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「低分子の底力」について講演したあと、参加者と話して感じたこと|コラム:現場的にどうでしょう

更新日

黒坂宗久

4月に東京ビッグサイト(東京・有明)で開かれたCPHI Japan(国際医薬品開発展)で、「製薬業界における低分子医薬品の底力」と題してお話をする機会をいただきました。声をかけていただくきっかけになったのが、このコラムで昨年2月に書いた「低分子はまだまだオワコンではないと言える理由」の記事です。これを読んだCPHI Japanの運営の方から私に連絡があり、コラムに書いたような内容を話してほしいと依頼されました。個人的に、今年はいろいろとおもしろいことが起こる年だなと思っているんですが(先日Twitterでお知らせした転職の話もその1つです)、そんなことが起こるのもいろんなところでいろんなことを書いてきたからであり、やってきてよかったなと思っています。

 

簡単にまとめると、CPHI Japanでは「新規モダリティが脚光を浴びる中、低分子医薬品はモダリティとして“オワコン”だと思われがちですが、売り上げや導出入のデータを見ると全然そんなことはないですよ」というお話をさせていただきました。せっかくなので、そこでどんなデータをお示ししたのかご紹介したいと思います。

 

低分子はこれからも存在感を発揮し続ける

下のチャートは、2012~28年の世界の医薬品の売上高をモダリティ別に見たものです。濃い青色が低分子医薬品なんですが、見ていただくと一目瞭然で、低分子医薬品の売り上げは今後もそれなりに伸びていくと予想されています。28年の時点でも最も売り上げが大きいのは低分子医薬品で、2番目に大きい抗体医薬と比べても2倍弱の売り上げ規模があり、これからもまだまだ存在感を発揮していくモダリティなのです。

 

【モダリティ別/医薬品の売上高推移】<Smallmoleculechemistry/Monoclonalantibody/Protein&peptidetherapeutics/Vaccine/Plasmaderivedtherapy/DNA&RNAtherapeutics/Gene-modifiedcelltherapy/Genetherapy/Celltherapy/Genomeediting/Oncolyticvirus/Others>2012年|403741.01/53249.507/83960.899/23096.359/12602.987/15.513/0.2882481/489.08211/12082.104|2016年|403029.56/86411.072/98188.684/26495.356/14558.008/11.31331/0.1051408/482.87945/41.375/11197.81|2020年|426717.84/157469.46/101574.7/35809.444/19227.872/3027.5741/1081/1004.7931/270.86291/54.939/14096.895|2024年|482013.2/253111.38/125541.79/75855.811/28245.023/6039.1189/6561.4504/4220.1927/1873.3135/202.24769/261.65617/15943.734|2028年|602967.83/347505.88/157488.2/91170.835/33877.817/24029.678/23989.182/17519.228/7693.9872/4606.6867/1993.4805/21815.333|※出所:Evaluate

 

ちなみに、新規モダリティとして注目されている遺伝子治療、細胞治療、核酸医薬、ゲノム編集、遺伝子改変細胞治療(CAR-T細胞療法など)は、伸びとしては低分子医薬品や抗体医薬を上回るものの、額としては28年時点で計778億ドル、全体に占める割合は4%に過ぎません。

 

少し違った視点から、製品の現在価値(NPV)を見てみたのが下のチャートです。現在開発中(Phase2からFiled)の製品のうち、NPVが高い上位100品目のモダリティ構成を示しています。ここでも低分子医薬品は100品目中42品目を占めていて、モダリティとしては最大の勢力です。

 

【NPV上位100品目のモダリティ構成】<Smallmoleculechemistry/Monoclonalantibody/DNA&RNAtherapeutics/Vaccine/Protein&peptidetherapeutics/Gene-modifiedcelltherapy//Genetherapy/Celltherapy/Genomeediting/Oncolyticvirus/Others>42/28/7/7/7/3/2/1/1/1/1

 

さらに違った視点から、Product Dealの状況も見てみましょう。2012年以降、製品ディールが最も多いのは低分子医薬品であり、昨年の時点でも半数以上を占めています。確かに、新規モダリティの比率は大きくなっていますが、まだまだ有望な薬剤候補として低分子化合物への興味は持続しているのです。ここではお示ししていませんが、今年も現時点では半数以上を低分子医薬品が占めており、食指は動き続けていると言っていいでしょう。

 

<2012/2013/2014/2015/2016/2017/2018/2019/2020/2021/2022>Smallmolecule/chemistry/443/455/431/461/517/503/606/542/446/447/271|Monoclonal/antibody/30/48/51/70/83/99/126/121/168/124/120|Nextgenerations/17/29/20/32/45/66/98/85/114/135/64|Protein&peptidetherapeutics/19/42/39/46/41/40/68/35/44/47/37|Vaccine/15/16/27/30/22/26/26/18/67/42/22|Plasma-derivedtherapy/5/7/1/2/1/2/2/4/5/|OncolyticVirus/1/3/1/3/5/5/8/1|Others/25/27/30/51/23/34/56/25/23/19/13|※出所:Evaluate

 

「とても勇気づけられた」

CPHI Japanではこのようなお話をさせていただきました。講演後、製薬企業の研究所の方、本社の方、後発医薬品メーカーの方、原薬メーカーの方、素材メーカーの方など十数人の方と名刺交換をさせていただきましたが、皆さん「とても勇気づけられる内容でした」とおっしゃっていたのが印象深かったです。

 

核酸医薬(バイオジェンのスピンラザ)、遺伝子治療(ノバルティスのゾルゲンスマ)、低分子医薬品(ロシュのエブリスディ)が三つ巴の競争を繰り広げている脊髄性筋萎縮症治療薬の市場では、低分子に軍配が上がりそうだという予想もお話させていただきました。この話題は特に皆さんの興味を引いたようで、低分子の可能性を信じつつも一方ではその将来に不安も覚えていることが肌で感じられました。

 

低分子創薬の技術は今も進歩を続けており、今後も画期的な低分子医薬品が開発されることでしょう。もちろん日本企業には頑張ってほしいと思いますし、そうでなくても日本の患者さんがそうして開発された画期的新薬に迅速にアクセスできることが重要です。開発投資を躊躇させる日本特有の課題が解決されることが必要ですし、私には何ができるのか、それを今考えています。

 

※コラムの内容は個人の見解であり、所属企業を代表するものではありません。

 

黒坂宗久(くろさか・むねひさ)Ph.D.。Evaluate Japan/Consulting & Analytics/Senior Manager, APAC。免疫学の分野で博士号を取得後、米国国立がん研究所(NCI)や独立行政法人産業技術総合研究所、国内製薬企業で約10年間、研究に従事。現在はデータコンサルタントとして、主に製薬企業に対して戦略策定や事業性評価に必要なビジネス分析(マーケット情報、売上予測、NPV、成功確率や開発コストなど)を提供。Evaluate JapanのTwitterの「中の人」でもあり、個人でもSNSなどを通じて積極的に発信を行っている。
Twitter:@munehisa_k
note:https://note.com/kurosakalibrary

 

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