世界に先駆けて日本で承認申請を目指す新薬の審査期間を短縮する「先駆け審査指定制度(先駆的医薬品制度)」。2015年に試行的に開始されて以来、医薬品では21品目が指定を受け、このうち12品目が承認を取得しています。対象品目の開発状況をまとめました(記事の末尾に開発状況一覧)。
21品目が指定
先駆け審査指定制度とは、世界に先駆けて日本で申請を目指す画期的な新薬、医療機器、再生医療等製品、体外診断用医薬品を承認審査で優遇する制度。2015年に「試行的実施」という形で創設され、20年の医薬品医療機器等法(薬機法)改正に伴い「先駆的医薬品指定制度」「先駆的医療機器・体外診断用医薬品・再生医療等製品指定制度」として法制化されました。
対象品目には優先審査が適用される上、医薬品医療機器総合機構(PMDA)による事前評価で実質的に審査が前倒しされ、医薬品の場合、通常なら12カ月程度かかる審査期間を半分の6カ月に短縮。薬価算定の際には「先駆け審査指定制度加算」が適用され、10~20%の範囲で薬価が上乗せされます。
先駆け審査指定制度の対象となるのは、▽新規作用機序を持つ▽対象疾患が重篤である▽対象疾患に対して極めて高い有効性がある▽世界に先駆けて日本で早期開発・申請する意思がある――の要件を満たす品目。企業からの応募をもとに、厚生労働省が選定します。
先駆け審査指定制度では、これまでに5回の公募が行われ、現在、21の医薬品が対象に指定されています。法制化後の先駆的医薬品指定制度で指定を受けた品目はまだありません。21年7月2日現在、先駆け指定品目のうち12品目が承認を取得しています。制度では、開発を中止したり、同一の作用機序を持つほかの医薬品が先に承認されたりした場合、指定が取り消されることになっており、医薬品ではこれまでに4品目が指定の取り消しを受けました。
12品目が承認を取得
21年7月2日現在で承認を取得している先駆け審査指定制度の対象品目は、
▽塩野義製薬の抗インフルエンザウイルス薬「ゾフルーザ錠」(一般名・バロキサビル マルボキシル)
▽ノーベルファーマの結節性硬化症に伴う血管線維腫治療薬「ラパリムスゲル」(シロリムス)
▽アステラス製薬の急性骨髄性白血病治療薬「ゾスパタ錠」(ギルテリチニブフマル酸塩)
▽ファイザーのトランスサイレチン型心アミロイドーシス治療薬「ビンダケルカプセル」(タファミジス メグルミン)
▽中外製薬の抗がん剤「ロズリートレクカプセル」(エヌトレクチニブ)
▽日本新薬のデュシェンヌ型筋ジストロフィー治療薬「ビルテプソ点滴静注」(ビルトラルセン)
▽ステラファーマのがん治療薬「ステボロニン点滴静注バッグ」(ボロファラン〈10B〉)
▽メルクバイオファーマの抗がん剤「テプミトコ錠」(テポチニブ塩酸塩水和物)
▽第一三共の抗がん剤「エンハーツ点滴静注用」(トラスツズマブ デルクステカン)
▽楽天メディカルジャパンの抗がん剤「アキャルックス点滴静注」(セツキシマブ サロタロカンナトリウム)
▽オーファンパシフィックの遺伝性血管性浮腫治療薬「オラデオカプセル」(ベロトラルスタット塩酸塩)
▽JCRファーマのムコ多糖症II型治療薬「イズカーゴ点滴静注用」(パビナフスプ アルファ)
――の12品目。
ゾフルーザは、「タミフル」など既存のノイラミニダーゼ阻害薬とは異なる作用機序を持つキャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害薬。1回の内服で治療が完結するのが最大の特徴です。ゾスパタは国内初のFLT3阻害薬で、FLT3遺伝子の変異がある急性骨髄性白血病が対象。ロズリートレクはROS1/TRK阻害薬で、NTRK融合遺伝子変異陽性の固形がんを対象に承認されました。
ビルテプソは国産初の核酸医薬。ジストロフィン遺伝子のmRNAに作用し、エクソン53をスキップすることで機能を持ったジストロフィンタンパク質を産生させます。
ステボロニンはホウ素中性子捕捉療法(BNCT)に使うホウ素剤です。がん患者に同薬を投与するとホウ素(10B)ががん細胞に集積し、そこに体外から中性子線を当てると放射線が発生。これによってがん細胞を破壊します。テプミトコはMET遺伝子エクソン14スキッピング変異陽性の非小細胞肺がんの治療薬です。
エンハーツは、第一三共が創製した抗HER2抗体薬物複合体(ADC)。アキャルックスは、抗EGFR抗体にIR700という色素を結合させたADCで、投与後にレーザー光を照射するとIR700が化学反応を起こし、がん細胞を破壊します。
協和キリンの糖尿病性腎症治療薬がP3
対象品目21品目のうち、残る9品目は臨床開発の段階にあります。
P3試験を行っているのは、協和キリンの「RTA402」(バルドキソロンメチル、予定適応症=糖尿病性腎症)。RTA402は、体内のストレス防御反応で中心的な役割を果たす転写因子Nrf2を活性化する低分子化合物。抗酸化ストレス作用と抗炎症作用によって、腎機能を改善させると考えられています。第一三共のEZH1/2阻害薬「DS-3201」(バレメトスタット、再発・難治性の末梢性T細胞リンパ腫)も申請用のP2試験を実施中です。
直近の第5回の公募では、▽トーアエイヨー(指定時の開発者は大阪大医学部付属病院)の「CNT-01」(中性脂肪蓄積心筋血管症の症状および予後の改善)▽アレクシオンファーマの抗補体(C5)抗体エクリズマブ(ギラン・バレー症候群)▽グラクソ・スミスクラインのがん免疫療法薬「M7824」(胆道がん)――の3品目が20年6月19日に指定を受けました。エクリズマブは「ソリリス」の製品名で発作性夜間ヘモグロビン尿症などを対象に承認されている薬剤。M7824は、PD-L1とTGF-βを標的とする融合タンパクで、次世代のがん免疫療法薬の1つとして注目されています。
複数指定は第一三共のみ
先駆け指定の対象品目を企業ごとに見てみると、複数の指定を受けているのは第一三共(3品目)のみ。武田薬品工業も以前は2品目の指定を受けていましたが、プロテアソーム阻害薬「ニンラーロ」(イキサゾミブ)がALアミロイドーシスを対象としたP3試験で主要評価項目を達成できず、開発を中止したため、指定を取り消されました。
第一三共は、エンハーツとDS-3201のほか、デュシェンヌ型筋ジストロフィー治療薬「DS-5141b」で指定を受けています。同薬は、日本新薬のビルトラルセンとは異なるエクソンをスキップするアンチセンス核酸で、現在P1/2試験を実施中です。
先駆け審査指定制度 対象品目の開発状況一覧
(公開:2019年10月24日/最終更新:2021年7月5日)