2024年に薬価基準に追補収載された後発医薬品は計140品目で、今年も過去最低を更新したことがわかりました。初の後発品として収載されたのは11成分55品目にとどまり、昨年から5成分22品目減少。低分子薬の特許切れが少なくなっていることに加え、昨今の供給不足を踏まえた後発品メーカーの慎重な姿勢が反映されています。
「イグザレルト」「ハラヴェン」など5成分にAG
今年の後発品の追補収載は、通常の6月と12月に加え、11月に麻酔薬「アナペイン」の後発品2品目が先発品の供給不足を受けた特例として前倒しで収載されました。
アナペイン後発品を12月収載とみなして過去10回(5年間)の収載品目数をさかのぼると、最も多かったのは20年6月の415品目。この年は12月と合わせて695品目が収載されました。ただ、21年以降は減少傾向が明らか。今年は2回連続で微増したものの、年間で見ると140品目と前年を36品目下回りました。後発品業界をめぐる環境が大きく変化する中、1回の収載が100品目に満たない状況が定着してきたようにも見えます。
今年の初後発は11成分で、このうち1社単独参入が4成分、2社だけも4成分と、近年の傾向通り参入企業の少なさが目立ちます。最も多かったのはノバルティスファーマ(販売は住友ファーマ)のDPP-4阻害薬「エクア」の9社。住友ファーマの決算によると、同薬の23年度の売上収益は配合剤「エクメット」と合わせて306億円でした。2剤の売り上げの内訳は明らかではありませんが、金額的にはエクメットがエクアを上回っています。エクアの後発品には、内用薬で7品目超が収載された場合に薬価を先発品の4掛けにするルールが初めて適用されました。
先発品の市場規模が最も大きかったのはバイエル薬品の抗凝固薬「イグザレルト」。23年の売上高は薬価ベースで774億円に上ります。同社は、子会社のバイエルライフサイエンスを通じて今年2月にオーソライズド・ジェネリック(AG)の承認を取得。12月に6社の後発品とともに収載されました。イグザレルトAGは第一三共エスファが販売を担います。
今年の初後発11成分のうち、AGが収載されたのはイグザレルトを含めて5成分。筋弛緩回復薬「ブリディオン」(MSD)のAGを収載した丸石製薬は周術期医療の領域を得意としており、初めてAGの販売に乗り出しました。抗がん剤「ハラヴェン」(エーザイ)のAGは日医工が収載。同薬では、ニプロが特許の残存をめぐってエーザイを提訴し、その一方でエーザイは日医工のAGを許諾しました。結局、日医工のAGとニプロの後発品は12月に同時に収載されました。
武田テバもJWP傘下に、問われる身の振り方
後発品メーカーをとりまく環境は、薬価政策に加え、一部企業の品質不正を発端とする供給不安、原材料費の高騰を背景とするコスト増などで大きく変化しています。厚生労働省の検討会では業界再編を促す報告書がまとまり、各メーカーは自社の身の振り方をこれまで以上に明確にする必要性に迫られています。
今月6日には、かねてから日本事業の売却意向を示していたイスラエルのテバファーマスーティカル・インダストリーズが、武田薬品工業との合弁会社・武田テバを、投資ファンドのジェイ・ウィル・パートナーズ(JWP)とメディパルホールディングス(HD)が共同出資する会社に売却すると発表。JWPはこれまでにも、メディパルHDとともに日医工や共和薬品工業を傘下に収めており、業界再編を牽引する存在になってきました。
武田テバはAGを多く抱えており、「アジルバ」「ロゼレム」「ロトリガ」(いずれも武田薬品)、「アボルブ」「ザイザル」「アラミスト」(いずれもグラクソ・スミスクライン)のAGを扱っています。日医工と共和薬品は生産面などで協業していくことにしており、ファンド傘下で武田テバがどのような事業運営をしていくのか注目されます。
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第一三共エスファは業績低下
同じくAGを積極的に取り扱う第一三共エスファは、今年4月に第一三共の連結対象から外れ、クオールHDの子会社になりました。現在はクオールHDが株式の51%を保有しており、将来的には完全子会社化する方針です。
クオールHDの決算によると、第一三共エスファの今年4~9月期の売上高は330億円で、前年同期の412億円、一昨年同期の419億円から業績は低下しています。理由は明らかではありませんが、クオールHDは売上高の捉え方が第一三共子会社だったころとは異なる可能性があるとしています。前年同期は3製品(うちAG2製品)を発売しましたが、今年上期は通常の後発品1製品だけにとどまったこともいくらか影響していそうです。一方でクオールHDは、親会社が調剤薬局チェーンに変わったことによる他薬局との取り引き縮小などはないとしています。
今月4日の中央社会保険医療協議会(中医協)薬価専門部会に報告された今年の薬価調査の結果によると、今年9月時点の後発品のシェアは数量ベースで85.0%となり、1年前の80.2%から一気に4.8ポイント上昇。10月開始の長期収載品への選定療養導入を前にした切り替えなどが影響したかもしれません。金額ベースのシェアも62.1%に到達。国が掲げる「29年度末までに65%以上」の目標は前倒しでクリアする可能性も高まってきました。
高齢化や医療費抑制から、今後もしばらくは需要拡大が想定される後発品。業界再編の波に揉まれながら、企業の淘汰や製造の集約はどこまで進むのでしょうか。
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