参天製薬が、世界初となる「塗る」アレルギー性結膜炎治療薬を発売しました。点眼薬が主流の現在の治療に、「まぶたに塗るクリーム剤」という新たな選択肢を提案する同社。どのようなニーズに基づいて開発したのでしょうか。
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1日1回塗布で効果持続
参天製薬は5月、アレルギー性結膜炎治療薬「アレジオン眼瞼クリーム」(一般名・エピナスチン塩酸塩)を発売しました。1日1回、上下の眼瞼(まぶた)に塗るクリーム剤で、塗るタイプのアレルギー性結膜炎治療薬は世界初となります。
参天は2013年から1日4回点眼の「アレジオン点眼液」、19年から1日2回点眼の高濃度製剤「アレジオンLX点眼液」を販売。同社は国内の眼科用抗アレルギー薬市場で約8割と圧倒的なシェアを占めます。
アレジオンクリームの特長は、1回の塗布で1日にわたり効果が持続する点にあります。従来の眼科用抗アレルギー薬は、アレジオンを含め1日2回(朝と夕)または4回(朝、昼、夕、就寝前)の点眼が必要です。しかし、用法に従って正確に使用している患者は3割ほどにとどまるとの調査結果もあります。点眼を忘れる患者や、症状が激しいときだけ使用するという患者が多いのが実情です。
眼科医の高村悦子氏(元東京女子医大眼科教授)は「1日1回なら投与のタイミングを決めやすいし、外出時に持ち歩く必要もなく、忘れにくい」と指摘。「例えば就寝前に塗れば、翌日起きたときから寝る前まで効果が続く。かゆみのない世界に進めるかもしれない」と期待します。
点眼が難しい患者でも容易かつ適切に使うことができるのもメリットです。日本眼科アレルギー学会理事長で順天堂大医学部付属浦安病院眼科教授の海老原伸行氏は「小児、関節リウマチなどで手が不自由な患者、認知症患者など、自分で点眼するのが難しいアレルギー性結膜炎患者は多い。クリーム剤なら、自分で点眼できなくても介助者が塗ってあげることができる。使い方という点では画期的だ」と話します。
クリーム剤を選んだワケ
眼科領域に特化する参天にとって、クリーム剤の開発は今回が初めてです。
同社製品開発本部の小山真治氏は、既存の抗アレルギー点眼薬には▽効果が持続しない▽用法が守られない▽点眼動作の失敗による治療効果減弱のリスクがある▽点眼をやりづらい患者がいる――といった未充足のニーズがあり、それらに対する解決策として1日1回投与のクリーム剤を開発したと説明。クリーム剤を選んだことについては「動機としては、点眼薬を使いにくい患者がいるということが大きい。点眼で効果をより長く効果を持続させることも考えたが、相当高い濃度が必要になり、刺激が強くなるといったリスクが考えられたので、クリームというアプローチをとった」と言います。
アレルギー性結膜炎では、花粉の飛散が本格化する前に治療を開始する「初期治療」が、発症期間の短縮や症状の軽減に有効だとされます。高村氏は「症状がないときは特に薬の使用を忘れがち。1日1回投与ならやりやすい」と話し、初期治療でも有力な選択肢になるのではないかと見通します。
アレジオンは参天にとって重要な製品です。24年3月期の売上収益は295億円(うち国内が293億円)で、加齢黄斑変性などの治療薬「アイリーア」(売上収益727億円)に次ぐ主力品。ただ、21年にはアレジオン点眼液の後発医薬品が発売され、同薬からシフトするアレジオンLX点眼液にも今年12月に後発品が参入する可能性があります。薬価引き下げの影響もあって、24年3月期の売上収益は前期比で12.1%減少。今期も5.9%の売り上げ減を見込んでおり、アレジオン点眼液は10月に始まる長期収載品の選定療養化の影響も受けます。
こうした中、参天はアレジオンクリームの発売を機に、かゆみが出てから薬を使うのではなく、かゆみを発生させないように用法を守って投与する「プロアクティブ投与」の治療概念を浸透させ、広く使われる製剤に育てたい考え。医療機関への情報提供活動ではアレジオン点眼液/同LX点眼液の販売でも協業した田辺三菱製薬と提携し、参天が眼科を、田辺三菱がそれ以外の診療科を担当します。
「ライフサイクルマネジメントは製薬企業にとって、ピカピカの新薬を開発するのに比べて短期間、低コストで開発することができる。医療上の必要性であるとか、適正な薬価であるとか、そういったことが評価されるのであれば、企業の持続的な成長を助ける開発手法になる」。参天の小山氏はクリーム剤開発のビジネス上の意義についてこう話しました。