高齢化に伴う患者数の増加と新薬の登場により、拡大を続ける骨粗鬆症治療薬市場。民間調査会社・富士経済の予測によると、市場規模は2022年に3000億円を超えるといいます。
市場の拡大を支えているのは、副甲状腺ホルモン製剤などの新薬です。従来から治療の中心を担ってきたビスホスホネート製剤には今年、年1回投与の新薬が発売される見通し。新たな抗体医薬も開発段階に控えており、市場はさらなる激戦に突入しそうです。
高齢化で増える患者、市場は22年に3000億円突破
骨粗鬆症の患者数は、高齢化を背景に増加傾向にあります。日本骨粗鬆症学会などが作成した2015年版の「骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン」によると、日本の骨粗鬆症患者数は1280万人(男性300万人、女性980万人)と推計されています。
骨粗鬆症は、「古くなった骨を壊し(骨吸収)」て「新しい骨を作る(骨形成)」という骨の新陳代謝(骨代謝)のバランスが崩れ、骨強度が低下する疾患です。骨強度が低下すると骨折のリスクが高まります。骨粗鬆症による骨折から寝たきりになり、介護が必要になる人も少なくありません。生活機能や生活の質(QOL)を低下させるのはもちろん、国内外の研究では生命予後にも悪影響を与えることが明らかになっています。
患者数の増加に伴い、骨粗鬆症治療薬の市場も伸びています。民間調査会社の富士経済が14年に発表したレポートによると、市場規模は2022年に3204億円に達し、13年に比べて47%増加すると予測されています。
「フォルテオ」「テリボン」「エディロール」が市場牽引
2010年以降、新薬の発売が相次ぐ骨粗鬆症領域ですが、市場の拡大を牽引するのは、副甲状腺ホルモン(PTH)製剤の「フォルテオ」「テリボン」と、活性型ビタミンD3製剤の「エディロール」です。
PTH製剤は、従来の治療薬にはなかった強力な骨形成促進作用が特徴。2製品とも発売直後から急成長し、直近の年間売上高は「フォルテオ」(日本イーライリリー)が薬価ベースで536億円(前年比11.7%増、15年)、「テリボン」(旭化成ファーマ)が267億円(5.1%増、15年度)に達しました。従来の治療薬では得られなかった強力な骨強度増加作用と高い骨折予防効果は、骨粗鬆症治療に大きな変化をもたらしたと言われます。
ポジション高めるビタミンD3
PTH製剤とともに伸びが顕著なのが、活性型ビタミンD3製剤としては22年ぶりの新薬となった「エディロール」(中外製薬/大正製薬ホールディングス)。従来の活性型ビタミンD3製剤が持つカルシウム代謝の改善効果に骨代謝の改善効果を加えた同剤は、15年度に2社で429億円(17.5%増)を売り上げました。
「エディロール」は、従来品の「アルファロール」や「ワンアルファ」の減少を上回る成長を見せています。従来品からの切り替えにとどまらず、活性型ビタミンD3製剤の市場自体を拡大させていることが分かります。
BP製剤は月1回が主流に
骨粗鬆症治療薬の主流であるビスホスホネート(BP)製剤では、月1回の投与で済む製剤が売り上げを伸ばしています。
BP製剤は、PTH製剤とは逆に骨吸収を抑制する薬剤。骨折予防効果も高く、エビデンスも豊富なことから、骨粗鬆症治療の主要な治療薬として位置付けられています。ただ、BP製剤には、起床時に服用し、その後は飲食をせずに少なくとも30分は横になってはいけないといった不便さも。これがネックとなり、従来型のBP製剤では治療から脱落してしまう患者も少なくありませんでした。
そこで各社が相次いで投入したのが月1回投与製剤。他社に先駆けて月1回製剤を発売した「ボノテオ/リカルボン」(アステラス製薬/小野薬品工業)は、15年度にそれぞれ141億円(前年比8.6%増)、113億円(9.9%増)を売り上げました。「ベネット」(武田薬品工業)や「アクトネル」(エーザイ)も、月1回製剤にシフトしています。
加えて、点滴剤やゼリー剤なども発売され、剤形も豊富になってきました。中外製薬と大正製薬ホールディングスが13年に月1回投与の注射剤として発売した「ボンビバ」は、発売3年目で100億円を突破。今年4月には月1回投与の経口剤を投入し、さらなる販売拡大を狙います。
2010年以降に発売された骨粗鬆症治療薬を表にまとめました。PTH製剤や活性型ビタミンD3製剤だけでなく、抗RANKL抗体「プラリア」など各製品とも軒並み販売は好調。市場全体の活気がうかがえます。
抗スクレロスチン抗体が年度内申請へ
骨粗鬆症治療薬市場には、今後も新薬の投入が相次ぐ見通しです。
中でも注目されるのが、アステラス・アムジェン・バイオファーマが開発中のロモソズマブ。抗スクレロスチン抗体と呼ばれる新規の作用機序を持つ薬剤で、発売されれば「プラリア」に続く骨粗鬆症治療薬の抗体医薬となります。現在、臨床第3相(P3)試験段階にあり、16年度中の申請が見込まれています。
スクレロスチンとは、骨細胞で産生され、骨形成を抑制するタンパク質。ロモソズマブはこのスクレロスチンの働きを阻害することで骨形成を促進するとともに、骨吸収を抑制する作用を持つとされています。
閉経後骨粗鬆症患者を対象に行われた国際共同P3試験「FRAME」では、プラセボに対して投与開始後12ヶ月後の新規椎体骨折発生の相対リスクを73%低下させました。骨形成と骨吸収、両方に作用する薬剤の登場は、骨粗鬆症の治療をさらに大きく変える可能性があります。アステラス製薬は「高い骨折リスクを持つ患者への第1選択薬になるのではないか」と期待しています。
BP製剤には年1回投与
BP製剤では、旭化成ファーマのゾレドロン酸が年内にも発売される見込みです。最大の特徴は、年1回の投与で治療ができるという点。BP製剤は「連日」「週1回」「月1回」と投与間隔の長期化が進んできましたが、年1回は初めて。利便性は高くなりそうですが、逆に投与を忘れてしまうといった懸念もあり、市場でどのような評価を受けるのか、注目されます。
国内の骨粗鬆症患者は1280万人に上りますが、このうち治療を受けている人は2割前後にとどまるとも言われています。各社とも疾患啓発に力を入れており、骨粗鬆症治療薬市場は今後、未治療の患者も取り込みながら一層活性化していくことになりそうです。