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【主要製薬8社24年3月期】営業利益2桁減で着地へ…減損や新製品の不調響く

更新日

穴迫励二

主な国内製薬企業の2023年4~12月期決算が出そろい、23年度通期の業績が見えてきました。主要8社の最新の通期予想を集計したところ、売上収益は為替が円安で推移したこともあって前期並みを維持する一方で、営業利益は2桁減で着地しそうです。期初予想と比べても大きく下振れており、新製品・主力品の不調や研究開発関連の減損損失が押し下げ要因となっています。

 

 

売上収益0.3%増、営業利益27.2%減に

8社合計の通期売上収益予想は前期比0.3%増の9兆5660億円、営業利益は27.2%減の7880億円となりました。売上収益は8社中6社が第2四半期で上方修正したこともあり、前期からほぼ横ばいとはいえ期初予想に対しては4.0%上振れています。第3四半期では第一三共が、円安とインフルエンザ治療薬「イナビル」の増収でさらに上乗せしています。

 

一方、営業利益は、武田薬品工業、アステラス製薬、住友ファーマの3社が下方修正し、全体では期初予想から26.4%下振れ。開発品の減損に加え、買収費用や新製品の販売不振が影響しています。

 

塩野義製薬は唯一、売上収益、営業利益ともに期初から修正していません。営業利益は第3四半期までの進捗率が92.5%に達していますが、第4四半期の新型コロナウイルス感染症やインフルエンザの流行規模が不明だとして、予想を据え置いています。

 

【主要製薬8社 24年3月期通期業績見通し/】単位:百万円、%。青字は上方修正、オレンジは下方修正|売上収益〈社名/24年3月期期初予想/2Q時点/3Q時点/23年3月期実績/伸び率〉武田薬品工業/3,840,000/3,980,000/3,980,000/4,027,478/▲ 1.2|第一三共/1,450,000/1,550,000/1,580,000/1,278,478/23.6|アステラス製薬/1,520,000/1,608,000/1,562,000/1,518,619/2.9|エーザイ/712,000/741,000/741,000/744,402/▲ 0.5|小野薬品工業/475,000/500,000/500,000/447,187/11.8|塩野義製薬/450,000/450,000/450,000/426,684/5.5|田辺三菱製薬/388,500/436,000/436,000/535,400/▲ 18.6|住友ファーマ/362,000/362,000/317,000/555,544/▲ 42.9/合計/9,197,500/9,627,000/9,566,000/9,533,792/0.3|営業利益〈社名/24年3月期期初予想/2Q時点/3Q時点/23年3月期実績/伸び率〉武田薬品工業/349,000/225,000/225,000/490,505/▲ 54.1|第一三共/135,000/150,000/200,000/120,580/65.9|小野薬品工業/153,000/167,000/167,000/141,963/17.6|塩野義製薬/150,000/150,000/150,000/149,003/0.7|アステラス製薬/288,000/123,000/83,000/133,029/▲ 37.6|田辺三菱製薬/23,000/68,000/68,000/84,300/▲ 19.3|エーザイ/50,000/51,000/51,000/40,040/27.4|住友ファーマ/▲ 78,000/▲ 78,000/▲ 156,000/▲ 76,979/―|合計 /1,070,000/856,000/788,000/1,082,441/▲ 27.2|各社の決算発表資料をもとに作成

 

武田は減損で54%減益

国内最大手の武田薬品は、第2四半期の時点で売上収益を上方修正したものの、国内で高血圧治療薬「アジルバ」、海外で注意欠陥/多動性障害治療薬「ビバンセ」の特許が切れたことで、前期実績をわずかに割り込んで着地しそうです。新型コロナワクチン「ヌバキソビット」の供給契約取り消しも響きます。主力の潰瘍性大腸炎・クローン病治療薬「エンタイビオ」は堅調で、前期比10%増の7730億円を見込んでいます。

 

営業利益は、再生医療等製品「アロフィセル」と抗がん剤「エクスキビティ」の臨床試験が不調で1000億円超の減損を計上したことから、前期比54.1%減の2250億円を予想。コアベースでは1兆150億円(14.6%減)と大台を確保し、コアの利益率は25.5%となる見通しです。同社は「30%台前半から半ばへの回復」を目標に掲げています。

 

第一三共、アステラス抜き2位浮上か

武田薬品に次ぐ国内製薬2位は、アステラスから第一三共へと交代するかもしれません。現在2位のアステラスは、期待の更年期障害治療薬「ベオーザ」(米国商品名)が振るわず下方修正し、売上収益は2.9%増の1兆5620億円にとどまりそう。一方、3位の第一三共は抗がん剤「エンハーツ」の成長を追い風に1兆5800億円を見込んでいます。その差は180億円とわずかですが、2位交代となれば12年ぶりです。

 

【アステラス製薬と第一三共の売上収益】〈年度/アステラス製薬/第一三共〉18/1.3063/0.9297|19/1.3008/0.9818|20/1.2495/0.9625|21/1.2962/1.0449|22/1.5186/1.2785|23/1.5620/1.5800|

 

営業利益では両社の差は大きく開きます。アステラスは米アイベリック・バイオの買収にかかわる費用を第2四半期に計上。さらにベオーザの下振れで期初の2880億円から830億円まで引き下げました。コアベースでは1640億円を確保しますが、それでも前期比は42.8%減に落ち込みます。逆に第一三共は第2、第3四半期と連続で営業利益予想を上方修正し、前期比65.9%増の2000億円に到達しそうです。特許侵害訴訟の和解金261億円があったとはいえ、コアベースでも1800億円を予想しており、業績の好調ぶりが際立っています。

 

円安の恩恵顕著

海外売上比率の高いこれら3社は為替の恩恵が顕著で、第3四半期までに武田薬品が売上収益1415億円・コア営業利益320億円、アステラスが588億円・138億円、第一三共が400億円・53億円の増収益効果がありました。

 

エーザイは抗がん剤「レンビマ」が牽引して売上収益は前期並みを維持し、営業利益は2桁増益となりそうです。ただ、注目のアルツハイマー病治療薬「レケンビ」は、米国での売り上げが17億円にとどまりました。投与継続患者数は1月26日時点で約2000人で、待機患者が8000人程度いるとはいえ当初計画の「年度内1万人」の達成は困難な状況になっています。

 

厳しさ増す住友ファーマ

田辺三菱製薬は、筋萎縮性側索硬化症(ALS)治療薬「ラジカヴァ」が米国を中心に好調。同薬の売上収益予想を期初の468億円から805億円へと大きく見直し、営業利益予想も期初の約3倍となる680億円に引き上げました。前期に多発性硬化症治療薬「ジレニア」のロイヤルティー収入を一括で認識したため、今期は大幅減収減益が避けられない状況でしたが、下げ幅を緩和できそうです。新製品のGIP/GLP-1受容体作動薬「マンジャロ」は通期予想を開示していませんが、4~12月期で56億円(薬価ベース)を売り上げ、出荷制限が継続する中でも着実に実績を上げています。

 

関連記事:注目の「マンジャロ」は急速な立ち上がり―GLP-1製剤国内市場、処方トップは経口の「リベルサス」

 

小野薬品工業はSGLT2阻害薬「フォシーガ」が急成長し、23年の国内医療用医薬品売上高ランキングで8位(エンサイス調べ)に入りました。最主力の抗がん剤「オプジーボ」も含め、売上収益、営業利益とも前期比で2桁増を見込みます。

 

関連記事:【2023年国内医薬品売り上げトップ10】前年に続きオプジーボが首位、イミフィンジやフォシーガなど急成長

 

中計早くも見直し

住友ファーマは厳しさの度合いを深めました。北米で展開する前立腺がん治療薬「オルゴビクス」、子宮筋腫・子宮内膜症治療薬「マイフェンブリー」、過活動膀胱治療薬「ジェムテサ」の基幹3製品は、第3四半期までの売上収益が計4億3800万ドルとなり、計画の9億5000万ドルに対する進捗率は46.1%にとどまりました。米国で特許が切れた抗精神病薬「ラツーダ」も想定を上回る後発医薬品の参入を受け、1億6100万ドルの予想に対して3600万ドルと進捗率は22.4%。その結果、業績予想の大幅下方修正を余儀なくされ、営業赤字は期初の倍となる1560億円となる見通しです。

 

【住友ファーマ 北米4製品の売り上げ進捗状況】単位:百万ドル、%。進捗率は従来予想に対する進捗率〈製品名/3Q実績/従来通期予想/進捗率/修正通期予想〉オルゴビクス/215/396/54.3/290|マイフェンブリー/49/192/25.5/70|ジェムテサ/174/362/48.1/260|基幹3製品計/438/950/46.1/620|ラツーダ/36/161/22.4/47|※住友ファーマの決算発表資料をもとに作成

 

同社は第4四半期に基幹3製品の減損テストを行う予定で、さらに赤字が積み上がる可能性も否定できません。昨年4月に公表したばかりの中期経営計画(23~27年度)は早くも見直しを迫られ、24年度に目標とする「コア営業利益400億円」も達成は極めて難しい状況になっています。

 

関連記事:ラツーダクリフに直面する住友ファーマ、中計で描いた「V字回復」の現実味

 

AnswersNews編集部が製薬企業をレポート

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