医療機関に行かずとも、テレビ電話などを通じて医師の診察を受けられる「遠隔診療」に注目が高まっています。
長らく離島やへき地などで例外的に行われるものと解釈されてきた遠隔診療ですが、2015年に厚生労働省が「離島やへき地はあくまで例示」との通知を出したことで状況は一変。「事実上の解禁」と受け止められ、広がりを見せています。
環境整備が進む一方、普及の壁となっているのが診療報酬。厚生労働省は、2018年度の次期改定に向けて検討を始めました。
へき地・離島は「例示」厚労省通知で「事実上解禁」
2018年度の次期診療報酬改定をめぐる議論が、早くも熱を帯びる中央社会保険医療協議会(中医協)。今月8日に行われた会合で、厚生労働省は遠隔医療を議題に載せ、次期改定での診療報酬上の対応について検討を始めました。
医師法20条では、医師が自ら診察せずに治療することを禁じており、遠隔医療は従来、極めて例外的に行われるべきものとされてきました。
厚労省が1997年に出した通知では「診察は医師または歯科医師と患者が直接対面して行われることが基本であり、遠隔診療はあくまで直接の対面診療を補完するものとして行うべき」とされています。この通知では、
▽初診や急性期の患者は原則として対面診療
▽対面診療が可能な場合や、ほかの医療機関との連携で対面診療が可能な場合は、対面診療を行う
と規定。遠隔医療を行えるのは、
(1)直接の対面診療を行うことが困難な場合
(2)慢性患者など病状が安定している患者の場合
とし、(1)では離島やへき地、(2)では在宅難病患者や在宅糖尿病患者、在宅がん患者など9種類を挙げています。このため遠隔医療は長らく、こうした例外的な場合に限定されるもので「原則禁止」と解釈されてきました。
ところが、2015年に政府の規制改革会議が見直しを要求したことで、状況は一変します。厚労省は、97年の通知で遠隔医療を行える場合として挙げたものはあくまで例示であり、限定されるものではないことを新たな通知で明確化。遠隔医療の事実上の解禁と注目を集めました。
診療報酬 普及の足かせ
こうした流れを受けて、インターネットで医療関連サービスを展開する企業が、続々と遠隔診療を支援するツールの提供を開始。これまでは遠隔医療の範囲外と解釈されてきた、都市部の会社員などをターゲットに、じわじわと広がりを見せています。
民間調査会社のシード・プランニングが昨年発表したレポートによると、遠隔医療の市場規模(健康相談や自由診療なども含む)は、16年度の77.5億円から20年度には192億円と2.5倍に成長すると予測。特に、遠隔による保険診療が伸びると期待されています。
ただ、普及には診療報酬の壁があります。
現在、遠隔医療で算定が認められている診療報酬は、電話再診料(72点)などごく一部のみ。ほとんどの診療料や指導管理料、加算は算定できません。対面診療に比べると、医療機関が得られる報酬はかなり低くなってしまうのが現状です。
厚労省は昨年12月に開かれた政府の未来投資会議・構造改革徹底推進会合で、遠隔診療のエビデンスを収集し、診療報酬上の対応を18年度改定で検討する方針を表明。昨年11月の同会議では、遠隔診療の診療報酬上の評価を対面診療と同等にすることを求める意見が上がり、安倍晋三首相も「遠隔診療を進め、質の高い医療を実現する」と言及しました。
規制緩和に診療報酬上の対応と、遠隔医療の普及に向けた環境は急速に整備されつつありますが、対面診療を重視する医師には慎重論も根強くあります。2月8日の中医協では、遠隔医療を進めたい支払い側委員(健保組合など)と、慎重な診療側委員(医師会など)で意見が対立。診療側委員からは「拙速すぎる」との懸念も示されました。
2018年度が遠隔診療の“普及元年”となるのでしょうか。今後の議論に注目です。