
国内主要製薬企業8社の2025年3月期通期の業績は、売上収益が前期比9.7%増、営業利益が89.0%増となりそうです。円安の恩恵が大きいものの、各社が主力とするグローバル製品の伸びも顕著。住友ファーマが赤字からの脱却を見込むこともあり、営業利益は23年3月期の水準に回復しそうです。
売上収益予想 7社が上方修正
各社の24年4~12月期決算から最新の通期業績予想を集計したところ、売上収益予想は8社合計で10兆865億円。期初の予想は10兆196億円(前期比3.0%増)でしたが、エーザイを除く7社が期中に上方修正しました。主な要因は円安の進行です。営業利益は8社合計1兆55億円で、前期に3500億円を超える赤字を計上した住友ファーマが黒字転換することが大幅増益に寄与。営業利益率は前期の5.4%から9.3%に改善する見込みです。
武田薬品工業は第2四半期、第3四半期と続けて売上収益予想を上方修正。最新の予想では前期比7.7%増の4兆5900億円としています。米国で特許が切れた注意欠陥/多動性障害(ADHD)治療薬「ビバンセ」への後発医薬品の浸透が想定より緩やかで、同薬の売上収益予想は期初から840億円上振れしました。為替レートは、期初に他社より円安の1ドル=150円に設定していましたが、最新の予想では第4四半期で156円、通期でも153円としています。
アステラス、減損で利益下方修正
アステラス製薬も2回の上方修正を経て期初の売上収益予想1兆6500億円を1兆9000億円に見直しました。抗がん剤「イクスタンジ」は9099億円を見込み、期初予想から1500億円以上上乗せ。重点戦略5製品もおおむね好調に推移しており、通期予想は計3449億円と25年度目標の5000億円達成に向けて「力強い進捗」とアピールしています。
一方、営業利益は期初の480億円を第2四半期に800億円に引き上げましたが、第3四半期に110億円に下方修正。加齢黄斑変性治療薬「アイザーヴェイ」の欧州申請取り下げなどで1800億円を超える減損損失を計上したのが原因で、80.8%の営業減益となった前期をさらに下回る見通しです。ただ、コアベースでは33.6%増の3700億円を確保できるとしています。
そのアステラスと国内2位の座を争う第一三共は、24年3月期に売上収益の差を約20億円まで詰めました。今期の期初予想は第一三共が上回っており、国内2位が入れ替わると思われましたが、最新の予想では700億円ほど引き離されており、逆に差が広がる見通しとなっています。主力の抗がん剤「エンハーツ」は5399億円(前期比36.4%増)まで伸ばす計画ですが、新型コロナ向けの「ダイチロナ」などワクチン類の動向が不透明な状況。新型コロナワクチンは昨年10月の定期接種化に伴って自己負担が必要となり、他社品も含めて接種が広がっていないことが誤算となっています。
売却決定の田辺三菱、住友は業績回復の兆し
先行きが注目される田辺三菱製薬と住友ファーマの化学系2社は、方向性が分かれました。田辺三菱は米投資ファンドのベインキャピタルに約5100億円で売却されることが決定。25年3月期は増収減益の予想ですが、コアベースの営業利益は前期563億円から610億円へと増加を見込んでいます。北米で筋萎縮性側索硬化症治療薬「ラジカヴァ」が経口剤を中心に伸び、売り上げ予想は期中に807億円から955億円に上方修正。国内では糖尿病治療薬「マンジャロ」が第3四半期だけで124億円を売り上げる急成長を見せました。
親会社の三菱ケミカルグループにとっては、医薬品の研究開発のための資金をいかに捻出するかが課題でした。田辺三菱の研究開発費は、第3四半期までの累計で451億円で、売上収益に対する比率は13.1%。期待の新薬であるパーキンソン病治療薬「ND0612」(開発コード)は昨年6月に米国で承認見送りとなっており、年内の再申請を目指しています。ベインへの売却完了は今年7~9月期で、その後スタートする新会社の社名からは「三菱」の名が消える予定です。
住友、黒字化目標1年前倒しで達成へ
一方の住友ファーマには、業績回復の兆しが見られます。北米で販売する「基幹3製品」がおおむね好調で、販管費も圧縮され研究開発費も半減。営業利益は210億円を確保し、最終利益も期初の赤字予想から一転、160億円の黒字となる見込みです。最終黒字となれば3期ぶりで、26年3月期としていた黒字化目標を1年前倒しで達成できそうです。
基幹3製品では、前立腺がん治療薬「オルゴビクス」が第3四半期時点で期初予想をほぼ達成し、計画を579億円から785億円に上方修正。ドルベースでも4億ドルから5億1600万ドルに引き上げました。子宮筋腫・子宮内膜症治療薬「マイフェンブリー」は下方修正となりましたが、3製品合計では期初予想を上回っての着地となりそうです。
親会社の住友化学は昨年10月の組織改正で、再編成した重点4事業に住友ファーマを入れず、「その他」扱いとしました。グループから切り離される可能性も取り沙汰されていますが、住友ファーマの木村徹社長は2月4日の記者会見で「住友化学の岩田圭一社長は『少し時間をかけて考えてもいい』と話している。目に見える将来の中ではグループの一員としてやっていくのだと考えている」と話しました。業績回復を受けて、住友化学が判断を先送りしているようにも映ります。
住友化学の24年4~12月期決算の資料では、セグメント別業績で住友ファーマは「その他」ではなく単独で記載されています。証券アナリストからその意図を問われた佐々木啓吾常務執行役員は「(事業規模が)非常に大きいため独立させた。再建に注力しており、それをアピールできるということもある」と説明。あらゆる選択肢を検討する方針に変わりはないとしていますが、従来の姿勢から微妙な変化を感じさせました。住友化学では4月1日付で水戸信彰専務執行役員が社長に昇格する予定で、ファーマの木村社長は「創薬について理解しており(就任を)前向きにとらえている」と感想を語りました。
エーザイ、唯一期初予想据え置き
小野薬品工業は第2四半期時点で営業利益予想を下方修正しました。米デシフェラの買収で研究開発費や販管費が膨らんだことが要因。抗がん剤「オプジーボ」の薬価引き下げも痛手となり、コアベースでも39.2%の営業減益を見込んでいます。デジフェラの製品である消化管間質腫瘍治療薬「キンロック」や、SGLT2阻害薬「フォシーガ」の慢性腎臓病での処方拡大がありましたが、オプジーボの減収を埋めきれませんでした。
主要8社で唯一、期初から業績予想を修正していないのがエーザイです。予想に対する進捗率は売上収益で79.7%、営業利益で103.6%ですが、当初第4四半期に予定していた一時金収入が前倒しになったことが主な要因。アルツハイマー病治療薬「レケンビ」は通期計画の425億円に向けて順調に進展しており、上振れの可能性が高まっています。同薬単体での黒字化は26年度を見込んでおり、それまでは投資が先行することになりそうです。
塩野義製薬は売上収益の進捗率が72.5%にとどまりますが、第4四半期は感染症治療薬の伸びが見込まれ、抗HIV薬関連のロイヤリティも上振れしそうです。営業利益率は35.9%となる予想で、国内製薬企業では群を抜いています。