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中堅製薬、海外展開強化…ゼリア新薬、初の「内外逆転」日本新薬など売上高比率4割突破

更新日

穴迫励二

中堅製薬企業が海外重視の傾向を強めています。国内市場はこのところ微増トレンドですが、薬価の改定や制度改革が経営に重くのしかかります。成長にはグローバル展開が欠かせず、海外売上高比率50%超えが1つの目安となっているようです。

 

 

ゼリア、欧州好調で3期連続最高業績へ

海外展開の加速が業績拡大につながっているのがゼリア新薬工業です。同社は2009年にスイスのティロッツ・ファーマを買収して海外市場に本格進出。欧州で販売するクロストリジウム・ディフィシル感染症治療「ディフィクリア」は、英国、フランス、ドイツなどで市場を広げ、24年3月期は前期比61.9%増の135億円を売り上げました。25年3月期はさらに2割程度の増収を計画しており、同社の業績は3期連続で過去最高を更新する見込みです。

 

同薬はもともとアステラス製薬が販売していましたが、製品戦略の見直しに伴い20年11月に欧州などでの製造販売承認をゼリア新薬に譲渡。同年3月期の対象地域での売上高は34億円で、譲渡価格は134億円でした。

 

主力の潰瘍性大腸炎治療薬「アサコール」も、薬価改定や競合激化で苦戦する国内を尻目に欧州で販売を拡大。その結果、20年度は191億円だった海外売上高は23年度に390億円と3年で倍増し、24年度はさらに449億円まで伸ばす計画です。売上高全体に占める割合も上昇の一途で、23年度は4.1ポイント増の51.5%に到達。初めて内外が逆転しました。

 

【ゼリア新薬工業の海外売上高】〈年度/海外売上高/総売上高比〉20/190.96/34.4|21/246.68/41.4|22/323.82/47.4/47.4|23/389.72/51.5|24/448.5/54|※24年度は予想。ゼリア新薬工業の決算発表資料を元に作成

 

円安の恩恵もありますが、23~25年度の中期経営計画で掲げた「海外売上高比率50%以上」は初年度に早々にクリア。中計では「欧州事業に加えてアジア地域での事業展開に注力」する方針も示しており、子会社があるベトナムを中心に海外事業のさらなる拡大を狙います。

 

海外での販売強化は費用増で利益にマイナスとなる面もありますが、今期の全社の営業利益は初めて100億円に到達する見込みです。

 

生化学は45%、参天も40%超え

生化学工業は売上高全体の約6割を占める医薬品セグメントで、海外売上高比率が前期から2.3ポイント増の45.4%となりました。金額は3年間で約5割増え、101億円と初の大台に到達。米国では関節注射剤「Gel-One」が保険償還制度の変更を受けて減少しましたが、中国向け同「アルツ」が新型コロナウイルス感染症による受診率低迷からの回復や販路拡大で販売数量を増やしました。

 

今期は米国市場が前期並みを予想。中国は市場自体の回復は続くものの、出荷を前倒ししたアルツは大幅な減少となる見込みです。海外売上高は前期から1割減の91億円に後退しますが、米国では次の成長ドライバーが控えています。腰椎椎間板ヘルニアの適応で5月に申請した「SI-6603」(開発コード、一般名・コンドリアーゼ)で、ライセンス先のフェリング・ファーマシューティカルズ(スイス)と連携して市場開拓を進める考え。水谷建社長は決算説明会で「新たな治療選択肢になる」と期待感を示しました。

 

【生化学工業医薬セグメントの海外売上高】〈年度/海外売上高〉20/67.76| 21/76.52|22/85.34|23/100.59|24/90.5|※24年度は予想。生化学工業の決算発表資料を元に作成

 

参天製薬は海外事業が前期比24.3%増収の1264億円となり、1.0%の減収となった国内をカバー。過去最高の売上収益、コア営業利益につなげました。海外売上高比率は前期36.4%から41.8%に拡大。事実上撤退した米州を除き、各地域で着実に売り上げを伸ばしています。

 

同社にとって最大市場であるEMEA(欧州・中東・アフリカ)は648億円で23.3%の増収。299億円を売り上げた中国では、新型コロナからの市場回復とマルチチャネル戦略が奏功し、為替の影響があまりない中で38.6%の高成長となりました。中国を除くアジアでも2桁成長を確保しています。利益の足かせとなっていた米州事業では構造改革を前倒しで完了し、150億円の改善効果を出しました。

 

今期は米州での売り上げがなくなることもあり、海外事業全体で6%増と大きな成長は見込んでいませんが、国内が薬価改定などで6%減となるため、海外売上高比率は44.3%に上昇する予想。国内市場が低迷する中、海外が業績を支える構図は年々強まります。

 

23~25年度の現在の中計は各指標を前倒しで実現しており、同社は25年度から始まる新たな計画を今期中に策定する予定。開発中の眼瞼下垂治療薬オキシメタゾリン塩酸塩(一般名)は、中国市場での普及に期待しています。かつて主眼を置いていた米国は一旦棚上げとなりますが、同社は競争力のある製品が出てくれば再参入を検討する考えです。

 

【参天製薬地域別海外売上高】〈年度/中国アジア/EMEA/米州〉22/215/241/525/35|23/299/287/648/31|24/326/315/669/0|※24年度は予想。生化学工業の決算発表資料をもとに作成

 

日本新薬、欧州での展開検討

日本新薬は、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)治療薬「ビルテプソ」が米国で好調です。22年度に売上収益102億円と大台にのせた同薬は、24年3月期に28.6%増の131億円を売り上げ、今期は155億円を計画しています。肺動脈性肺高血圧症・慢性血栓塞栓性肺高血圧症治療薬「ウプトラピ」の海外売り上げに伴うロイヤリティ収入も伸びており、海外売上高比率は前期から9ポイント増の43%まで上昇しています。

 

ビルテプソは米国で自社販売していますが、中井亨社長は5月28日の中期経営計画(24~28年度)発表会見で「製品の市場性によっては今後、他社との販売提携もありうる」との考えを示しました。これから申請を予定する中国では既存の現地法人を活用し、同様に今後申請予定の欧州では自社販売やパートナリングといった複数の選択肢から戦略的に展開方針を検討していくことにしています。

 

ただ、27日に明らかになったビルテプソの国際共同臨床第3(P3)相試験の結果は、将来に対する不安材料となっています。同薬は20年3月に日本で条件付き早期承認を、同年8月に米国で迅速承認を取得しており、検証的試験で有効性・安全性を確認することが求められていました。グローバルP3試験はそのための試験であり、かつ中国や欧州での申請に向けた試験でしたが、主要評価項目で有意差が認められず、今後の展開に影を落としています。

 

同試験の結果は中計にも反映させており、欧州や中国での発売時期を28年度に2年先送り。追加のP3試験を行い、承認を目指すことにしました。中計では同年度の海外売上高比率を現在をやや上回る45%程度に設定しており、従来から掲げていた「50%」の目標達成は30年度以降に持ち越します。同社は、ビルテプソに続くDMD治療薬として米国でP3試験を進めている「CAP-1002」(開発番号)の上市を26年度に予定しており、これを当面の成長ドライバーに位置付けています。

 

中堅製薬企業の海外売上高比率は「50%前後」と「1桁台」に二極化してきており、国内市場に依存する企業も少なくありません。中長期的な経営戦略として海外進出をどう位置付けていくのか、大きなテーマの1つとなっています。

 

AnswersNews編集部が製薬企業をレポート

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