2024年に薬価収載された新薬は57成分で、このうちピーク時の売り上げ予測が100億円を超えるのは17成分だったことがAnswersNewsの集計でわかりました。最高は11月に収載された日本イーライリリーのアルツハイマー病(AD)治療薬「ケサンラ」で796億円。希少疾患や小児を対象とした製品が多く、ピーク時売上高予測が10億円に満たない製品も18成分ありました。
収載数最多は5成分の武田薬品
今年の新薬収載は4月、5月、8月11月の計4回。成分数は配合剤や新剤形も含めて57で、23年から7成分増えました。対象疾患では、がんが13成分で最多。アトピー性皮膚炎と発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)もそれぞれ3成分ありました。
新薬創出・適応外薬解消等促進加算は48成分に適用されました。補正加算がついたのは46成分で、このうち13成分が小児加算を取得。今年4月の薬価制度改革で新設された迅速導入加算は4成分でした。費用対効果評価の対象となったのは9成分です。
収載数が最も多かった企業は5成分の武田薬品工業で、日本イーライリリーとノーベルファーマが4成分で続きました。内資と外資に分けて見てみると、成分数では内資26成分(46%)、外資31成分(54%)と外資がやや優勢ですが、ピーク時売上高予測では内資963億円(20%)、外資3739億円(80%)と圧倒的な差がつきました。この傾向は昨年と変わりません。ピーク時100億円超の17成分のうち、内資の製品は不眠症治療薬「クービビック」(ネクセラファーマ)と抗がん剤「ビロイ」(アステラス製薬)の2成分だけです。
2年連続でAD薬が最高
ピーク時売上高予測の総額はここ数年4000億円台で推移しています。かつては、大型の糖尿病治療薬やC型肝炎治療薬が発売された年に8000億円を超えたこともありましたが、新薬開発のターゲットが希少疾患にシフトしていることなどを背景に、いわゆるブロックバスターは影を潜めています。
ピーク時予測が最も高かったのは日本イーライリリーのケサンラで、23年の「レケンビ」(986億円)に続いて2年連続でAD治療薬がトップとなりました。ケサンラの薬価は350mg1瓶6万6948円で、体重50kgの患者で年間308万円の薬剤費がかかる計算です。リリーは薬価算定にあたり、アミロイドβプラークの除去が確認できれば12カ月で投与を完了できる点などを考慮すべきとの不服意見を提出しましたが、薬価算定組織はこれを退けました。
ケサンラに次いで高いピーク時売上高を予測したのは、494億円の「テッペーザ」(アムジェン)。これまでステロイド投与か外科手術しか治療手段のなかった活動性甲状腺眼症に対する治療薬です。薬価は500mg1瓶97万9920円で、発売10年度目に予測するピーク時投与患者数は3400人と多くありません。薬価算定では45%の有用性加算Iと10%の市場性加算Iが適用されましたが、原価の開示度が低かったため加算係数はゼロとなりました。
ピーク時に351億円を見込む眼科用VEGF阻害薬「アイリーア」(バイエル薬品)は、従来品の高濃度製剤。バイオシミラーの参入も見据えて開発されました。投与間隔が従来の2カ月に1回から4カ月に1回へと広がり、利便性を向上させています。ピーク時予測には、新規患者だけでなく従来品からの切り替えも多く含まれそうです。
予測投与患者数、最少は年間6人
一方で、ピーク時売上高予測が10億円を下回る新薬も18成分あり、全体のおよそ3割を占めました。このうち4つは小児向け製剤の追加です。早老症治療薬「ゾキンヴィ」(アンジェス)は、ピーク時の予測投与患者数が年間6人というウルトラオーファン。新型インフルエンザ治療薬として国が備蓄している「アビガン」(富士フイルム富山化学)は、重症熱性血小板減少症候群(SFTS)ウイルス感染症の適応で薬価収載され、年間70人の投与患者数を見込んでいます。
24年度の薬価制度改革はイノベーション評価で改善が図られたとして、製薬業界からも一定の評価を受けました。目玉の1つとして新設された迅速導入加算は、4月収載のPNH治療薬「ボイデヤ」(アレクシオンファーマ)に初適用。ただ、原価の開示度によって加算係数はゼロとなり、薬価への上乗せは行われませんでした。
自己免疫性肺胞蛋白症治療薬「サルグマリン」(ノーベルファーマ)には画期性加算(75%)が適用されました。同加算の適用は6年ぶりでしたが、原価開示度が低く、市場性加算I(15%)とともに加算係数はゼロ。同薬は、ピーク時でも年間投与患者数88人と予想されるオーファンドラッグで、販売予測も4.2億円にとどまります。原価の開示度が低いとはいえ、ほとんど適用されることがない画期性加算にまで厳しい対応をとることには、中央社会保険医療協議会の委員からも疑問の声が上がりました。
近年は海外の新興バイオファーマが日本でも自社で承認を取得するケーズが増えていますが、今年もウルトラジェニクスジャパンの高脂血症治療薬「エヴキーザ」、アルジェニクスジャパンの全身型重症筋無力症治療薬「ヒフデュラ」、海和製薬の抗がん剤「ハイイータン」が薬価収載。ダイドーファーマは医療用医薬品参入第1号となるランバート・イートン筋無力症候群治療薬「ファダブス」の収載にこぎつけました。
来年からは薬価収載が年7回に増えます。同時に再算定のタイミングも増えるとみられますが、新薬をより早く市場投入できるようになることは患者や製薬企業にとってメリットと言えそうです。