2023年、製薬業界は例年以上にリストラの多い年となりました。国内市場が停滞する中、より効率的な営業体制の構築が求められており、その手段の1つとして内資・外資ともに相次いで早期退職を実施。退職者は国内企業の公表分だけでも2000人を超える見込みです。
国内6社が早期退職者募集
国内の製薬企業では今年、発表されたものだけで6社が早期退職者の募集を行いました。このうちアステラス製薬は今月から募集を始めており、500人程度の応募を想定。アステラスを想定通りとすると、11月末で募集を終えたばかりの杏林製薬(MRは対象外)を除いて早期退職者はちょうど2000人となります。直近の各社の有価証券報告書によると、後発医薬品専業メーカーを除く主要製薬26社の従業員数(単体)は計5万3665人。2000人という数字は、この3.7%に相当します。
早期退職を行った6社の国内売上高を見てみると、中外製薬と塩野義製薬が22年度に新型コロナウイルス感染症治療薬の政府買上げで大幅な増収となったのが目立つくらいで、傾向としてはおおむね微減から横ばいです。市場全体が伸び悩んでいるだけに、置かれている環境の厳しさはどの企業も同じと言えます。
中外は4月に募集人数を定めず早期退職を募り、374人が応募。このうちMRは150人を占め、MR数は1050人まで減りました。同社の国内売上高は23年12月期の予想で5417億円。MR1人あたりの売上高は、早期退職実施前の1200人体制で4.5億円でしたが、新体制では5.2億円に上昇します。新型コロナ治療薬「ロナプリーブ」を除いても4.4億円(早期退職実施前は3.8億円)となり、業界平均を2倍以上上回ってトップに位置します。
同社全体の業績は22年12月期まで6期連続増収増益と好調ですが、それでも奥田修社長CEO(最高経営責任者)は経営環境の厳しさを強調。多くのMRを必要としないスペシャリティ領域に事業の中心が一層シフトしていくことから、将来的な生産性を見据えて先手を打った格好です。
アステラス、MR800人規模まで減少か
近年の早期退職では会社側が定めた募集人数を上回る応募があるケースも見られ、それもあってか、ほとんどの企業は募集人数を定めないか公表していません。唯一明らかにした塩野義は約200人の募集人数に対して301人の応募がありましたが、手代木功社長は「想定の範囲内」としています。301人の応募者のうちMRは200人近くに上り、同社は10月に営業体制を再構築しました。
塩野義は海外事業の拡大を掲げており、今後も人員の再配置が進みそうです。ただ、今回の早期退職の対象となったのは50歳以上の社員で、国内営業では新卒採用を増やしていく方針。若返りを図ることになります。
今月から募集を開始したアステラスは500人程度の応募を想定しています。前回(21年)は650人の応募があり、このうち約500人が営業部門でした。今回は対象を営業部門に絞っており、現在1200人のMRは800人規模まで減少するかもしれません。そうなると、24年3月期の国内売上高予想2773億円に対する1人あたりの生産性は、現在の2.3億円から3.5億円程度に上昇します。
同社は20年4月時点で1700人のMRを抱えていましたが、4年でほぼ半減することになりそうです。岡村直樹社長CEOは、医師と直接会わない情報提供手段が広がっているとし、営業組織を大胆に変革していく姿勢を強調。「残った人たちは従来のようなMR活動ではないスタイルやスキルを持つ、少数精鋭の集団になっていくのがわれわれのゴール」と説明しています。
外資でも相次ぐ
中堅では、大正製薬ホールディングスが5~8月に募集を行い、645人の募集があったと発表しました。退職者は医療用医薬品を扱う医薬事業が中心で、支店の閉鎖に伴う退職もありました。かつて1000億円規模の売り上げがあった医薬事業は、23年3月期に377億円まで縮小。「少し大きめのサイズだった事業をいったんリセット」(上原茂副社長)する形で組織を見直しました。
同社は現在のMR数を公表していませんが、医療用への投資は継続するとしています。ただ、生産性以前に事業をどう導いていくのかはっきりしません。当面は人員削減によって営業利益の赤字幅を圧縮し、立て直しを図ることになりそうです。同社は11月、MBO(経営陣による買収)を行うと発表。MBOが成立すれば上場廃止となる見通しです。
参天製薬では180人が応募しました。同社の単体従業員数(今年3月末時点)は1807人で、早期退職者はその1割に相当します。対象者は50歳以上かつ勤続3年以上の社員で、製造関連部門を除外していたことを考えると、対象者における応募者の割合はかなり高そうです。
一方、詳細の開示がない外資系企業でも今年はリストラが相次ぎ、バイエル薬品は400人規模、ヤンセンファーマも300人規模で退職があったと伝えられています。アムジェンでもスペシャリティ事業本部の社員30人が6月末で退職しました。早期退職の形ではないようですが、業績が安定している中での人員削減です。
製品の主体がスペシャリティ領域へと移る中、情報伝達の手段はコロナ禍を経てデジタルに傾斜してきました。そうたした変化を見据えるのは各社おおむね共通しており、“従来型MR”の削減が加速しています。営業コストの削減とともに、DX(デジタルトランスフォーメーション)を担う人材の確保など、人的リソースの配分見直しも盛んになっているようです。