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低分子はまだまだオワコンではないと言える理由|コラム:現場的にどうでしょう

更新日

黒坂宗久

お恥ずかしい話ですが、私が「モダリティ」という言葉に初めて出会ったのは、製薬企業で研究者をしていたとき、ではなく、転職して製薬企業から学術情報サービス企業に移ってからでした。顧客との会議の中でその言葉が出てきたとき、意味がわからず冷や汗が出たのを今でも覚えています。釈迦に説法ではありますが、簡単に説明しておくと、モダリティとは医薬品に使われている技術のことで、具体的には「低分子化合物」「抗体」「細胞」「遺伝子」などが挙げられます。

 

このモダリティという言葉、最近では「新規モダリティ」「次世代モダリティ」といった使われ方で耳にする機会が増えました。コロナ禍で一躍有名となったmRNAワクチンもそうですし、遺伝子治療、細胞治療、核酸医薬も新しいモダリティとしてよく取り上げられます。一方、これらと対比されるのが昔からある低分子医薬品です。とにかく、新規モダリティには夢があって、従来の薬では治療できなかった疾患にアプローチできる素晴らしい技術だ!という文脈で語られることが多く、低分子はある意味「オワコン」的な扱いを受けることも多いように思います。

 

しかし、本当に低分子は終わったモダリティなのでしょうか?結論を先に言うと、私は低分子の将来をそれほど悲観してはいません。その理由を、弊社Evaluateの「コンセンサス予測」をもとに見ていきたいと思います。

 

2026年も売り上げの半分は低分子

コンセンサス予測は、Evaluateの顧客である製薬企業に最も利用されているデータで、複数の証券アナリストの予測をもとに製品や開発品の売上高予測を算出したものです(アナリストによる予測がなされていない製品・開発品は含まれていません)。現在、2026年までの予測が出ており、今回は▽低分子▽抗体▽ペプチド・タンパク(中分子を含む)▽ワクチン▽次世代モダリティ(細胞治療、CAR-Tなどの遺伝子改変細胞治療、遺伝子治療、核酸医薬、ゲノム編集)――の5カテゴリで2015~26年の売上高推移(予想を含む)を見ていくことにします。

 

【モダリティ別売り上げ予測(2015~26年)】(単位:百万ドル)■低分子■抗体■ペプチド/タンパク■ワクチン■次世代モダリティ|※出所:Evaluate

 

チャートを見るとどうでしょう。低分子は頑張っていると思いませんか?抗体の割合が増えているのが顕著ですが、低分子も売り上げを伸ばし続けています。おもしろいのは20年から21年にかけてワクチンがぐんと増えていることで、これは皆さんご推察の通り、新型コロナウイルスワクチンが大きく影響しています。

 

上のチャートから、16年、21年、26年を取り出し、もう少し細かく見てみましょう。

 

【モダリティ別売り上げ構成】)■低分子■抗体■ペプチド/タンパク■ワクチン■次世代モダリティ|2016/65.3%/14.7%/15.6%/4.3%/0.1%|2021/52.6%/22.6%/12.6%/11.4%/0.8%|2026/50.5%/25.9%/11.6%/7.0%/5.0%|※出所:Evaluate

 

16年には低分子が6割以上を占めていますが、21年には抗体やワクチンの割合が増え、低分子は5割を少し上回るところまで圧縮されています。それでも26年まで5割をキープし続ける予測となっており、これは低分子がまだまだオワコンではないといえる理由の1つだと私は思っています。

 

研究開発段階にある品目も半分は低分子

売り上げデータは、モダリティによる価格の違いに影響を受けます。一般的に、低分子よりも抗体などほかのモダリティのほうが価格は高いですし、特にCAR-T細胞療法などは非常に高額です。

 

そこで、今度は開発品目数を比較してみたいと思います。下のグラフは、現在アクティブに開発(研究段階〈Research project、preclinical〉、 P1、 P2、 P3、 申請~発売(Filled、Approved、Marketed〉)が行われている新規有効成分含有医薬品をモダリティ別に集計したものです。複数の適応症で開発されているものは、世界で最も進んでいるフェーズで集計しました。各フェーズの棒の上にある数字は、それぞれの段階にあるおおよその品目数を示しています。

 

【Phase別 モダリティ別の品質構成】)■低分子■抗体■ペプチド/タンパク■ワクチン■次世代モダリティ|Research:52.3%/14.7%/5.5%/8.2%/19.4%/約13,000品目|Phase1:53.6%/17.8%/4.0%/8.9%/15.7%/約2,800品目/Phase2:52.0%/14.2%/6.1%/10.8%/16.9%/約3,000品目/Phase3:54.8%/16.1%/8.5%/10.3%/10.2%/約900品目|>Filed:71.5%/5.5%/8.4%/11.0%/3.5%/約3,000品目|※出所:Evaluate

 

低分子は「申請~発売」の段階にある品目の7割以上を占めており、研究からP3までの段階でも半分以上が低分子となっています。これを見ても、低分子はまだまだ主力のモダリティと言え、初期ほど割合が高い次世代モダリティ群は、まさに次世代だなといった感じです。

 

復活のチャンスはある

3つのチャートをお見せしましたが、皆さんはどう感じたでしょうか?私は、低分子にはチャンスが多いと感じました。

 

ベタな例で恐縮ですが、脊髄性筋萎縮症では核酸医薬や遺伝子治療が先行したものの、そこに最近、SMN2遺伝子のスプライシングを調整することで意味のあるSMNタンパク質を作らせる低分子薬が登場しました。利用方法は高度化しているとは思うものの、まだまだ低分子の利用範囲は広いと思っています。

 

抗体は一大ブームとなりましたが、製造面も含め手を出すのは簡単ではありません。(結果はどうであれ)ブームに乗れた企業は良いとして、そうでなかった企業も多かったはずです。バイオに乗り遅れたことで日本の製薬産業の競争力が衰えたと言われますが、復活のチャンスはあります。低分子創薬はもともと、日本が得意としていた分野なのですから。

 

※コラムの内容は個人の見解であり、所属企業を代表するものではありません。

 

黒坂宗久(くろさか・むねひさ)Ph.D.。Evaluate Japan/Consulting & Analytics/Senior Manager, APAC。免疫学の分野で博士号を取得後、米国国立がん研究所(NCI)や独立行政法人産業技術総合研究所、国内製薬企業で約10年間、研究に従事。現在はデータコンサルタントとして、主に製薬企業に対して戦略策定や事業性評価に必要なビジネス分析(マーケット情報、売上予測、NPV、成功確率や開発コストなど)を提供。Evaluate JapanのTwitterの「中の人」でもあり、個人でもSNSなどを通じて積極的に発信を行っている。
Twitter:@munehisa_k
note:https://note.com/kurosakalibrary

 

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