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2021年は「終わりの始まり」だったのかもしれない|コラム:現場的にどうでしょう

更新日

黒坂宗久

昨年1月、私はこのコラムで、弊社Evaluateのデータから日本を含む国際共同治験が2021年に減少に転じたことを指摘し、「2021年が『終わりの始まり』にならないことを切に願います」と書きました。それから1年がたち、あらためてデータを見てみると、懸念は確実に現実のものとなりつつあるように思えます。

 

振り返れば、2022年は医薬品をめぐるさまざまな問題が噴出した年だったと私は感じています。「ドラッグ・ラグ」にせよ、ジェネリック医薬品を中心とする医薬品の供給不足にせよ、これらは製薬業界だけではなく日本全体の問題であり、国民が必要な時に必要な医薬品を使うことができなくなってしまう可能性をはらむ大きな問題です。アステラス製薬の安川健司CEOは、先月の日経新聞のインタビューで「日本は『ドラッグロスト』と言えるのではないか」と話しています。すでにドラッグ・ラグが顕在化している現状を踏まえれば、そうした表現も決してオーバーではありません。

 

すでに見慣れた光景になってしまいましたが、先日の中央社会保健医療協議会(中医協)では、アストラゼネカの抗がん剤「タグリッソ」の薬価が、いわゆる「四半期再算定」(年4回の新薬の薬価収載の機会を利用し、売り上げの大きい医薬品の薬価を市場拡大再算定の特例によって引き下げること)で6月から約10%引き下げられることになりました。ドラッグ・ラグにはさまざまな要因がありますが、市場拡大再算定に代表されるイノベーションに否定的な薬価制度は、恐ろしい切れ味で製薬企業のモチベーションを削いでいると感じています。

 

日本を含む国際共同治験が2年連続で減少した

さて、私が冒頭「懸念は確実の現実のものをなりつつあるように思える」と書いたのは、2021年に続いて22年も日本を含む国際共同治験が減っていたからです。

 

昨年のコラムでは、Evaluateのデータベースをもとに、2010~21年に開始された臨床第3相(P3)試験(企業治験)から米国と欧州の両方を含む試験を抽出し、その中で日本が含まれる試験の割合を調べました。その結果、20年から21年にかけて日本を含む試験の割合は47%から45%に減っていたのですが、同じように22年の状況を調べてみると、さらに41%まで減少したことがわかりました。

 

【国際共同治験数の推移】<年/日米欧が含まれる国際共同治験数/米欧が含まれる国際共同治験数/日本が含まれる国際共同治験の割合(%))>2010/57/227/20%|11/69/246/22%|12/64/231/22%|13/69/241/22%|14/79/248/24%|15/100/249/29%|16/101/191/35%|17/120/197/38%|18/128/245/34%|19/120/193/38%|20/134/154/47%|21/108/134/45%|22/97/140/41%|※2010~21年に開始された臨床第3相試験(企業治験)のうち、米国と欧州の両方を含む試験を抽出し、その中で日本が含まれる試験の数と割合を調査。|※出所:Evaluate

 

2年連続で減少したのは2010年以降では初めてで、4ポイントという減少幅は18年と並んで最大です。この数字の裏で起こっているであろうことを想像すると、背筋が寒くなります。

 

新薬開発における「ジャパン・パッシング」が顕在化していますが、ほかの地域の状況はどうなのかと気になり、もう少しデータを掘ってみました。

 

先ほどご紹介したグラフは米国・欧州±日本の組み合わせで見たものですが、そこに中国とRoW(Rest of World=日米欧中以外)を加えて2022年開始のP3試験の実施国を見たのが下のグラフです。

 

【2022年に開始された国際共同治験の実施国】EU・Japan・USA/RoW/27|EU/RoW/29|Japan/only/33|EU・USA/44|EU/only/60|China・EU・Japan・USA/RoW/65|EU・USA/RoW/81|RoW/only/81|China/only/98|USA/only/188|※出所:Evaluate

 

「米国のみ」が1位なのは予想通りだったものの、2位が「中国のみ」というのは、私にとっては意外な結果でした。「RoWのみ」の試験が結構多いことも発見でした。

 

言われるうちが華

さらにこれを2010年までさかのぼって経時的な変化を見てみると、下のグラフのようになります。「米国のみ」の試験はずっと上位ですが、「中国のみ」は15年以降、急激にランクを上げています。これと連動するように「日米欧中RoW」も17年以降、順位を上げており、22年は5位につけました。「日本のみ」は17年に大きく順位を落としたものの、20年以降上昇しているのは、いい傾向と言えるのかもしれません。

 

【国・地域別 国際共同治験数ランキング】<2010/2011/2012/2013/2014/2015/2016/2017/2018/2019/2020/2021/2022>USAonly/2/2/2/2/2/2/2/2/2/2/1/1/1|Chinaonly/9/7/10/8/8/10/8/7/3/3/3/2/2|Europe,USA,/RoW/1/1/1/1/1/1/1/1/1/1/2/3/3|RoWonly/4/4/4/4/4/4/5/5/6/7/6/5/3|China,Europe,Japan,/USA,/RoW/11/11/11/11/11/11/11/6/7/6/7/7/5|Europeonly/3/3/3/3/3/3/4/3/5/4/4/4/6|Europe,USA/10/10/9/10/9/8/9/8/8/8/9/11/7|Japanonly/5/5/5/5/6/6/6/10/10/10/10/9/8|Europe,RoW/6/9/7/7/10/8/10/11/12/11/11/10/9|Europe,Japan,USA/RoW/8/7/6/6/5/5/3/4/4/5/5/6/10|※出所:Evaluate

 

「中国のみ」の中身を少し覗いてみると、大半はスポンサーが中国企業の試験でした。前回のコラムでも書いたように、中国ではイノベーションが次々と生まれており、欧米大手の参入が本格化していることもあって、臨床試験が盛んに行われているようです。

 

一方の日本はというと、臨床試験の手続きについて「ユニークさは世界一。中国と比べても日本はユニーク」という指摘もあります。ドラッグ・ラグの解消に向けては、こうした特殊性を改善していく必要があるでしょう。

 

薬価をめぐる問題が国会で取り上げられることも増えてきました。先月、日本製薬工業協会が薬価制度の見直しを含む政策提言を発表したのに続き、今月9日にはPhRMA(米国研究製薬工業協会)が24年度薬価制度改革への提言を発表。市場拡大再算定ルールの見直しなどを訴えました。

 

「言われるうちが華」とよく言います。誰も日本のことを気にしなくなる前に、そろそろ何とかしませんか。

 

※コラムの内容は個人の見解であり、所属企業を代表するものではありません。

 

黒坂宗久(くろさか・むねひさ)Ph.D.。Evaluate Japan/Consulting & Analytics/Senior Manager, APAC。免疫学の分野で博士号を取得後、米国国立がん研究所(NCI)や独立行政法人産業技術総合研究所、国内製薬企業で約10年間、研究に従事。現在はデータコンサルタントとして、主に製薬企業に対して戦略策定や事業性評価に必要なビジネス分析(マーケット情報、売上予測、NPV、成功確率や開発コストなど)を提供。Evaluate JapanのTwitterの「中の人」でもあり、個人でもSNSなどを通じて積極的に発信を行っている。
Twitter:@munehisa_k
note:https://note.com/kurosakalibrary

 

AnswersNews編集部が製薬企業をレポート

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