酉年の2017年が始まってはや10日余り。過去を振り返ると、1945年の第2次世界大戦終結、1993年の非自民連立政権誕生、2005年のいわゆる郵政選挙など、酉年は「政変の年」と言われますが、製薬業界はどうでしょうか。
05年はアステラス製薬や第一三共が誕生するなど、大型の合併が相次いだ業界再編の年でした。93年には「プログラフ」や「クラビット」、05年には「クレストール」や「アクテムラ」が発売されるなど、酉年には各社の看板製品となる新薬も多く世に送り出されています。
薬価制度の抜本改革が議論され、大きな環境変化が予想される2017年。製薬業界はどんな年になるのでしょうか。
大型合併が相次いだ05年 アステラスや第一三共が誕生
前回酉年だった2005年は、国内の製薬業界で大型の再編が相次いだ年でした。
この年の4月には、山之内製薬と藤沢薬品が合併してアステラス製薬が誕生。三共と第一製薬は9月に共同持ち株会社・第一三共を設立(経営統合は07年4月)しました。
10月には、大日本製薬と住友製薬が合併して大日本住友製薬が、帝国臓器製薬とグレラン製薬が合併してあすか製薬が、それぞれ発足。三菱ウェルファーマと三菱化学もこの年、共同持ち株会社・三菱ケミカルホールディングスを設立し、07年の田辺三菱製薬(田辺製薬と三菱ウェルファーマが合併)の誕生につながっていきます。
そんな“酉年合併組”の今を見ると、特に目立つのがアステラスの躍進。合併時に単純合算で8620億円だった売上高は1兆3727億円(16年3月期)に、1922億円だった営業利益は、国内最大手の武田薬品工業を上回る2490億円(同)まで伸びました。
アステラスが合併後に進めてきたのは、新薬への特化でした。合併翌年の06年には、旧山之内と旧藤沢の一般用医薬品事業を統合して設立した子会社ゼファーマを早々と第一三共に売却。その後は医療用医薬品に経営資源を集中的に投入し、10年の米OSIファーマシューティカルズ買収など、特にがん領域の強化を狙った買収や製品導入に力を入れてきました。
その結果、米メディベーションから導入した前立腺がん治療イクスタンジは、16年3月期に世界で2500億円超を売り上げるブロックバスターに。時価総額で一時、武田薬品を抜いて国内首位に立つなど、その勢いは国内製薬企業の中でも際立っています。
一方、第一三共は、「新薬特化」をうたうアステラスとは対照的に、新薬から後発医薬品、一般用医薬品まで手広く扱う多角化の路線をとってきました。象徴的だったのは、08年の印ランバクシー・ラボラトリーズの買収。新薬と後発品の「ハイブリット・ビジネス」に成長を託しました。
ところが、ランバクシーに品質問題が表面化。立て直しは困難を極め、結局15年に売却。新薬路線への回帰を宣言しました。この間の業績は、合併時(旧三共と旧第一の単純合算)の売上高9259億円、営業利益1547億円に対し、16年3月期は売上高9864億円、営業利益1304億円と足踏み状態が続いています。
大日本住友製薬も停滞気味です。合併時(旧大日本と旧住友の単純合算)に売上高3182億円、営業利益447億円だった業績は、16年3月期は売上高4032億円、営業利益369億円。合併後の09年に米セプラコール(現サノビオン)を買収し、抗精神病薬「ラツーダ」が米国でブロックバスターに成長した一方、国内事業は減収が続いています。12年にはがん領域への本格参入を狙って米ボストン・バイオメディカルを買収しましたが、開発は遅れており、まだ目立った成果にはつながっていません。
プログラフ・クラビットは93年 05年にはクレストールやアクテムラ
製薬企業の肝である新薬開発のほうはどうでしょうか。各社のホームページに掲載されている「会社沿革」などをもとに、“酉年生まれ”の新薬を調べてみました。
前回酉年だった2005年には、塩野義製薬とアストラゼネカが高脂血症治療薬「クレストール」を発売。ピーク時に全世界で66億ドル超の売り上げを記録する大ヒット薬となりました。
中外製薬の関節リウマチ治療薬「アクテムラ」やファイザーの同「エンブレル」、ヤクルト本社の抗がん剤「エルプラット」が発売されたのもこの年です。
中外製薬の「アクテムラ」は国産第1号の抗体医薬。国内では05年にキャッスルマン病を対象に発売され、08年に関節リウマチに適応を広げました。現在、世界90カ国以上で販売され、15年の世界売上高は14億スイスフラン(現在のレート=114円で約1596億円)とブロックバスターに成長しました。
前々回の1993年には、後にアステラス製薬として統合する旧山之内製薬と旧藤沢薬品がそれぞれ、前立腺肥大症に伴う排尿障害改善薬「ハルナール」と、免疫抑制剤「プログラフ」をそろって発売。ちなみに、「ハルナール」に続くアステラスの泌尿器領域のヒット薬「ベシケア」(過活動膀胱治療薬)が米国で発売されたのも、酉年の05年でした(欧州では04年発売)。
93年にはこのほか、旧第一製薬(現第一三共)の抗菌薬「クラビット」や、ファイザーと旧住友製薬(現大日本住友製薬)のカルシウム拮抗薬「ノルバスク/アムロジン」も発売。特許切れ後も売れ続ける科研製薬の関節機能改善剤「アルツ」のディスポタイプが発売されたのもこの年でした。
1981年には、旧アイ・シー・アイ(後のゼネカ、現アストラゼネカ)が乳がん治療薬「ノルバデックス」を日本で発売。国内初の成分栄養剤となる味の素製薬(現EAファーマ)の「エレンタール」、中外製薬の骨粗鬆症治療薬「アルファロール」、杏林製薬の去痰剤「ムコダイン」なども発売されました。
偶然とはいえ、こうして見てみると、酉年は各社を代表する看板製品が発売されやすい傾向にあると言えるのかもしれません。