始まる薬価の毎年改定をめぐる議論が本格的に行われます。薬価引き下げの加速で収益性の低下は避けられず、それをにらんだ動きが活発化しそうです。
(亀田真由)