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キーワードで振り返る2017年の製薬業界…薬価改革、メーカーに打撃 相次いだ大型買収 偽造薬も騒動に

更新日

2017年も残すところあとわずか。今年は1年を通して薬価制度の抜本改革が議論され、年末には新薬創出加算の対象品目の縮小を柱とする改革の骨子が決定。製薬企業の間では、海外企業の買収が相次ぎ、新薬への集中を狙って長期収載品を売却する動きも続きました。

 

C型肝炎治療薬「ハーボニー」の偽造品が世間を騒がせたのも今年。CAR-T細胞療法など新たなカテゴリーの医薬品の承認もありました。さまざまなできごとがあった製薬業界の2017年を、5つのキーワードで振り返ります。

 

【薬価制度改革】新薬加算 対象縮小…企業経営に大きな打撃

2016年末に政府が基本方針を決めたのを受け、年明けから議論が続いた薬価制度の抜本改革。年末、中央社会保険医療協議会(中医協)に示された改革の具体的な中身は、製薬企業の経営に大きなインパクトを与えるものとなりました。

 

最大の焦点となった新薬創出・適応外薬解消等促進加算は、対象品目の条件を見直し、品目を大幅に縮小。新薬開発の取り組みなどで企業をランク付けし、加算を満額得られる(薬価を維持できる)企業を上位25%に限定することになりました。

 

製薬業界側の受け止めは深刻です。日米欧の製薬団体は制度の見直しにそろって反対。「製薬企業は何をもって日本に投資するというのか」(欧州製薬団体連合会のトーステン・ポール副会長)と、日本への開発投資が縮小するとの懸念も示されました。

薬価制度改革の主な項目 1、適応拡大などで市場規模が350億円を越えた医薬品について、年4回の新薬の薬価収載の機会に薬価を引き下げ 2、毎年薬価調査、毎年薬価改訂(2021年から) 3、新薬創出・適応外薬解消等促進加算の対象を、革新性・有用性を基準に絞込み。新薬開発の実績・取り組みで企業に点数をつけ、それに応じて加算額を段階的に設定する 4、費用対効果評価の導入 5、後発品発売後10年たった長期収載品の一部について、その後6年間かけて薬価を後発品の水準まで引き下げる一方、長期収載品は中長期的に後発医薬品と同水準まで薬価を引き下げることになります。収益を長期収載品に頼る企業にとっては死活問題。「新薬を出せない企業は潰れても仕方ないということ」(業界関係者)と厳しい声も漏れます。

 

来年4月からは、適応拡大に伴って売り上げが拡大した医薬品の薬価を年4回の新薬の薬価収載のタイミングに合わせて引き下げる新たなルールも導入。費用対効果評価による薬価の見直しも始まります。

 

「薬価の抜本改革ではなく、薬価の抜本引き下げだ。改革は企業の足元の収益を直撃するだけでなく、次のイノベーションに資金を回せなくなる」。日本製薬団体連合会(日薬連)の多田正世会長は訴えます。来年4月の薬価制度改革は、製薬企業の経営を根本から揺るがし、業界の行く末を大きく左右することになります。

 

【大型買収】武田6000億円で米社買収 田辺や沢井 米国に活路

薬価制度の先行きに不透明感が漂う中、2017年は海外企業の大型買収も相次ぎました。

 

武田薬品工業は2月に54億ドル(当時のレートで約6102億円)の巨費を投じて米アリアドを買収。獲得した肺がん治療薬のALK阻害薬ブリガチニブは、ピーク時に世界で年間10億ドルを超える売り上げを見込んでいます。

 

今年、合併10年の節目を迎えた田辺三菱製薬は、8月に筋萎縮性側索硬化症(ALS)治療薬「ラジカヴァ」を発売し、念願だった米国市場への進出を達成。10月には、米での製品ラインアップの強化を狙って、パーキンソン病治療薬を開発するイスラエルのニューロダームを11億ドル(同1243億円)で買収しました。2020年度までの中期経営計画で目標とする米国売上高800億円に向け、事業を加速させます。

 

昨年、最大手の日医工が大型買収に踏み切った後発品業界では、2番手の沢井製薬が米アップシャー・スミス・ラボラトリーズを10.5億ドル(同1176億円)で買収しました。

2017年 日本企業による主な海外買収 1月:大日本住友、2億ドルにて米トレロ買収 2月:武田薬品、54億ドルにて米アリアド買収 5月:アステラス製薬、5億ユーロにてベルギー・オゲタ買収 5月:沢井製薬、10.5億ドルにて米アップシャー・スミス買収 10月:田辺三菱製薬、11億ドルにてイスラエル・ニューロダーム買収薬価への締め付けや後発品の普及を背景に国内市場の見通しは暗く、「使用割合80%」の目標に向かって伸びる後発品市場も、目標達成後は縮小に転じるとの見方は少なくありません。

 

「製薬企業は利益を上げているが、それは海外によるもので、国内は赤字のところも多い。産業として考えれば、国内事業の優先順位が下がることもあり得る」(日薬連の多田会長)。薬価制度の抜本改革をめぐる議論では、製薬業界からこんな指摘も飛び出しました。国内の収益環境が厳しくなる中、海外重視の姿勢はより一層強くなっていくのかもしれません。

 

【長期収載品】アステラスや中外が売却 田辺は後発品からも撤退

ここ数年「新薬への集中」を狙って加速してきた、新薬メーカーによる長期収載品の切り離し。その流れは今年も続き、アステラス製薬や中外製薬、田辺三菱製薬が売却に踏み切りました。

 

アステラスが売却相手に選んだのは、投資ファンドが設立した「LTLファーマ」。中外製薬は、化学メーカー・太陽ホールディングスの子会社・太陽ファルマに売却しました。従来は後発品企業が中心だった長期収載品の受け皿にも変化が出てきました。

 

田辺三菱製薬は、後発品と一部の長期収載品を扱ってきた子会社・田辺製薬販売をニプロに売却。後発品事業からは撤退しました。市場競争が激しさを増す中、新薬メーカーの多くは後発品事業の将来展望を描きづらくなっています。今後も、田辺三菱と同様の判断を下す企業が出てきてもおかしくはありません。

2017年 長期収載品を売却・移管した企業 3月:田辺三菱製薬、田辺製薬販売(後発品51成分・長期収載品26成分)を、ニプロに売却 3月:アステラス製薬、長期収載品16製品を201億円で、LTLファーマに売却 4月:武田薬品工業、長期収載品7製品を285億円で追加譲渡 11月:中外製薬、長期収載品13製品を212.8億円で、太陽ファルマに売却

 

【偽造医薬品】ハーボニー偽造品が患者の手に 流通の暗部さらす

1月、C型肝炎治療薬「ハーボニー」の偽造品が見つかり、社会的にも大きな関心を集めました。発見された偽造品は、奈良県の薬局チェーンからボトル5本、東京・大阪の医薬品卸売業者3社から10本の計15本。このうち1本が実際に患者に調剤されました。

 

ハーボニーの偽造品問題でクローズアップされたのは、薬局や医療機関から在庫を買い取って販売する、いわゆる「現金問屋」の存在。秘密厳守をうたうところも多く、最初に偽造品を仕入れた都内の現金問屋は、本人確認を行っていませんでした。現金問屋に偽造品を持ち込んだのは無許可の個人とみられていますが、真相はいまだ闇の中です。

 

偽造品の流通を受け、厚生労働省の検討会は6月、売買時の身元確認の厳格化を柱とする再発防止策をまとめました。焦点となっていたGDP(医薬品の適正流通の基準)については、厚労省がガイドラインをつくり、業界に自主的な取り組みを促すこととなりました。

「ハーボニー」偽造品問題の経緯 1月17日:奈良県の薬局チェーンで偽造品の入ったボトル5本が見つかったと厚生労働省が発表 23日:都内の現金問屋から新たに偽造品9本が発見されたと厚労省が発表 2月1日:厚労省が偽造品の竜閏ルートをほぼ特定したと発表。都内の現金問屋から新たに偽造品1本を発見 3月7日:奈良県と奈良市が偽造品を調剤した薬局に改善措置命令 13日:東京都と大阪府が現金問屋計6社に改善措置命令 16日:奈良県と奈良市、偽造品を調剤した薬局に業務停止命令 4月12日:東京都が現金問屋2社に業務停止命令 6月21日:厚労省の検討会が再発防止策を盛り込んだ中間取りまとめを公表 12月12日:厚労省が偽造品を調剤した薬局の薬剤師1人に業務停止の行政処分(発行は26日)

 

【世界初・日本初】CAR-Tが世界初承認 デジタルメディスンも

2017年は、従来にはない新たなカテゴリーの医薬品が国内外で続々と承認された年でもありました。

 

最も話題を集めたのは、やはりCAR-T細胞療法でしょう。8月、米FDA(食品医薬品局)がノバルティスの「キムリア」を承認。患者から取り出した免疫細胞に、がんを攻撃しやすいよう遺伝子改変を加えて患者の身体に戻すという、これまでにない治療が臨床現場に登場しました。

 

CAR-T細胞療法は海外を中心に開発競争が激しくなっており、8月には米ギリアドがCAR-T細胞療法を開発する米カイト・ファーマを1兆3090億円(同月の平均レートで換算)で買収すると発表。武田薬品も9月、日本のベンチャーと提携を結び、開発に参入しました。

 

医薬品とIT技術を組み合わせた「デジタルメディスン」も今年、世界で初承認。11月に米国で承認された大塚製薬の抗精神病薬「エビリファイ マイサイト」は、錠剤に微小なセンサーを埋め込んだもの。胃液に触れるとセンサーがシグナルを発し、患者の身体に貼り付けたパッチでそれを受信することで服薬の状況を管理します。

 

国内では、初めてのアンチセンス核酸医薬となる脊髄性筋萎縮症治療薬「スピンラザ」が、承認からわずか7カ月というスピードで7月に承認。翌8月に発売となりました。

2017年に承認された主な「世界初」「日本初」 7月:バイオジェン、日本初のアンチセンス核酸医薬「スピンラザ」承認 8月:ノバルディス、CAR-T細胞療法「キムリア」米で世界初承認 11月:大塚製薬、世界初のデジタルメディスン「エビリファイ マイサイト」が米で承認

新たな治療法の登場は患者にとって福音となりますが、ネックとなるのはやはり薬価。スピンラザは1瓶932万円(最初の1年は5592万円、それ以降は年間2796万円)という薬価がつき、キムリアは米国で投与1回あたり5000万円を超える価格が設定されました。

 

キムリアをめぐっては、投与1カ月以内に治療に反応のあった患者だけに支払いを求めることでノバルティスと米政府が合意。日本でも2020年前後に承認される見通しで、日本経済新聞はノバルティスが日本政府にもこの「成功報酬型」の薬価を提案すると報じました。

 

※ ※ ※

 

製薬業界の将来を左右する薬価制度の抜本改革が決まった2017年。製薬企業の経営戦略は根本的な見直しを迫られており、来年以降、具体的な動きが出てくることになりそうです。

 

AnswersNews編集部が製薬企業をレポート

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