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【国内製薬4~6月期決算】主要8社、売上収益14.1%増…グローバル品好調も円高懸念

更新日

穴迫励二

製薬企業の2024年4~6月期決算が出そろいました。主要8社の売上収益は円安効果もあって前年同期比14.1%増で、通期予想に対する進捗率も26.8%と良好。各社とも成長ステージに入ったグローバル製品が業績に寄与しています。ただ、足元では急速に円高が進んでおり、売上収益の押し下げ要因となる懸念もあります。

 

 

アステラス、重点戦略品が拡大路線に

8社のうち増収は5社、増益は3社でした。売上収益の進捗率は6社が25%を超えており、主力品には上振れも目立ちます。営業利益は前年同期に516億円の赤字を計上した住友ファーマが31億円まで赤字幅を縮小。第一三共は増収と旧子会社・第一三共エスファの売却で倍増しました。4社が2桁の減益となりましたが、全体では15.1%増となり、進捗率は43.6%に達しています。

 

【主要製薬企業8社 24年4~6月期の業績】※1Q実績の下段は前年同期比。単位:百万円、%〈社名/売上収益・1Q実績/売上収益・通期予想/売上収益・進捗率/営業利益・1Q実績/営業利益・通期予想/営業利益・進捗率〉武田薬品工業/1,207,990/4,350,000/27.8/166,329/225,000/73.9| アステラス製薬/473,124/1,650,000/28.7/50,657/48,000/105.5| 第一三共/436,175/1,750,000/24.9/92,979/230,000/40.4| エーザイ/189,029/754,000/25.1/13,407/53,500/25.1| 小野薬品工業/117,675/450,000/26.2/30,690/122,000/25.2|田辺三菱製薬/112,500/437,400/25.7/16,900/68,900/24.5|塩野義製薬/97,586/455,000/21.4/28,110/160,000/17.6 |住友ファーマ/90,675/338,000/26.8/▲ 3,105/0/ー|※各社の決算発表資料をもとに作成

 

売上収益で最も高い伸びを示したのは26.2%増のアステラス製薬です。5つの重点戦略製品が計753億円を売り上げ、収益全体への貢献度を高めるとともに拡大路線に乗ったことを印象付けました。立ち上がりが不調だった閉経に伴う血管運動神経症状治療薬「ベオーザ」は66億円で、通期予想283億円に向かって滑り出しは上々。保険カバレッジは昨年12月末の35%から半年で60%まで上昇しました。

 

買収により獲得した加齢黄斑変性治療薬「アイザーヴェイ」は、米国で請求と償還のプロセスが簡素化・合理化されるJ-Codeが4月1日から適用され、物量が期待以上の伸びを見せています。売り上げは127億円で、通期では464億円の予想に対して上振れを見込んでいます。

 

【アステラス重点戦略品の通期実績と1Q実績】〈薬剤名/通期予想/1Q実績〉パドセブ/1512/384|ゾスパタ/600/173|アイザーヴェイ/464/127|ベオーザ/283/66|ビロイ/37/3|※アステラス製薬の決算発表資料をもとに作成

 

最主力の抗がん剤「イクスタンジ」は、29%増の2242億円まで拡大しました。為替の影響を除外した実質ベースでも16%増となっており、想定を上回った米国を中心に適応拡大も成長を後押ししています。通期の予想は7570億円(前期比0.9%増)です。

 

営業利益の進捗率は100%を超えていますが、これはアイザーヴェイなどの無形資産償却費(1400億円)と、現時点では具体的な兆候のない減損損失などその他費用(600億円)を通期予想に織り込んでいるため。コアベースで見ると進捗率は35.3%となっています。

 

第一三共も24.3%の増収となりました。業績を牽引する抗体薬物複合体「エンハーツ」は売上収益1296億円で、前年同期の819億円から59%の大幅増。販売するすべての地域で2桁の伸びとなり、多くの適応症で新規処方患者シェアトップに立っています。国内では抗凝固薬「リクシアナ」や疼痛治療剤「タリージェ」の伸びが目立ちます。国内のエンハーツは30.2%増の78億円で、通期予想257億円に対して30.4%まで進捗しています。

 

住友ファーマ「基幹3製品」計画上回る

経営が悪化している住友ファーマは、前年同期に516億円あった営業赤字を31億円まで縮小させました。通期ではゼロまで戻す計画です。北米で展開する基幹3製品の売上収益が予想を上回る313億円となり、通期計画の1300億円に向けて順調に推移しています。

 

ドルベースで見ると、4~6月期は3剤合計で1.87億ドルの計画に対して実績は2.05億ドル。過活動膀胱治療剤「ジェムテサ」がわずかに未達でしたが、前立腺がん治療剤「オルゴビクス」が2200万ドル過達の1億800万ドルに伸ばしています。同社の野村博前社長は5月の決算会見で、各製品の売り上げ計画を立てるにあたっては第三者の分析も取り入れて保守的に見積もったと説明しており、下振れリスクを極力排除しました。

 

【住友ファーマ基幹3製品の1Q予想と実績】〈製品名/予想/実績〉オルゴビクス/86/108|マイフェンブリー/22/19|ジェムテサ/79/78|※住友ファーマの決算発表資料をもとに作成

 

武田薬品工業は、炎症性腸疾患治療薬「エンティビオ」の拡大に加え、米国で注意欠陥/多動性障害治療薬「ビバンセ」への後発医薬品の参入が遅れたことで14.1%の増収を確保。ただ、ビバンセは第2四半期以降に大幅な減収が見込まれます。1663億円で進捗率73.9%となった営業利益も、同四半期以降は大きな伸びは期待できません。

 

海外売上高比率が90%に達する同社は、円安が4~6月期だけで1272億円の増収効果を生みました。ただ、為替の想定を1ドル=150円に設定しており、日米の金利差縮小や米国の景気後退懸念で足元の相場が大きく円高に振れる中、通期の売上収益や営業利益への影響が懸念されます。同社の場合、1円円高になると売上収益に150.4億円、営業利益に10億円のマイナス影響があります。

 

エーザイ、4%減収も「レケンビ処方拡大期に」

売上収益が前年同期を下回ったのは塩野義製薬、エーザイ、小野薬品工業の3社。エーザイは4.0%の減収ですが、アルツハイマー病(AD)治療薬「レケンビ」は売上収益が前四半期から35億円増の63億円となりました。内藤景介COO(最高執行責任者)は「日米で処方拡大期に入った」としており、通期計画565億円(うち日本100億円)を追いかけます。欧州では医薬品審査委員会が販売承認申請に否定的見解を採択しましたが、同社はベネフィットとリスク両面で臨床試験の結果に対する自信に揺らぎはないと強調。6月27日には早期AD患者が1700万人と推計される中国でも販売が開始されました。

 

小野薬品はSGLT2阻害薬「フォシーガ」が増収となった半面、抗がん剤「オプジーボ」の薬価引き下げ(市場拡大再算定の共連れ)が響いて微減。営業利益は米デシフェラ買収に関わる費用を計上したことで2桁減となりました。塩野義製薬は新型コロナウイルス感染症治療薬「ゾコーバ」をはじめとした感染症薬の売り上げが下期に集中するため、進捗は遅くなっています。

 

8社の業績は概ね好調と言ってよさそうですが、不安定要素となるのが為替の変動です。各社の想定レートは、1ドル=150円とする武田薬品と田辺三菱製薬以外はすべて145円。ユーロも武田薬品の160円以外は155円です。足元では1ドル=144円台まで円高が進んでおり、前期や4~6月期のように業績を押し上げる要因にはならないかもしれません。

 

【各社の想定為替レート】〈社名/1ドル/1ユーロ〉武田薬品工業/150円/160円 アステラス製薬/145/155|第一三共/145/155| エーザイ/145/155|住友ファーマ/145/ー| 田辺三菱製薬/150/ー| 小野薬品工業/145/ー|塩野義製薬/145/155|※各社の決算発表資料を元に作成

 

AnswersNews編集部が製薬企業をレポート

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