大型の生物学的製剤がひしめく関節リウマチ治療薬市場。今年から来年にかけて各社の新製品が相次いで発売される見通しで、日本イーライリリーやサノフィ、第一三共が新薬をひっさげてこの領域に続々と新規参入する予定です。
開発後期段階にも多くの新薬候補が控えるほか、バイオシミラーの開発も活発です。競争が激しさを増す市場を展望します。
生物学的製剤 治療に劇的変化
関節リウマチは、主に手足の関節が炎症を起こし、腫れたり痛んだりする疾患です。進行すると、軟骨や骨が破壊されて関節が変形し、日常生活に大きな支障をきたします。免疫の異常によって引き起こされる自己免疫疾患の一つです。
厚生労働省の「リウマチ・アレルギー対策委員会」が2011年にまとめた報告書によると、国内の関節リウマチ患者数は70~80万人。30~50歳代で発症することが多く、男女比は1:4で女性に多い疾患とされています。
残念ながら今のところ関節リウマチを根治させる治療法はありません。可能な限り速やかに関節の炎症を沈静化させて寛解(関節リウマチの症状が治まった状態)にし、それを長期間維持することが治療の目標となります。
治療の中心となるのはDMARD(疾患修飾抗リウマチ薬)のメトトレキサート。メトトレキサートで効果が得られない場合には、生物学的製剤を追加するのが一般的です。生物学的製剤の抗リウマチ作用は「最強」とされ、関節リウマチの治療に劇的な変化をもたらしました。重篤な感染症など免疫系に強く作用する薬特有の副作用もあるものの、効果の高さから急速に普及しています。
続く市場拡大 生物学的製剤は2200億円規模に
関節リウマチ治療薬の市場は拡大を続けています。民間調査会社の富士経済が2016年12月に発表した市場調査によると、16年の市場規模(見込み)は前年比6.4%増の2397億円。24年には2857億円(15年比26.9%増)まで拡大すると予測しています。
市場を牽引するのは生物学的製剤です。03年に田辺三菱製薬の抗TNFα抗体「レミケード」が関節リウマチの適応を取得したのを皮切りに、現在は7種類(バイオシミラーを除く)まで増えました。
各社の16年度決算から生物学的製剤の市場動向を見てみると、売上高トップは668億円の「レミケード」で、2番手は404億円の「エンブレル」(ファイザー/武田薬品工業)が続きます。「レミケード」がほかの炎症性疾患にも幅広く適応を持つのに対し、「エンブレル」は関節リウマチと若年性突発性関節炎のみ。適応の違いを踏まえると、両剤が接戦を繰り広げていることは間違いありません。
前年度からの伸び率が最も高いのは「シンポニー」。16年度は92.9%増とほぼ倍増しました。「オレンシア」も44.5%増と勢いがあり、「ヒュミラ」や「アクテムラ」「シムジア」も10%を超える伸びとなっています。一方、レミケードとエンブレルは競争激化のあおりを受けて売り上げは縮小傾向。レミケードには日本化薬のバイオシミラーも登場しており、16年度は14億円を売り上げました。
生物学的製剤8製品(バイオシミラーを含む)の売上高は16年度に合計2207億円に達し、12年度から570億円余り増加。市場の活況は続きます。
5品目が申請中 来年にかけ新製品ラッシュ
新製品の開発も活発です。現在、バイオシミラーを含めて5品目が申請中。今年から来年にかけて相次いで市場に登場する見通しで、日本イーライリリーやサノフィ、第一三共が続々とこの領域に参入します。
生物学的製剤では、サノフィがサリルマブを、ヤンセンファーマがシルクマブを昨年10月に申請しました。いずれも炎症性サイトカインの一種であるIL-6(インターロイキン6)を標的とする抗体医薬で、サリルマブはIL-6受容体に、シルクマブはIL-6に結合してその働きを抑えます。IL-6を標的とする生物学的製剤としては、中外製薬の抗IL-6受容体抗体アクテムラに続く製品となります。
第一三共の抗RANKL抗体デノスマブ(製品名・プラリア)は、骨粗鬆症治療薬として販売されており、「関節リウマチに伴い骨びらんの進行抑制」への適応拡大が近く承認される見通し。骨びらんとは、X線画像で骨が虫食いのように見える状態のことです。
JAK阻害薬に2剤目 イーライリリーの「オルミエント」
注目されるのは、日本イーライリリーのJAK阻害薬バリシチニブ(製品名・オルミエント)。欧州では承認、米国では承認見送りと判断が分かれていましたが、5月の厚生労働省薬事・食品衛生審議会医薬品第二部会で承認が了承されました。今夏の発売が見込まれます。
JAK(ヤヌスキナーゼ)阻害薬は、炎症に関わる細胞内のシグナル伝達を阻害する薬剤。日本では13年にファイザーの「ゼルヤンツ」が承認されており、バリシチニブはこれに続く2剤目のJAK阻害薬となります。
先に発売されたゼルヤンツは、臨床試験で生物学的製剤に遜色ない効果を示し、抗リウマチ作用は生物学的製剤とともに「最強」に分類。しかし、重篤な感染症や悪性腫瘍のリスクが指摘され、発売から4年がたった今も安全性の検討を目的とした全例調査が続いています。効果に加え、経口薬で利便性が高いことからも期待を集めましたが、処方はなかなか広がりません。
オルミエントも同じJAK阻害薬ではありますが、ゼルヤンツがJAK1とJAK3を強力に阻害するのに対し、オルミエントはJAK1とJAK2を選択的に阻害します。作用機序の違いが安全性にどう影響するのかは明らかではありませんが、オルミエントにも承認の条件として全例調査が課されることになりました。
JAK阻害薬は臨床第3相(P3)試験の段階にも複数の品目があり、アステラス製薬のペフィチ二ブは今年度中にP3試験のデータが判明する予定です。製品ラインナップの広がりとともに市場も開かれていくのか、注目されるところです。
エンブレルにバイオシミラー P3にはヒュミラも
新薬もさることながら、バイオシミラーの開発も加速しています。
持田製薬は昨年、エタネルセプト(製品名・エンブレル)のバイオシミラーを申請。今年度中の承認を見込んでいます。エタネルセプトのバイオシミラーは第一三共も開発中で、こちらは2018年度の承認を予定しています。P3試験では好結果が出ており、現在申請を準備中。アダリムマブ(製品名・ヒュミラ)は持田製薬とファイザーがP3試験を行っており、ファイザーはインフリキシマブ(製品名・レミケード)も開発中です。
民間調査会社の富士経済は、疾患啓発に伴って治療患者は今後も増加すると予想。メトトレキサートと生物学的製剤の伸びで市場は拡大する一方、売り上げ上位製品にバイオシミラーが発売されることで、市場拡大のペースは緩やかになっていくとみています。既存製品と相次いで登場する新薬、そしてバイオシミラーが、さらに激しい競争を繰り広げていくことになりそうです。
【AnswersNews編集部が製薬会社を分析!】 |