アステラス製薬の社員が中国当局に拘束され、波紋が広がっています。製薬各社が新薬を投入するなどして中国事業を強化する中、あらためて「チャイナリスク」が浮き彫りとなった形です。
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アステラス、中国進出は1994年
先月、中国・北京でアステラス製薬の社員が当局に拘束された事件は、発覚から1週間以上がたった今も解放は実現していません。報道によると、男性は同社の現地法人幹部。駐在歴は長く、日本に帰国する直前の3月中旬に拘束されたとみられています。中国側は拘束理由を「反スパイ法に違反した疑いがある」と説明していますが、具体的な容疑や拘束の経緯は不明。4月2日には林芳正外相が訪中し、秦剛外相との会談で早期解放を要求したものの、秦氏は「法に基づいて対処する」と述べるにとどめました。
アステラスは1994年に中国に進出。現在は北京や香港に販売拠点を持ち、瀋陽の工場では前立腺肥大症に伴う排尿障害改善薬「ハルナール」や免疫抑制剤「タクロリムス」など10種類以上の医薬品を生産しています。アステラス中国の従業員数は2021年末時点で約1000人です。
アステラスは19年度から中国市場への取り組みを強化しており、当時社長CEOを務めていた安川健司会長は19年4月、18年度に500億円ほどだった中国の売上高を早期に1000億円台に引き上げたいとの考えを表明。同年10月には「2020年代後半に2000億円の売上規模を目指す」とより具体的な目標を明らかにしています。
新薬を相次ぎ投入
アステラスが中国で販売する製品は、17年度までハルナールやプログラフといった従来薬が中心でしたが、18年度に過活動膀胱治療薬「ベットミガ」と高尿酸血症・痛風治療薬「フェブリク」を発売。その後も、19年に前立腺がん治療薬「イクスタンジ」、21年に白血病治療薬「ゾスパタ」の承認を取得するなど、相次いで新薬を投入しています。今年3月には尿路上皮がん治療薬の抗体薬物複合体(ADC)「パドセブ」の承認申請が受理されました。
アステラスは22年度に中国で802億円の売り上げを見込んでおり、5年前の17年度から36%増加。全体の売り上げに占める割合も5%を超える予想です。
巨大市場、投資加速
米IQVIAインスティテュートによると、22年の中国の医薬品支出は1660億ドル(約22.1兆円)。米国(6290億ドル=約83.5兆円)に次ぐ世界2位で、3位の日本(730億ドル=約9.7兆円)とは2倍以上の差があります。27年までの年平均成長率予測は、日本のマイナス2%~プラス1%に対して中国はプラス2~5%となっており、高成長を続ける巨大市場にはアステラスに限らず多くの製薬企業が食指を伸ばしています。
かねてから中国市場に力を入れていたエーザイは、18年に主力の抗がん剤「レンビマ」を発売。同薬は21年度に中国で350億円を販売し、中国事業の売上高は1000億円を突破しました。エーザイの売り上げ全体に占める中国の割合は14.1%に達しています。18年には蘇州で新工場を本格稼働させ、生産能力も増強。グローバルで1兆円規模の売り上げを期待するアルツハイマー病治療薬レカネマブについても、申請手続きを進めています。
欧米大手も事業拡大
第一三共は今年2月、抗HER2 ADC「エンハーツ」が中国で承認。すでにブロックバスターとなった同薬ですが、中国で承認されるのは初めてです。同社の21年度の中国売上高は650億円で、全体の6.2%を占めています。22年度は765億円と17年度比で117%増加しており、期待の製品でさらなる売り上げ拡大を狙います。
かつてブラックボックスだった中国の医薬品市場では、規制緩和や保険償還の仕組みの整備が進み、外資系企業が参入しやすくなりました。欧米の製薬企業も中国への投資を拡大させており、米メルクや英アストラゼネカは中国売上高が50億ドル超える規模まで成長。日本を上回る収益を中国で上げています。
各社が事業強化を図る中で起こった今回の拘束事件。成長が期待される巨大市場とどう向き合うのか、あらためて問われることになりそうです。