日本たばこ産業(JT)子会社の鳥居薬品が窮地に陥っています。米ギリアド・サイエンシズとのライセンス契約解消に伴い、稼ぎ頭だった抗HIV薬の販売権を失ったのが原因で、2019年12月期は営業赤字に転落する見込みです。早期退職を募るなど事業構造改革に取り組み、反転攻勢に備えますが、しばらくは業績低迷が続きそうです。
新中計 目標は「2022年度の営業黒字化」
抗HIV薬6品の日本国内における独占的販売権に関するライセンス契約を終了した影響は非常に大きく、収益の大幅な悪化が避けられない状況です――。
2月6日、新たな中期経営計画(2019~21年度)を発表した鳥居薬品。売上高、営業利益とも目標を上回って着地した前の中計から一転、新中計では厳しい経営見通しが示されました。目標に掲げたのは「22年度の営業利益黒字化」。裏を返せば、少なくとも向こう3年は営業赤字が続くということになります。
業績悪化の原因は、米ギリアド・サイエンシズとのライセンス契約解消に伴い、抗HIV薬6製品の独占的販売権を返還したことにあります。抗HIV薬は鳥居薬品の売上高の3分の1を占めており、これがなくなることで19年12月期は39.2%の減収となる見通し。営業損益は32億円の赤字に転落します。
鳥居薬品の親会社である日本たばこ産業(JT)は、2003年以降、ギリアドから抗HIV薬の日本での独占的開発・商業化権を獲得し、鳥居薬品を通じて販売してきました。しかし昨年、ギリアドは、次の新規抗HIV薬「Biktarvy」の承認取得と販売を自社で行うとJTに通知するとともに、販売中の抗HIV薬に関するライセンス契約の解消を提案。契約は今年1月1日で終了し、それ以降はギリアドの日本法人が販売を行っています。
構造改革の中身は
こうした状況の中で発表された新中計は、事業構造改革を施策の柱に掲げました。希望退職の募集を行うとともに、研究開発機能をJTに統合。支店の統廃合や本社組織の再編を行うほか、工場での生産品目も段階的に縮小する方針です。
早期退職については新中計と同時に詳細が発表されました。対象は、コーポレート部門と営業部門が今年4月1日時点で勤続2年以上、技術部門(製造・物流は除く)は勤続2年以上かつ20年3月末時点で50歳以上の社員で、募集人数は定めていません。あわせて2020年4月の新卒採用を見合わせ、定年後再雇用社員や契約社員も調整する予定です。
長期収載品については、薬価引き下げと後発医薬品の使用拡大による収益性の低下を踏まえ、他社への承継や製造委託を進めます。第1弾として、タンパク分解酵素阻害薬「フサン」を4月1日付で日医工に承継し、販売を移管。同薬は18年4月の薬価改定で、中期的に薬価を後発品と同じ水準まで引き下げる新ルール(いわゆる「G1」)の対象となり、薬価が大幅に引き下げられていました。
リストラの先に描く成長戦略
今後は、従来の重点4領域から抗HIV薬を除いた「腎・透析」「皮膚疾患」「アレルゲン」の各領域で戦略的な資源配分を行い、効率的な事業体制を敷く構えです。
鳥居薬品は今後の収益を担う新薬として、今年1月に日本でアトピー性皮膚炎を対象に申請したJAK阻害薬「JTE-052」(一般名・デルゴシチニブ)や、腎性貧血治療薬のHIF-PH阻害薬「JTZ-951」、高リン血症治療薬「リオナ」の鉄欠乏性貧血への適応拡大に期待。新中計では、これらの発売と価値最大化が成長戦略の第1の柱となります。
各薬剤とも一定の市場性は見込めるものの、厳しい競争が予想されます。アトピー性皮膚炎に対するJAK阻害薬は、ファイザーやアッヴィ、日本イーライリリーといった大手も開発中。HIF-PH阻害薬は、アステラス製薬が先行して申請にこぎつけたほか、グラクソ・スミスクラインも今年上半期に申請を予定。同社は腎領域に強い協和発酵キリンと販売提携を結んでおり、激しいシェア争いが繰り広げられることになりそうです。
これら開発品の価値最大化に加え、新規導入品の獲得に向けた取り組みも進めます。対象を重点領域の周辺にまで広げ、導入や共同開発の機会を探る方針です。
鳥居薬品は新中計とともに社長交代も発表。経営体制も刷新し、収益回復を目指します。
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