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ニュース解説

アステラス、グローバルで加速する人事・組織改革

更新日

穴迫励二

アステラス製薬が、グローバルで人事・組織の改革を加速させています。同社が2月に開いた「サステナビリティミーティング」では、その全体像が示されました。

 

 

トップマネジメントと社員の対話を重視

アステラスは2021~25年度の経営計画で「戦略目標」「成果目標」とともに「組織健全性目標」を掲げ、その達成に向けた人事面での優先的な取り組みとして(1)カルチャー、マインドセットの変革(2)グローバルな人材・組織を支える人事制度の構築(3)イノベーティブな組織への戦略的変革――を進めています。

 

関連記事:「とにかくイノベーティブな組織にしたい」…アステラス・安川CEO「組織健全性目標」を掲げた経営計画に込めた思想

 

【アステラス製薬 人事の取り組み】経営計画(2021~25年度)|戦略目標/組織健全性目標/1.果敢なチャレンジで大きな成果を追求/2.人材とリーダーシップの活躍/3.One Astellasで高みを目指す/成果目標|人事の優先的な取り組み|カルチャー、マインドセットの変革/グローバルな人材・組織を支える/イノベーティブな組織への戦略的改革|データに基づく確実な進捗確認|※サステナビリティミーティング(23年2月17日)資料をもとに作成

 

1つ目の「カルチャー、マインドセットの変革」では、社員が賢くリスクを取りながら成長していくため、心理的安全性の確保とフィードバック文化の構築に力を入れています。これは、結果を恐れず大胆なアイデアを出し、現状に疑問があれば声を挙げ、率直に話し合える環境をつくるための取り組みです。その実現に向け、22年12月には、あらゆる階層間でやりとりできるフィードバックツールを導入。すでに4300件を超える実績が上がっているといいます。

 

トップマネジメントと社員の双方向コミュニケーションも重視しています。「Ask Me Anything」「Live Stream」という2つの対話型セッションを展開中で、世界中から多くの社員が参加しています。Ask Me Anythingは、社長・副社長らと社員が直接対話し、疑問を解消することで、同社が推進する経営計画への理解を深めてもらうことが目的です。

 

社員の不安に配慮

安川健司社長はその意義について「新卒や途中入社の社員は会社の歴史を知らないので、いきなり『経営計画だ』『改革だ』と言われても重要性が分からない。年に数回会って、計画や施策の背景を説明することで理解が進む」と指摘。具体的なやり方としては「テーマを決めていかなる質問も受ける比較的大規模な形と、20~30人のグループで質問が尽きるまで対話を繰り返す2通りがある」とし、これらを組み合わせるのが有効だと話します。

 

Live Streamはトップマネジメント全員参加のライブセッションで、毎回テーマを決めてマネジメント側が個人の経験談などを披歴します。内容は成功例や実績ではなく、むしろ失敗やそこから得た教訓などざっくばらんな話題が中心です。これまで2回行っており、1回目は7000人、2回目は6500人が参加しました。

 

アステラスの人事・組織体制は、現在の経営計画が始まった21年度以降、かなりのスピードで改革が進んでいます。昨年4月には国内営業体制を大幅に改め、MRの処遇も見直されました。急激な変化は社員の混乱を招く懸念もあります。トップマネジメントと社員の対話は、社員の不安を解消し、意識の乖離を生まないよう配慮したものです。

 

関連記事:アステラス、営業効率化へ大なた…グローバルで1000人削減 DXで生産性向上

 

人事・コンプライアンス担当の杉田勝好専務は「ある程度のスピードや勢いをもって改革しないと変わらない。痛みや辛さもあるが、そういう時期はできるだけ短く通り過ぎて次のステージに行くということを意識している。一方で、そこに着いて行ききれていない社員については、経営陣が質問に答えることを粘り強く繰り返し、そうした人の気持ちに応えるようにしている」と言います。

 

人事制度 グローバルで統合

2つ目の「グローバルな人事制度の構築」では、これまで地域別に行われた人事施策を一本化。グローバル共通の人事制度に統合し、人材の登用も「グローバル適材適所」を目指しています。そこには年功序列や年次といった管理は存在しません。背景にあるのはビジネスのグローバル化で、21年度の地域別売上高はすでに日本2割、海外8割となっています。外国籍の従業員の比率も66%まで上昇しており、日本は世界の中の一地域という位置付けに変わりつつあります。

 

【アステラス製薬 グローバル化に伴う従業員構成の変化】地域別売上収益比率(21年年度)|海外80%/日本20%|従業員比率(21年度)|外国籍66%/日本国籍/34%|23年4月1日付<合計/日本国籍/外国籍>トップマネジメント|9人/6人/3人|部門長|/70人/33人/37人|※サステナビリティミーティング(23年2月17日)資料をもとに作成

 

マネジメント層も同様の傾向で、外国籍は今年4月1日の時点でトップマネジメント9人中3人、ひとつ下の階層の部門長では半数以上を占めることになります。経営レベルの会議はすべて英語で、通訳も入りません。次代を担う重要ポジションの後継者を含め、世界中のタレントから人材を登用していくのが基本方針です。

 

同社はグローバルに「後継者プラン」を展開しており、それに基づいて選ばれた後継者候補は部長クラス以上の178ポジションで522人、次長クラス以上の238ポジションで551人。いずれも4割ほどが女性で、外国籍も4割前後を占めています。社外取締役の桜井恵理子氏が「大事なのはショートタームで数を合わせるのではなく、長期的に会社の文化・組織の中に組み込んでいくこと」と指摘するように、ダイバーシティの観点ではいわゆる数値目標は立てていません。国籍も性別も年齢も関係なく、そのポジションにベストなタレントを充てることで、結果としてダイバーシティが進むという考えが根底にあります。

 

評価、報酬、グレードなど、タレントマネジメントのプロセスも全世界で統合しています。目標管理・評価制度については、部門単位では単独ではなく横断型とし、個人単位では「意欲的な目標設定」(自身が達成可能と感じる範囲を超える目標設定)を導入。グレード制度はすでにグローバルで統一されています。報酬面では、賞与支給金額の算出要素を部門業績から全社業績へと変更しました。

 

役員報酬「欧米メガファーマの一角に」

役員報酬には23年度から「サステナビリティ指標」を導入する予定です。具体的には、変動報酬の中の短期インセンティブ報酬である賞与の評価指標に、10%程度の重みづけでサステナビリティ業績を追加しました。サステナビリティ業績は「保健医療アクセスへの取り組み」「人事・組織への取り組み」「製品の安定供給確保への取り組み」「環境への取り組み」の4項目で評価します。

 

同社は19年度に役員報酬制度を大幅に改定していますが、今回は社外取締役からの提言が見直しのきっかけとなりました。報酬の額について、報酬委員会委員長を務める社外取締役の関山護氏は、「売上高が(アステラスの)0.5~2倍のメガファーマを選んで比較」するなどして、欧米の大手とのギャップを埋めていきたいという姿勢を見せています。ちなみに、安川社長の21年度の役員報酬は4億4500万円でした。

 

関連記事:製薬業界「役員報酬1億円以上」は46人…トップは武田・ウェバー社長の18.6億円、第一三共 開示人数1人→4人に増加

 

3つ目は「イノベーティブな組織への戦略的な改革」です。CEO(最高経営責任者)からの階層を減らして組織をフラット化し、迅速な意思決定を促進したい考えで、現在、国や地域によって多段階に分かれている階層を、各部門で調整しながら6階層以下に簡素化することを目指しています。6階層以下の部門は22年4月時点では53%でしたが、今年4月には82%まで拡大する見込みです。結果として1人のマネージャーが管理する部下の数も、平均5.2人から6.1人に増えることになります。

 

これらの取り組みを支える基盤となるのが、データに基づく進捗確認です。人員構成や退職・採用、チームの規模、管理部下数といった組織データを可視化・共有化し、あらゆる角度からの分析や判断を可能とします。データドリブンなアプローチは、当事者意識の醸成も促します。

 

AnswersNews編集部が製薬企業をレポート

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