早いもので2018年も残りわずか。いろいろあった今年の製薬業界を、2回に分けて振り返ります。
武田 問われる創薬力の再生
2018年、製薬業界で最大のニュースといえば、やはり武田薬品工業の巨額買収でしょう。5月、アイルランドの製薬大手シャイアーと買収に合意すると、12月に両社の臨時株主総会で買収が承認されました。買収額は約460億ポンド(約6.7兆円)で、日本企業としては過去最大規模。買収は来年1月8日に完了する予定で、武田は世界トップ10入りを果たします。
武田は買収により、既存の▽がん▽消化器▽精神神経――の3重点領域に、第4の柱として希少疾患を追加。海外事業の拡大や収益力の向上も狙います。
ただ、シャイアーが主力とする血友病治療薬は、中外製薬の「ヘムライブラ」にシェアを大きく奪われるとの見方が大勢。買収によって有利子負債は膨らみ、巨額ののれんと無形資産を抱え込むことになります。財務リスクの高さから、武田の創業家やOB株主からは買収反対の声が上がりました。
社運をかけた巨額買収で、メガファーマとしてグローバル競争のスタートラインに立つ武田。長らく大型の自社新薬を世に送り出せていない同社にとっては、買収による規模拡大を創薬力の再生につなげられるかどうかが問われることになりそうです。
サノフィ、セルジーンなども大型買収
今年は、武田―シャイアー以外にも、1兆円規模の大型買収が相次ぎました。
仏サノフィは血友病治療薬を手がける米バイオベラティブを116億ドル(約1.3兆円)で、米セルジーンもCAR-T細胞療法を開発する米ジュノ・セラピューティクスを90億ドル(約1兆円)で、それぞれ買収。スイス・ノバルティスは、87億ドル(約9600億円)で米アヴェクシスを買収し、遺伝子治療薬を獲得しました。
新薬開発が難しくなる中、製薬業界では新薬候補や新規技術の獲得をめぐる競争が激しさを増しています。単純に規模を追う時代は終わったとはいえ、製薬業界では来年以降もM&Aが活発に行われそうです。
薬価制度改革 急ぐ事業構造の見直し
国内に目を向けてみると、4月に行われた薬価制度の抜本改革が製薬企業の経営を直撃しました。新薬創出・適応外薬解消等促進加算の対象は絞り込まれ、長期収載品には中長期的に後発品並みに薬価を下げる新ルールが導入。適応拡大で市場が拡大した新薬には、年4回、薬価引き下げの機会が設けられました。
結果、新薬創出加算の対象品目は314成分560品目と、前回改定から品目ベースで3割減少。長期収載品の新ルールは、いわゆるG1(段階的に後発医薬品と同薬価に引き下げ)が38成分85品目、G2(段階的に後発品薬価の1.5倍まで引き下げ)が137成分293品目に適用されました。
後発品には再編に動き…リストラも相次ぐ
国内事業の収益悪化は避けられず、各社は事業構造の見直しを急いでいます。今年は、第一三共が長期収載品41製品をアルフレッサHD子会社のアルフレッサファーマに譲渡すると発表。小野薬品工業も長期収載品の注射剤5ブランド11品目を丸石製薬に承継しました。新薬に経営資源を集中させるため、ノンコア事業を手放す動きは加速しています。
後発品メーカーではすでに業界再編の動きが出始めました。エーザイは後発品子会社エルメッドエーザイを来年4月1日付で日医工に完全に売却。富士フイルムファーマは来年3月いっぱいで解散する方針を決め、ポーラファルマはインドのサンファーマに買収されることになりました。後発品は21年度から始まる薬価の毎年改定で大きな影響を受けるとみられ、来年以降、大型再編が起こる可能性があります。
人員削減も相次ぎました。大正製薬ホールディングスが募集した早期退職には、連結従業員の15%にあたる948人が応募。アステラス製薬やエーザイも早期退職の実施を発表しました。外資系企業では、日本ベーリンガーインゲルハイムなどが早期退職を実施。将来的な営業体制の縮小に言及する経営者もおり、主力品の特許切れや収益環境の悪化を背景に、人員削減に流れは今後も続きそうです。
製薬業界 回顧2018[2]につづく